ゲリとデート
行動開始直後
「ねぇゲリさん」
「そのあだ名不名誉な気が……」
「長いじゃん、ローゲリウスって。それに愛称としてこれ以外にある?」
「……ロウとか」
「面白くないからゲリさんで、いいよね?」(にこやかスマイル美女)
「ア、ハイ」(スマイルよりも牙が気になるとかげ)
「ゲリさん、あのお店何?」
「あーありゃ投擲に使える物扱ってる店だよ、砲丸とかナイフがメイン。珍しいものだと分銅っていうのかな、なんかそんな感じのものも置いてある」
しばらくゲリさんと町中を歩き回っていたところ、なんだかんだで意気投合して仲良くなりました。
フレンド登録済ませたし、あだ名には最初苦言を呈されたけどとかげよりはいいかと承諾してくれた。
お礼にさっき手に入れたドラゴンテイルで料理を作ろうかと提案したけどお断りされた。
さすがに自分の肉を食べるのは忌避感強いらしい。
わからないでもない。
「それって攻撃力どんな感じなの?」
「石よりはましってレベルかな。砲丸はかなり筋力の強い種族じゃないとまともに投げられないからあまり使い道ないって言われてる。人間じゃまず無理だね」
「へぇ、ナイフは?」
「ナイフはまっすぐ投げる技量がないと扱えないらしい。一部リアル技能持ってる人しか使えないからこっちも産廃。分銅がちょうどいい重さで投げやすくて、牽制にもなるんだけど鉄だから化け物相手だとね……」
「あぁ、威力不足なのね。つまるところ人間が投げる石より強いけど、化け物が投げる石の方がもっと強いってことでいい?」
「それで大体あってる。ちなみに俺達みたいな飛べる種族は砲丸大量にインベントリに収納してることが多いから下を通らないようにするといいよ。俺にやったみたいに背中に張り付くのは定石だね」
「インベントリに……空爆みたいな感じに使うの?」
「正解、といっても1人相手に使う機会って滅多にないから多人数の敵相手の用心だね。俺なんか特に目立つから、レイドモンスターと間違って攻撃されやすいのよ。今でこそブレスがそこそこの威力になったからいいんだけど、最初のうちは山岳地帯で拾ってきた石とか岩落としてた」
ほほう、なかなか興味深い話が聞けた。
なるほどね、お金を使わなくても使える物は沢山あるわけだ。
岩を落とすだけなら私にもできそうだし通常フィールドに行って採ってこようかな。
……いや待てよ?
「ねぇゲリさん、その山岳地帯って鉱山?」
「鉱山……なのかな、一応採掘はできるっぽいよ。極稀に銀を保有する鉱石が出てきたりするらしいから。基本は鉄とか鉛だけどね」
銀か……近寄らんとこ。
うっかり触れて死ぬのも馬鹿らしいというか、そもそも近づいただけで死にそうな予感がする。
私が触れて大丈夫かどうか調べるカナリヤもどきのお仕事とかできそうだけど、料理売った方がもうかるからやらないわ。
「ちなみにさっき言った分銅とかを銀で作ってる金持ちもいるから注意ね」
「あ、それは嫌ね。現在進行形でβプレイヤーぽい銀装備の人とか見たら街中でも逃げてるし」
「それがいい、俺も何度狙われたか……」
「お互いデメリットガンガン積んでると大変ね」
「そうなんだよなぁ、フィリアさんなんかは昼間の行動に制限がかかるし、俺は俺でそもそもの活動時間に制限がある。どっちも短期決戦向きなんだよね」
本当にそうなのよね。
ちなみにゲリさんは全属性の精霊も取って、同時にデメリットも取得したから何度も死んだらしい。
ただデメリットの抜け道みたいなのがあって、子竜化している間は精霊のデメリットが相殺されるとかなんとか。
能力全般ダウンして、一部のスキルが使用不可能になる分精霊の持つ炎とか水の力がかなり抑えられるらしい。
その結果受けるダメージを自動回復が上回るから大丈夫なんだとか。
「そういえばゲリさんレベル20のエネミーとか言うの遭遇した?」
「まだそれっぽいの見てないなぁ……レベル20ってことはマジでやばい奴だと思うんだけどね。山みたいにでかいやつとか」
「ゲームの定番よね、とにかくでかいボスって」
「そうそう、だけどまだそういうの見てないんだわ。ずっと空から探しているんだけどさ」
「ゲリさんの子竜化って外のフィールドでも使えるの? 通常形態だと時間制限あって死ぬんだよね」
「うん使える、最初は小さくなるのはいかがなものかと思ったけど元の姿が戦闘形態みたいでかっこいいと思ってからはがっつりと」
「それはわかる。なんかこう、ロボットアニメの補助パーツガンガン積んで重装備になるのと似てる気がする」
「あ、いいねその例え。あれも浪漫だよねぇ」
ゲリさんの同意を得られて少しうれしい。
古いロボットアニメが好きなんだけど、超重装甲化していく機体とか大好きだから。
逆に装甲なんかほとんどない、当たれば死ぬような機体も大好きだけどね。
「まぁたぶんイベント後半での出現なんじゃないかな。序盤からうろつかれても邪魔だし」
「そういえばイベントの趣旨としてはプレイヤーからのアイテムドロップを体験できるのがメインだったわね。なら確かに最初のうちは出ないんでしょう」
「気がかりなのは化けオンの運営がド畜生だから、そういう事も平然とやりそうなんだけどね」
「でもゲーム的に不評買うような真似はさすがにしないんじゃない? そもそもの趣旨としてレベル20の敵っていうのはこのくらい強くなれるって指針にすぎないでしょうし」
「そうなんだけど、それすらやりかねないと思われてる運営だよ? 奴ら普通に考えたらアウトなこともその場のノリでやりそうでさ……ゲームのキャッチフレーズからしてやばいじゃん」
「人間性を犬に食わせろだっけ? あれはさすがにないわよね」
「……フィリアさんは結構食わせてると思うよ。出会い頭に眼球えぐって、自分の腕千切って投げつけて、ドラゴンの肉を踊り食いとか普通しないから」
「でもあれが正攻法だと思うけど? 勝つためなら努力は惜しまないし、油断せず使える手段は何でも使うのはゲームの鉄則じゃない?」
「そりゃまぁ……でも鈍いとはいえ痛覚エンジンも積んでるんだから、ためらいなく自傷できるのは怖いよ」
「さっきからゲリさんいろんなものに怖がってるよね、もしかして結構怖がりな人?」
「まぁ……職業柄慎重になってこそってところがあるから。俺機械工なんだよね、中でも品質管理関係の仕事してるからあれこれ慎重になるよ。おかげで銃撃てるホラーゲームでも弾が余るくらいに慎重」
「へぇ、結構意外。ゲリさん強い武器とかあったらバンバン使いそうなのに」
「後先考えないって言いたいなら正解。最初ドラゴンになりたいって思ったときはデメリットレベル積まなかったせいでレベル50分の経験値を奉げるように言われてレベルアップできない状態だったから。掲示板で相談したらさすがにヤバイから何かしら積んで来いって話になってリビルドして今に落ち着いた。ちなみにその時言われた言葉が、このままだとお前ただのやわらかとかげだぞ、だったからハンドルネームがやわらかとかげなの」
「それでかぁ……たしかにゲリさんの鱗はビスケットみたいにサクサク食べられたわね」
「食ったんだ……俺が見えてないところで食ってたんだ……しかもビスケットなんだ俺」
「うん、美味しかったわよ?」
「さいですか……あ、服屋見えてきた。あそこの白い屋根の建物がそれ」
「おぉ、あれが。ありがとうゲリさん、これお礼のアイテムとお金ね」
インベントリから取り出した鬼の尖角と5万ルルを手渡す。
所持金の半分だけど、惜しいとは思わない。
鬼の尖角に関しても私に扱いきれるかわからない以上持っていてもねぇ……。
だったらゲリさんの懐の足しにでもしてもらった方がいいわ。
「こんなにいいの?」
「うん、振り回しちゃったしね。思えば迷惑だったでしょ」
「思わなくても怖かったけど、今は楽しいからいいよ。なんかデートみたいだったし」
「はっはっはっ、ゲリさん女の人口説くの慣れてない? どこが臆病なんだか」
「このくらいの軽口叩ける程度には仲良くなれたと思ってるんだけど、違ってた?」
「仲良くなれたのは事実だけど……ペットの散歩気分だったかな私は」
「それはそれで特殊なプレイみたいで……やべ」
「ん? どしたの?」
「今の言葉ハラスメントコードに引っかかったらしくて運営からおしかりメール届いた」
「あらら、気を付けないとだね。それじゃゲリさん、ありがとね」
「いやいや、こちらこそ町の案内でこんなにもらえて助かったよ」
「そう言ってもらえると気が楽だわ。じゃあまた何かあったらフレンドチャットなり、フレンドコールなりで呼んでね」
「いざという時は共闘も視野に入れてかな? その時はよろしく!」
「こちらこそ」
ぱちんと、手と翼を打ち合わせてゲリさんとは別れた。
いやぁ……愉快な人だったな。
なお動画にする際にゲリさんにモザイクをかけるかという話をしたけど、本人は普通に映して大丈夫といってくれたので動画編集の手間が省けたと喜んでいたけど本人は後々掲示板で無茶苦茶いじり倒されたそうだ、南無。
あ、鬼のお兄さんとかオークさんはモザイクかけて誰だかわからないようにするよ?
この二人そろって少年心を忘れていません。
なお運営のおしかりメールは基本的に15歳未満に聞かせたくないセリフとか吐くと飛んでくるものと思ってください。
エロ方面は同意があっても大体アウトです、オンラインゲームのフィールドは公共の場。
ただし今後出てくるかもしれない個人の持ち家ではある程度までは許されます。




