黒歴史暴露よくない
昔辰兄さん秘蔵のアダルトビデオを見たことがあった。
あの人は雑食だからAV詰め合わせ福袋などをよく購入しては爆死していたなぁと今になって思う。
部屋のありとあらゆる場所に隠して、もはや隠れてないどころか部屋がAVでできていると言っても過言ではない状況。
そんな中うっかりお父さんが借りた一本をよりにもよって子供用のディスクに潜ませていたのだ。
それを再生してしまった私が不幸だというならその通り、だがそれ以上に内容が猟奇的なもので怖がり苦しむ女性をなぶるというコンセプトのものだった。
後にそれがマニアの間ではかなりの高額で取引される一品だと知って思いっきり顔をしかめたのはいい思い出。
人が怖がる表情を見て悪趣味だと思っていた。
……うん、思っていました。
ごめんなさい辰兄さん、お父さん、そして全国のマニアの皆さん、私は今教え子2人に連れられてジェーンさんの取調室にいます。
「えーと、ジェーンさん?」
「ひっ……」
「本名教えてもらえますか」
「や、やだ……」
「じゃあご職業を」
「い、いえない……」
「どこの国のどこの機関所属ですか?」
「も、黙秘……」
「食べちゃうぞー」
「いやあああああああああああああ!」
うん、なんというか恐怖に引きつりながらも芯を崩さない美女ってそそられるわね。
思わずたれそうになった涎を啜って、じっとジェーンさんの瞳を覗く。
ふむふむ……。
「なるほどねぇ……ギリシャの出身、たしかに顔立ちはアプロディーさんのそれと似ているわ」
「なっ……」
「所属はギリシャ公安局、だけど部署としては国どころか世界を裏から支配しようとする一派……あぁ日本にも支部はあるのね。というか全世界にあるのか……」
「どうして!」
「名前はマリッサ、蜂蜜って意味よね。美味しそう」
「ひぃっ……」
「生い立ちは幼くして天涯孤独、施設に入るけど素行が悪かった……あぁでもそれが功を奏して公安の鉄砲玉になったのね」
「も、もうやめて……」
「14歳の時に書いたポエムが施設に残っている。しかも額縁に入れられて出世頭の残したものとして毎日朗読されているのね……ご愁傷様」
「勘弁してくださいマジで」
「戦の女神の生まれ変わりを自称していた時期もあったと……なかなか激しい時期があったのね」
「うぅ……」
頭を抱えて泣き出してしまった。
黒歴史まで暴いたのはちょっとやりすぎかなと思ったけど、まぁしょうがないわね。
その辺の加減がまだうまくできないんだし。
「あのー、教官? どうしてそこまでわかるんですか?」
「え、読心術。ちなみにジョンは今お腹がすいていてこの近くにあるラーメン屋に行きたい。注文したいメニューは豚骨ラーメンと餃子定食、いいわね。ちゃんと食べてる。それに比べてアランはコンビニのサラダのみって……」
「もう教官が何できてもおかしくないと思える俺は異常か?」
「奇遇だなアラン。俺は世界の深淵よりも教官のが恐ろしいぞ」
「そんなこと言うと二人の黒歴史をスピーカーで街中に流すわよ? お姉さんの下着を盗んだアラン君に、VRMMOで魔王ロールプレイしながら異世界転生してーとか言ってたジョン君?」
「失礼しました!」
「今後一切教官に無礼は働きません!」
うんうん、人間素直が一番ね。
しかしこれ疲れるわね……明鏡止水が世界と一体化することなのは今更だけど、その中から個人の情報を引っ張り出すのは労力に見合わないわ。
とっさに読心術とか言ったけど、この場にいる人全員の経歴が頭に流れ込んできてどっと疲れた。
なんていうんだっけこう言うの、アカシックレコードリーディング?
さっき胃袋諸共吹き飛ばされたから仕方ないけど、まーたお腹減ってきたわ。




