罠
「あの貴族どもよぅ……俺に断りなく英雄とか引き入れやがってさ……」
「貴殿も苦労しているな、うちも惚れた女が糞の見本みたいな貴族に弄ばれて子を孕み放逐されて殺されかけてたところをこの化け物に拾われて……」
「そりゃまた……だが先に手を打たなかったお前の落ち度ではないか?」
「そうなのだ。故に後悔がな……どうしてあの時そうしなかったのかと言われたら、糞おやじの尻ぬぐいをしていたからなのだが言い訳にもならん」
「親の不始末と言うやつか。それを言うなら俺は子の不始末だな」
「ほう、御子息はなにかやらかしたのか?」
「いや、民とは俺の子に等しい。貴族であろうとも俺の子同然だ。故に此度の戦はお前の挑発に乗った子の暴走。その不始末だ」
「なるほどな。というかよくあんな挑発に乗ったな」
「身の丈に合わぬ力を得た結果と言うやつだろう。お前もそこの英雄を手中に置けばわかる」
「死んでも置かないから一生わからんな」
なんか私を指さして酷い会話している。
いや、いいんだけどね?
私が酒の肴にされるのはもう慣れた。
司馬さんとか喧嘩のたびに私のことを持ち出してくるから。
「というか、終戦のこと国に伝えなくていいの?」
「部下がすでに転移魔法で国に通達している頃だろう。俺は最後の晩餐だ、民に裁かれるのを待っている立場故な」
「俺の方はお前が消えた時点で手配しておいた。既に国中に話は伝わっている」
……無駄に仕事のできる男たちね。
いや、仕事ができるからこそ苦労人になったのかしら。
うちで言うなら祥子さんと一会ちゃんがそのタイプね。
私はほら、結構適当だしうずめさんはちゃらんぽらん、クリスちゃんはちゃっかり者だし、縁ちゃんに至ってはトラブルメーカーだから。
というか転移魔法って私たちプレイヤーで言うところのファストトラベルよね。
正直ほとんど使ってないから詳しくないんだけど……。
「転移魔法ってそんな簡単に使えるの?」
「なんだ知らんのか。都市を魔法陣に見立てて地脈の魔力を利用する、子供でも扱える代物だ。海向こうではどうか知らんが、こちらでは緊急時以外使用を禁止しているがな」
「それはどうして?」
「混ざるからだ。大陸に住まう我らは人は人として生きるべきという思想が一般的だ。だが転移魔法は他の生物……過去の例ではエルフと共に転移魔法を行使した結果ハーフエルフとなってしまったものがいた。故に原則的に利用を禁止した、というのが表向き。本音の所では戦争が凄惨なものになってしまうからな」
なるほど……ここの運営がデメリット無しで強いだけの種族なんて用意するとは思っていなかったけど思わぬ落とし穴ね。
ファストトラベルを使ったときパーティに人外がいたら……という。
普段から使っていない人とか、化けオンプレイヤーなら種族が増えたぜひゃっほい程度で済むでしょうけど差別の激しいこっちだと……まぁ面白いことになるわね。
それにしても……。
「あのさ、あまり言いたくないんだけどいい?」
「なんだ化け物」
「男同士の飲み会ってもっと元気はつらつって感じだと思ってたんだけど。バカ騒ぎとまではいかなくともニッコニコで気が付いたら素寒貧になっているみたいな」
「いいか英雄よ。それは下町の裏表なく接し合える民だからこそ許される。王族同士で酒を飲みかわすというのはある種の外交、そのような醜態をさらすわけにはいかん」
「だから他の王様は帰ったのね」
「奴らは所詮その程度の器。酒の外交は一番難しいと言われているが逃げ出すなど言語道断よ」
ふむふむ、外交的には重要だから逃げだすのは論外。
だけど醜態をさらすのも国の威信にかかわるから論外。
なるほどなるほど……。
「ちょっと席外すわ」
一言断りを入れてからギルドホームへの亜空間を開く。
どこからでも移動できるけど、戦闘中とみなされた場合は亜空間自体が開かない。
そんな便利なシステムのこれ、私はもっぱら倉庫に使っている。
というかみんな基本的に居住空間以下の使い方しかしていないというべきかしら。
強いて言うならニーアさんとかテスカトリさんが妙な儀式してて、ロッキーさんとリルフェンさんがコンサート開いてる。
そこに「自由に持って行っていいよ」という扱いで置かれている食料アイテム、これはイベントの時とかクエストとかで余らせたものを置いているのだ。
その量は私でも食べ終えるのに1日かかりそう。
そこからお酒とおつまみになりそうなものを選んで持っていくことにした。
一応メモの代りに壁をカリカリと削って、お酒とおつまみ貰いました、代金置いておくので補充おねがいします、と付け加えておく。
代わりにスパイスの小鉢を置いておいたから許される行為、リーダー特権ってやつね。
辛気臭い飲み会なんかより、もっとパーッと行けるほうが何かと楽しいのよ!
転移魔法:ファストトラベル
亜空間ギルドホーム:そういうシステム
影移動:英雄NPC専用技
影移動(刹那):なにそれ……こわっ




