いい人に見えるけど馬鹿なのよこの王様も……
「そも、英雄とは何ぞや。お前はその真実を知っているか」
「知らないし割とどうでもいい」
「そうか、そういう者が英雄と呼ばれるようになるのだろう……。だが知っておけ、英雄とは人柱だ」
「生贄ってこと?」
「そうだ。人並み外れた力を得るためにその他の全てを捨てた者、理由は数あれど大抵はろくな結末を迎えん」
「でしょうねぇ」
そりゃまあ身に余る力を得て、代償に全部差し出しますなんて契約したら悲惨なことになるでしょ。
そういう意味だと私とかの遺伝子狙ってるどこぞの国の人とか、運営や公安にちょっかい出している人はリアルで英雄候補と言ってもいいのかしら。
その時はその人だけじゃなくて、世界を巻き込みかねない事態になりそうだけどね。
「お前は何を差し出した」
「何にも差し出してないわよ? 自由に動けるように悪い人とか、邪魔な人をさっくりやってたら英雄って世界に認められた……と言えばいいかしら」
本当はシステムに任命されましたって言えたらいいんだけどね。
そういう言い回しすると曲解されかねないのよ。
ある程度の、例えばステータス画面でキルログ見せるとかそう言うのはセーフなんだけど、あまりソフトウェアなどに突っ込んだ話すると向こうは首をかしげる。
実にNPCらしい反応だけど、リアルで「実は設定的にそうなってるんですよー」なんて言った日には頭おかしいとしか言われないでしょうしね。
似たようなものよ。
「くはっ、世界が認めるほどの猛者か。英雄なんぞにならなければその身に降りかかる火の粉の数も減っていただろうに」
「どういうこと?」
「英雄とは古来よりトラブルの中心にいる。どこにいようとも、中心に据えられる存在だ。何気ない行動ですら周囲にとって大きな転機を呼ぶこともある。覚えはないか?」
……めっちゃ心当たりあるわ。
え? なに?
つまり英雄の称号持っているとイベントに巻き込まれやすくなるってこと?
たしかにそれらしいフラグはちょいちょい見かけたけどさ。
キャシーから始まった一連の騒動がここまで発展したけどさ。
そんな桶屋理論……はかったわね運営!
「あれ、でもそれだとあなたたちが確保してた英雄は?」
「奴らは所詮英雄の血を宿しただけ。不完全故に世界から認められた存在ではない」
なるほど、種族的には英雄だけど称号は持っていないという事ね。
つまるところ、ちょっと強い人間プレイヤーと大差ないわけだ。
……刀君なら簡単に倒せそうだったし、実際普通に弱かったものね。
「さて、話は終わりか? ならばこの首をはねて戦いを終わらせるといい。だが一つ頼みを聞いてもらえるか」
「言ってみなさい」
「民の安全と、生活の保障、国はどうなろうとも彼らの自由と平穏を約束してほしい」
「そう、ならそれは自分で喧嘩吹っ掛けた相手にお願いしなさい。賠償金とかでちょっともめるかもしれないけどね」
いや、別に私この人殺すために来たわけじゃないのよね。
実際さっき言った通りただの迷子だったわけだし。
「……殺さぬのか?」
「そういうつもりでここに来たんじゃないもの。ただ単に出口教えてくれそうな人、それでいて周囲からの攻撃を躱せる人質になりうる人を探してただけ」
「変わり者だな。お前ならばこの城の兵など紙きれのごとく吹き飛ばせるだろうに」
「戦争の黒幕をどうにかするつもりでここに来たわけだし、余計な被害者だすつもりはなかったのよ。……あれ、でも他の国からも戦争吹っ掛けられてるって言ってたな。もしかしておたくが先導した?」
「英雄などという身に余る存在を手元に置いた貴族どもの暴走だ。それを抑えきれなかったこの身にこそ咎はある」
「堕ちた英雄と穢れた英雄が裁かなかったというだけであなたは悪くない証拠になるわよ」
「はっ、最古の英雄の名を出すか。しかし事実なのだろう、嘘を語る眼には見えん」
「さっきまで一緒にいたんだけどね、嫌われちゃってるのよ」
「くははっ、英雄の仲たがいとはまた面白い話だ。しかしそうだな……英雄の裁きは受けなくとも、民の裁きは受けよう。それが王としての役目だ」
「……立派な王様しているのね。気に入ったわ」
うん、あの阿呆王よりもこっちの方が好きかもしれない。
戦争に加担するつもりはないけどね、ちょっとくらいなら手を貸してもいいかもしれないわ。
ただ、罰だけは受けてもらわなきゃだけど。
「ちなみになんで貴族は英雄を集められたの?」
「金で雇い入れたそうだ」
「うわー、資本主義万歳ね」
「まったくだ」
本日3回目ワクチン接種を受けてきました。
ファイザー×2からのモデルナなので発熱の可能性が高く、故に明日の更新はいつも通り行わせていただきます。
発熱程度でなぁ! 更新をなぁ! 止めると思うなよ!




