被害者の会終身名誉会長
そのまま宴会は翌朝まで続いた。
王様2人が護衛につけてた兵士やリリーにアルハラはじめて、最終的にみんな飲みまくってリリーが暴れて寝起きのキャシーに締め落とされたところで正気に戻った人達が順番に部屋に戻っていったのだった。
私はどうしようかと考えていたところで朝食を御馳走してもらって、シェフからこれ以上は食材がと泣きつかれたから用意された部屋で一人影移動の訓練。
やっぱりというべきか、これ無機物の影でも移動できるのね。
最初はだいぶ手間取ったけど今なら発動から移動までに1秒程度まで短縮できた。
……でもまだ1秒かかるのよね。
達人相手だと遅すぎるから便利な移動手段くらいにしか使えないわ。
「人の技を真似るか、化け物」
「あれ、英雄さん?」
「汝に罰を与えに来た」
なんか唐突に死刑宣告くらったんだけど、私何かしたっけ……。
「英雄虐殺ならもう罰は受けたと思うけど」
「否、暴食の悪魔王だった者からの依頼、長らく拒否していたものだ。そもそも受ける理由も無し、されど悪魔王を束ねる者からも懇願された」
「悪魔王を束ねる……神様みたいな?」
「然り、我が全てを掌握している邪神。その言葉に背けばこの命は即座に砕け散るであろう」
「そう、じゃああまり痛くしないでね」
「……抵抗せぬのか」
「しないわよ。英雄さんが死ぬよりも私が罰を受けるほうがよっぽどいいわ。かわりにちょっとだけ血を飲ませてね」
まぁ、プレイヤーだから死なないというのもあるけどね。
それでもお気に入りの英雄さんじゃなければこんなことはしない。
「なれば」
英雄さんが全身の力を抜き、そして姿が消えた。
そう思った瞬間には眼前に黒い布がたなびいていて、額に鋭い痛みが走った。
「ったぁ!」
「罰を与えた。これにて執行を完了とする」
「え? 執行? 今のデコピンが?」
そう、ビシッと指先で額をはじかれただけだ。
痛いけど死んでいない。
……なんで?
「罰を与えろとしか言われていない。その方法はこちらに一任されている」
「英雄さんがデレた……?」
「否、これは悪魔王経由の依頼。そしてここからが個人的な恨みだ」
「え?」
再び英雄さんの姿が消えたと思ったら頬に鋭い痛み。
「我が!」
ボディにズンとした鈍痛。
「どれほど!」
顎を撃ち抜く衝撃。
「苦労して!」
ゴキンッという音と共に両肩が外れる。
「その技を!」
ドスッと脇腹に抉られるような痛み。
「会得したと!」
額に先ほど以上の痛み、首から上が吹っ飛ぶかと思うほどの。
「思っている!」
最後に両耳に突き立てられた中指、どろりとした感触は多分私の血。
……痛いけど、死ぬほどじゃないわね。
「いやごめんなさい、私こう言う人の技真似るのだけは得意なのよ」
「ふぅ……ふぅ……次は殺す!」
眼帯でわからないけれど、少しだけ目元辺りが濃くなってたことから察するに涙目だったのかしら。
ちょっと見たいなぁと思ったけど……その前に影移動で逃げられてしまった。
辰兄さん曰く、泣いている女の子は追いかけるべきというけどこれは放置した方がよさそうね。
今度こそ首をはね飛ばされかねない……あ。
「ちょい待ち、血を吸わせてもらう約束はたしてないわよ」
「離せ! 我、帰る!」
……駄々っ子英雄さん可愛いわ。
時系列
地獄大戦→悪魔王が依頼→拒否→大陸英雄戦争→執行→過去の拒否を却下して邪神が命令→執行→掴まって血を飲まれる
ちなみに英雄さんが感情的になっている、というかなれたのも理由があります。
まぁ単純に刹那さんが悪魔王の座について、配下を縛る気がないからです。
なお英雄さんは影移動を使いこなすまでに10年の歳月をかけましたが、それでも英雄NPCの中では早い方です。




