奥義人任せ
「かたづいたか」
「あ、英雄さんも終わった?」
「あぁ、この通りだ」
地面に転がるぼろきれ、もとい男子プレイヤー二人を足蹴にしながら英雄さんは応える。
うん、結構フラストレーション溜まってたみたいね……。
あまりイライラするのはよくないのだけど、そんな正論が欲しいわけじゃないでしょうし黙ってましょう。
「さて、後はコピーが来るのを待つだけだけど……」
「あやつは戦場のあれこれを食い散らかしているだろう。しばし待たねばならぬ」
「食い散らかすって……」
ご飯を食べる時はちゃんと感謝を込めて食べるべきでしょう!
さっきの触手の食べ方といい、ちょっとばかりお説教が必要かもしれないわね。
「馬鹿な……我らの英雄が……」
「神よ……」
「なんたることだ……」
あぁ、すっかり忘れてたけど家具の下敷きになってた人達が起きてきた。
まぁ忘れる程度にはどうでもよかったんだけどね。
「き、貴様ら! このような事をしてどうなるかわかっているのか!」
「わからないわねぇ。これから死にゆく者達の囀り、あなた達が聞いてこなかったものを私達が聞くと思う?」
「なんだと!」
「あなた達はもうすぐ死ぬ。遠からず、なんて言葉は使わない。死神はひたひたと、もうあなたたちの背後に立っている。その首に鎌を突き付けいつでも切り落とせるような状態にいる。カウントダウンはもう始まっているのよ」
「ふざけたことを言う!」
「本気よ。ねぇ英雄さん?」
振り返って尋ねてみると口元を微かに歪ませて不器用な笑みを見せる英雄さん、それが何よりの答えだった。
「さっきから聞いていれば英雄だなんだと! 不遜であろう! 真の英雄は我らが手駒であろう!」
「本音が出たわねー」
手駒ねぇ、互いに利用する関係だったんでしょうけど……。
察するに社会経験が薄い彼らはうまく取り込まれていた感じかしら。
同情はしないけどね。
無知は罪よ……知らなかった、その言葉は時に何よりも重い罪になるからね。
「言っておくけど、この人は堕ちた英雄その人。いわゆる孵化したてのひよこみたいな英雄なんかと違う歴戦の人物よ?」
「堕ちた英雄だと? そんな御伽噺を信じると思うのか!」
「御伽噺?」
英雄さんに向き直る。
「過去、まだ駆け出しだった頃の話だ。神と悪魔の意向によりこの地に住まう者も含めて数多くの悪を切り捨てた」
ほうほう、つまり昔はNPCもモンスターもぶった切ってきたわけだ。
今でこそその限りではないけどやんちゃしてたと言う事ね。
うん、辰兄さんの若気の至りで学年を自分のハーレムに仕立てた時みたいなものか。
今は女性ばかり相手にしてるけど、昔は見境なく性別はもちろん種族も関係なく、山に潜って猪や熊とハッテンしてたらしいし。
「なにを考えているか知らんが、甚だ不本意な気配を感じた」
「キノセイヨー」
「あとで切る」
「すみませんでした」
全力の土下座を英雄さんにぶち込む。
これでだめならせめて死ぬ前にその血を飲ませてもらおう……。
「む……」
ふと、英雄さんが肩を揺らした。
それと同時に地面から黒い影が浮き上がり、徐々に人の形をとり、そして私そっくりな姿になった。
コピーの登場だ。
「ようやく来たか穢れた英雄。奴らが首謀者だ」
英雄さんの言葉にコクリと頷いたコピーは、口の端を吊り上げてお偉いさんNPC達に近づいていく。
その進路上にいた私は横に避けて、差し出すように彼らの前を譲った。
「楽に死ねるといいわね」
最期の言葉を投げつけて、背を向ける。
「や、やめ……」
ゴリッという鈍い音が響いた。
直後に悲鳴とも呼べない叫びが木霊し、そしてしばらくゴリゴリポキポキという音、咀嚼音、そして悲鳴の三重奏の中彼らは血だまりを残して姿を消した。
「さて、あとはこれらをどうにかするだけね」
その場に倒れ込んでいる三人のプレイヤー、彼らは強制ログアウトで動かぬ人形になっていたり、手足の健を切られたのかもぞもぞと動いているだけだったりする。
「なんなんだよお前ら!」
「くそっ! ハルファ! まだ戻ってこねえのかよ!」
んー? さっきいじめた子、ハルファっていうのかしら。
どうでもいいけどね。
「無理無理、強制ログアウトくらうとその日はログインできない仕様になっているから」
「ふざけんな! どんなチート使いやがった!」
「別に何も使ってないわよ? 単純に精神的に追い込んだら限界迎えて落ちちゃっただけだから」
「くそがっ!」
プレイヤーの片割れがそう叫んだ瞬間だった。
光の柱が目の前に現れた。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。ゲームマスターでーす」
……非常に場違いなテンションで。
3人組の紅一点はこの後1週間ほどオンライン断ってました。
強制ログアウトした時にVOTの中汚しちゃっててクリーニングしてた。




