そこ比べ始めたら誰も勝てない
「侵入者だ! 殺せ!」
ドアを開けて外に出るとそこは別種の戦場だった。
廊下を走り回る人たちがみんな武装してて、何ならメイドさんも武装してる。
そしてその全員が私に武器を向けているのよ。
「歓迎ご苦労。一人の英雄として賛辞を送ろう」
せっかくだからちょっとロールプレイ決めてみましょうか。
視聴者サービスって大切よね、後でブログに載せた時こういうのやってると結構評判よくなるのよ。
「英雄だと! どこの国からきた!」
「海を越えた先、魔の者と化け物が跳梁跋扈する土地。そしてこの世界とは別の空間にある地獄」
「海を越えた先だと? リヴァイアサンとバハムートがいるはずだろう! 超えられるわけがない!」
「あの魚共ならなかなか美味しかったわよ。海では魚、地獄では悪魔、大陸に入ってからはスパイスとかばっかりだったから……」
ぺろりと口元を舐める。
思い返すとお腹減ってきたなぁ……。
「そろそろ新鮮なお肉とか食べたいわよね」
ちなみに私の中で悪魔は干物にカテゴライズされている。
美味しいんだけどちょっと硬いのよね。
「やれ!」
ナイフを構えたメイドさんはそれを投擲、後に続いて剣を持った鎧姿の騎士みたいな人達が突っ込んできた。
避けるまでもない、というか今下手に動くと全身はじけ飛びかねない。
だから飛んできたナイフは全部叩き落として、騎士の剣は根元からへし折る。
てこの原理を利用して挟むように殴りつけると相手の握力とか関係なく武器をへし折れるのよね。
「なかなかどうして、退屈なものね」
「ば、化け物め!」
叫んだ男性、さっきから指示を出してるから偉い人だと思うけど、その人が銃をこちらに向けて撃ってきた。
うーん、懐から出すあたり護身用なのかしらね。
掴んでもいいけど弾丸の素材によってはダメージになりかねないから、こっちもロストガンを抜き撃ちして空中でかち合わせる。
違わず正中線をとらえたそれは、ロストガンの方が威力があったためか勢いを衰えさせることなく飛び続け男性の持っている銃を破壊し、そのまま撃った数だけその身で受け止める事になり、血反吐を吐きながらその場に倒れ伏した。
「さて、通してもらえるかな?」
指揮官を失い、武器も失った人達はそれでも私を包囲し続けている。
なかなかの忠誠心ね……でもまどろっこしいのは嫌いなのよね。
「もう一度だけ言ってあげる。道を空けなさい」
今度は明鏡止水を利用した状態で、全身からいわゆる「気」を放出する。
雑な言い方すると殺気を全方位にぶちまけたんだけど……。
「あら?」
殺気に当てられた人たちがバタバタと倒れ始めた。
メイドさんとかはともかく、騎士とかまで倒れるってどうなのかしら……。
んーと、かろうじて泡吹いて気絶しているだけね。
心臓動いているし、呼吸もしてるからセーフ。
邪魔な鎧をはぎ取って、メイドさんはスカートの中を確認してから気道を確保して建物の中を探検。
殺気の影響が思ったより広範囲に広がってたみたいで道中みんな倒れてる。
面倒だけど一人一人気道確保して、上を目指して歩いていった。
そして見つけた。
「豪華ねぇ……」
いかにもな様子の部屋、人の背丈の数倍はあるだろうという扉。
番兵として立っているであろう2人は倒れ伏しているのでスルー。
「よっ」
あまり力を込めすぎないように、軽ーく押す。
その瞬間だった。
バキンッという鈍い音が響き渡り、扉が倒れた。
「……随分と変わった開き方するのね」
「そんなわけなかろうが」
「あら?」
起きている人がいる。
その事にも驚いたけど、普通につっこみ入れてくるとかなかなかの強者ね。
「アルデヒド・ゴッド・ウィル。この国の王だ」
「魔の者フィリア、穢れた英雄にして悪魔の大公。訳有ってこの場に馳せ参じ、そして迷子になった女よ」
「……英雄か。まったく神々もくだらぬものを作ったな」
そう言いながら嘆息する王様。
なんだろう、この人からは悪い人特有の気配がないわ。
具体的に言うとリリーの国の王様は善人だけど腹黒い人、リリーも同類、領主だったヴォイドはただの屑、そういうのは何となくでしかわからないけどさ。
この人は祥子さんと一緒で自分の役割に一生懸命で、できる範囲で頑張っているだけのような、そんな不器用な生き方してる人に見えるわ。
可愛さは祥子さんの圧勝だけどね!




