お約束
「それでマリッサさんは私をどうしようと思ってたの? 素直に答えてくれたら悪いようにはしないわよ?」
「お、お前に答えることなど何もない……」
「素直に答えてくれないなら悪いことするわよ?」
「世界公安局に頼まれて人類進化の阻止のためお前を捕まえるか殺すか命じられた」
「お前?」
「あなたの言い間違いです! 日本語、難しい!」
「そう、いい子ね」
ぷるぷると震えるマリッサさんの頭を撫でる。
ふわふわのブロンドヘアー、手が埋もれて気持ちいいわ。
トイプードル撫でてるみたいね。
「世界公安局って言うのはさっき話した公安の裏組織、世界的に戦争とか牛耳っているあれよね。日本にも支部があるけど表の人達は知らない奴」
「そう。だけど僕も場所は知らない。所詮は使い捨ての道具」
「ふうん……ジョン、アラン、これあげる。好きに使いなさい」
さらさらっとメモを書いて手渡す。
まぁ面倒だけどこれ以上面倒にならないようにね、ちょっとその世界公安局とか言う組織の居場所を特定した。
ものすごくお腹減るのが難点ね……。
他の国もどこにあるかはわかったけど……いくつかは知り合いの家ね。
なんでナイ神父の教会とか、フィリップスさん……クリスちゃんのお父さんの会社に支部があるのかしら。
協力者なのかもしれないけど……まぁいいか。
「えーと、あ、しまった……携帯没収されてたんだ」
ジョンかアランに借りようと思ったけどメモ渡した瞬間に出て行ったみたい。
ドア開けっぱなしで、その先の窓も開いているから……飛び降りたのかしらね、5階から。
元気だなぁ、男子は。
「えーと、どこかな」
仕方ないので影に手を突っ込んで自分の端末を探す。
さっきマリッサさんの情報を読み取る時に展開した明鏡止水の範囲は狭かったけど、私の技量だとこの建物くらいまでしか絞れないのよね。
それ以上は情報量多すぎて頭痛するし、絞ろうとするとから雑巾みたいにねじ切れそうになる。
だからこれが精いっぱいだけど、何となくの場所はわかっているから手を伸ばして適当につかんでは戻していく。
「あったあった、えーとフィリップスさんの番号はっと」
「あ、あなた今何を……」
「ちょっと待ってね、あーフィリップスさん? 刹那です。クリスちゃんは元気ですよー。それより世界公安局とかいう組織なんですけどねぇ、はい、はい、わかりましたー。じゃあよろしくお願いしますね。あ、ナイ神父にもそちらから連絡お願いします。私あの人こわいので、じゃっ」
ふぅ、うまくナイ神父の相手を押し付けられたぜ。
あの人何かと陰謀巡らせてるから面倒なのよね……しかもこっちがぎりぎり何とかできそうな仕事を破格の報酬でやらせようとしてくる。
まったく……。
「あ、なんだっけ」
「えーと……机に手を突き刺してスマホ取り出して……」
「あぁあれ? ゲームのNPCがやってたの真似しただけだから気にしないで」
「えぇ……?」
なぜか困惑してるマリッサさん、まぁいいけどこれ以上取調室にいてもできる事無いのよねぇ……あ、そうだ。
せっかくの取調室、あれができるわ。
ということでピポパと電話番号入力して待つこと数十分。
「あの、これって」
「カツ丼。取調室と言ったら古今東西これって決まってるのよ」
「この量は?」
「食べないの?」
「こんなに食べられない……」
えぇ? カツ丼500杯くらいおやつだと思うんだけどなぁ……。
はい、残り400杯。
「一瞬で沢山の器が空に……」
「丼って言うのよ。そこにご飯を盛ってカツをのせるからカツ丼。美味しいわよ」
「……卵が生に見える」
「半熟よ」
「お箸苦手」
「はい、スプーン」
「……ありがとう…………美味しい……」
「それはよかった」
黙々とカツ丼を食べるマリッサを尻目に次の丼に手を伸ばした瞬間だった。
ドアを蹴り破らん勢いで突入してきて私の手首をつかむ人がいた。
「なにが良かったのかしらせっちゃん?」
ニコニコと、しかし額に青筋を浮かべた祥子さんがそこにはいた。




