この後各サイトで「血のバレンタイン」と呼ばれた
「あー、空がきれいだ」
誰かがそんな声を発した。
「青天の霹靂って言うけどさ、青天の魔王ってどうよ」
誰かの返事が絶叫の中でやけに大きく聞こえる。
「俺、このゲーム引退しようかな……」
「そりゃもったいねえな。アイテムだけくれよ」
「やっぱ続けるわ。お前にアイテム譲るより自分で有効活用する」
「残念、まぁなんにせよこの地獄が早く終わってくれることを願うしかできないな」
「俺、今までNPCに酷いことしてたんだな」
「俺も反省した。今後はもっと人のためになるようなクエスト受けるわ」
彼らの会話は、なぜだか私の耳に深く残った。
絶賛大暴れ中の私の耳にね。
「ひゃっはー! 粉砕玉砕大喝采! 無差別ビーム!」
まぁノリノリでビーム撃ちまくってたからすぐに声の主も消えたけどね。
全身の毛穴からビーム放射はなかなかつかれるけど、これ防衛技としても便利ね。
殲滅もできるし一石二鳥だわ。
「誰かあの魔王を止めろ!」
「ふざけんな無理に決まってんだろ!」
「衛生兵! 衛生兵!」
「そんなもんとっくに強制ログアウトくらってるわ!」
「糞運営出てこい! なにが英雄になって化け物を倒すゲームだ! 魔王による殺戮ゲームじゃねえか!」
ん? 今ちょっと気になること言った奴いたな。
えーと……あぁ、こいつだ。
「ひっ」
「ねぇねぇ質問。このゲームのタイトルは?」
「は? なにを言ってんだお前……」
「答えないならあと100回殺すわよ」
「ひぃっ! え、英雄になろうオンラインだよ!」
むむむ……なんか違う。
「キャッチフレーズは?」
化けオンのキャッチフレーズは人間性を犬に食わせろだったはず。
「化け物を殲滅して平和な世界を作ろう……」
ふむふむ……。
「チュートリアルで運営から言われたことは?」
「海の向こうは化け物が闊歩している世界……だから平和のためにこの安全な土地で力をつけて……そして化け物どもを根絶やしにしろって」
「おのれ糞運営」
ぐしゃりと捕まえていたプレイヤーを握りつぶす。
おっと、もったいないので残骸はお口に放り込んで咀嚼。
……まぁ、いたって普通の味ね。
美味しいとは言えないけど、まずいとも言い切れない。
何とも微妙な味。
しかしまさかそんな罠を仕掛けてくるとはね……。
確かに最近化けオンのPvPは減ってきていた。
その打開策が必要だとは思っていたけど、同じゲームを別のタイトルとして配布。
元ゲームのプレイヤーには第二陣として紹介しつつ、その第二陣は別ゲーをやっていると思っていたと。
たぶん化け物プレイヤー選んだ人とかは普通に化けオンとして紹介されるけど、英雄キャラでこっち側の大陸選んだ人にはそういう風なチュートリアルが用意されているのね。
つまりプレイヤー揃ってはめられたわけだ。
はっはっはっ。
「うん、とりあえず憂さ晴らしに全員1000回殺すわ」
そして食うわ。
そう言った瞬間、その場にいた全員が強制ログアウトした。
……逃げるな卑怯者!
引退者が出なかったのが最大の不思議。
はかったな運営!
ちなみにこの日はバレンタインでも何でもないです。




