ギザギザハートの持ち主(自立走行型)
さてさて、ベルゼブブのパーツも手に入ってやることもやった。
堂々の凱旋と行くかという事でリリー達の待つ国……あの国なんて名前なのかしら、まぁいいけど大手を振って戻ることにした。
せっかくなので影移動でね。
覚えたばかりの技は使いたくなるのよ、ビームもそれで連射してたら祥子さんにぶん殴られた。
昔蛇みたいな髪型のお姉さんにあった時も髪の毛の動かし方教わってしばらく遊んでたなぁ……今でも伸ばし続けてるけど、髪を結う時に便利なのよね。
恥ずかしがり屋さんなのか目を合わせてくれなかったから強引に顔掴んで目を見たけど、奇麗な瞳の女性だったわ。
筋肉がこわばる感じがしたけど、見てて吸い込まれそうになった。
他にもいろいろやってきたけど……あぁ、一番使ってるのはあれね。
自家発電。
えっちな意味合いのことじゃなくて、文字通り自分の身体から電気を発せるのよ。
停電になった時とか結構使ってる。
さすがに人類の歴史が長いとはいえ、いまだ災害は脅威だからね。
地震大国日本じゃ結構便利なのよね……マヨヒガちゃんが自我芽生える前に停電が起こったけど、その時はブレーカーに手を突っ込んで発電しながらみんなはお茶の間でテレビ見てたわ。
……寂しかったです。
見かねたのか祥子さんがパン食べさせてくれたのがせめてもの救い、直後鼻にスマホの充電器ぶっさされたけど。
「たっだいまー、ってあれ?」
えーとアルデヒドさんだっけ、戦争吹っ掛けてた側の王様と阿呆王とよく知らないけど中間管理職っぽい見た目なのに豪華な王冠被った人が二人、後何人か鎧の装飾が違う騎士っぽい人と頭よさそうな人達がいた。
んー? わたしリリーの所に影移動したわよね。
ドッキリしかけたつもりだったんだけど、なにかしらこれ。
「もう少し場の空気を読めと言えばいいのか、どんな奇天烈を使ったと聞けばいいのか、お前はもう……ほんともう……」
阿呆王が残念な人を見る目を向けてきている……許せん。
「なによ」
「いや、散々暴れまわったというのは聞いた。戦争中の国、その王族がこぞって顔を突き合わせて終戦協定を結んでいるところにその元凶が現れた。今の俺達の気持ちを30文字以内で答えてみろ」
「えーと……手間が省ける?」
「死ね」
くっ、酷い……。
「リリー、どういうこと?」
なんか柄にもなく豪華な装備を身に纏っているリリーに聞いてみることにしよう。
「簡単に説明するとね、誰かさんが戦場をひっかきまわして英雄を軒並み潰しちゃったから相手側が降伏しに来たのよ。腰巾着連れた状態でね」
「あー、そっかー」
「いや軽いわ。誰かさんってあなたよフィリア」
「そうは言うけど、むかついたんだもの」
「むかついたからって平原を荒野に変えるなと言いたいのだけど……」
「でもリリーもできるでしょ?」
「できるけどやらないわよ。私は一応国に属している人間だし、キャシーもいるからあとが面倒だから」
「それは経験談?」
「うん、若気の至り」
「じゃあ私も若気の至り」
「……若くない女が何を言うか」
「あ?」
阿呆王……今なんつった?
下からのぞき込むようにして、書類にサインをしようとしている御尊顔をがっつり見つめる。
が、頑なに視線を合わせようとしないので苦労人っぽい仕掛け側の王様に視線を向ける。
しかしやはり目をそらされる。
ダメもとで他の王様っぽい人とか、騎士っぽい人とか、頭よさそうな人に視線を送っても全員が避ける。
なんだろうこの、目を合わせたら喰われるみたいな空気。
こんなの小学校の頃動物園に行ったとき以来だわ。
家族で行ったんだけど、私や永久姉を見ると動物はみんな怯える。
辰兄さんを見るとメスが寄ってくる。
まだちっちゃかった縁ちゃんとかはふれあいコーナーでウサギを撫でてたけど、ウサギの眼が死んでた。
一会ちゃんはパンダを見てたけど、笹食ってる場合じゃねえと言わんばかりにパンダらしからぬ速度で逃げられてたし、刀君はゴリラと睨み合いしていた。
唯一まともに動物園を楽しんでたのは羽磨君だけだったなぁ……。
縁ちゃんと並んでふれあいコーナーにいたけど動物に囲まれて、何なら埋もれてたから。
あー、あの疎外感思い出したらちょっと悲しくなってきた。
「なんか悲しくなってきて涙が……涙がビームに……」
「どういう原理よ!」
ピカピカと光り始めた涙を見てリリーが鞘入りのカリバーンで殴りかかってきた。
結構痛い……。




