人質も案内もいらんかったんや
とりあえず状況を整理しましょう。
阿呆王の国は周辺諸国から戦争を仕掛けられていた。
そういう風に仕向けたのは阿呆王だけど、その元凶は先代の王様。
で、戦争を吹っかける側は当然勝算があるか、追い詰められていたとみるのが歴史的には正しいはず。
今回は前者で、英雄とか言う種族のプレイヤーで有力なのを引き込んだ主犯国家がここ。
王様は英雄という手駒を持っている貴族に強く出られず流されて、本人は責任をとって罰を受けるつもりでいる。
他の国を扇動したのか、それとも勝ち馬に乗ったつもりだったのか知らないけどそっちは英雄さん達がなんとかするはず。
しなかったら私が動く。
それを嫌うなら絶対に動くから、結果的にこの戦争は終わるわね。
よしよし、となれば後は……どうしよう。
「ねぇ王様。戦場って他の場所にもあったりする?」
「戦場だと? かの国との国境線上にある平原が主だが……他には小競り合い程度のがいくつかあるな」
「小競り合い?」
「あぁ、とはいえ大層なものじゃない。砦に籠って睨み合いを続けている程度だ。死者はおろか怪我人もいない。故に貴族の雇い入れた連中もそこにはいない」
ふむふむ、主戦場はプレイヤーが闊歩している場所のみ。
そして彼らの目的は経験値稼ぎか……。
「ねぇ、主戦場で暴れてる連中相手に暴れてもいいわよね」
「好きにしろ。それを止める力もなければ、お前はこの国の人間でもないのだから縛ることなどできんよ」
「そう、ならちょっと派手に暴れてくるわ」
ふふふ、本当の英雄の力を見せる時ね。
と言ってもあくまでも称号でしか持ってないし、それっぽい事はあまりしてこなかったんだけどね。
たまにはそういう風に振舞うのもいいし、ある種のラスボス降臨みたいなことしても面白そうだわ。
さてさて、じゃあまずは……ふと思ったけど英雄さんが使っていた影移動。
あれ真似できないかしら。
魔法の体系にはないんだけど明鏡止水使えば再現できそうなのよね……。
まずは世界との合一、私という個を世界という全に溶かし込む。
そして溶けた私は影という媒介をつかい、別の影へと移り行く……昔のロボット漫画で言うところのドアを開けたら別の場所的なあれ。
そして世界から自分を切り離して再び個となる。
「できたー」
うん、影移動便利ね。
リアルでも使えそうだけどもうちょっと練習したいわ。
時間がかかりすぎるし疲れる、何よりちょっと加減間違えると自我が消滅しそうな感覚がしたわ。
「うわっ」
おっと、突然現れた私にびっくりしている人発見。
まぁ誰かの影を出口にしたからね、そりゃ人はいるでしょうけど……ふむ、見たところプレイヤーね。
NPCとプレイヤーの見分けって結構難しいんだけど、最近は勘でわかるようになった。
必要なら噛んでわかる。
歯ごたえが違うのよ、血の味とかもね。
「レディースアーンドジェントルマーン、今回の戦争では随分と暴れまわってくれたそうですね」
なんだなんだと人がこっちに視線を向ける。
恐らくはリスポン地点、デスペナ受けた様子の人達が武器の手入れなどをしながらこっちを見ていた。
「海向こうから来たプレイヤーのフィリアです。こういうのはお仕置きNPCのお仕事なんだけど、あっちはあっちで忙しそうだから私が代わりに来ました」
「あ、あんた!」
「んお? あぁ、さっきの」
「お前なにしやがった! せっかくレベリングしてて調子もよかったのにゲブッ」
「あんまり騒ぐと酷い目に遭わせるわよー」
とりあえず上顎と下顎を分断、光の粒子になって消えていくそれを眺めて、そして再びその場に腰を抜かした状態で現れるのを見てリスポン地点だと確信。
「あなた達が面白半分に、経験値稼ぎと称して人殺しをしていたので私も参戦することにしましたー」
「はぁ?」
「ふざけんな!」
「取り分が減るだろうが!」
おやおや、ここに至ってまだ話を理解していないおバカさんが沢山。
「ご安心を。私が参戦するのはね、あなた達の敵としてよ」
異形化を使い、巨大化する。
この状態だと武器も防具も意味を成さなくなるからはっきり言って弱体化なんだけどね。
でも見た目で威圧感与えられるのは大きいでしょ。
だからその状態でプチっとプレイヤーたちを潰した。
ふふっ、パーティの始まりね。
……またなんか変な能力生えた。




