モラルの低下と若者の人間離れ
今回は短い話です、ご了承ください。
英雄さんの影移動とやらに連れられて、見知らぬ部屋にたどり着いた。
質素というか、余計な調度品がない部屋。
それでも使ってる家具なんかは結構豪華ね……。
「誰だ!」
「どこから入った!」
「英雄を呼べ!」
んーと、この騒いでいる人たちはNPCよね。
彼らは私達の処分対象外だから放置してもいいんだけど……。
「望み通り英雄としてこの場に馳せ参じた」
おぉう、堕ちた英雄さんの皮肉が刺さるぜ。
たしかにこの人英雄だし、私も一応英雄の肩書を持っている。
「殺せ!」
誰かが口にすると同時に、英雄さんの姿がブレた。
文字通り、目にもとまらぬ速さで叫んだ男性を気絶させて戻ってきたのだ。
長い毛足の絨毯が僅かに焦げているところを見るとまぁ……相当な摩擦熱だったのね。
結構力任せだけど繊細な加減はできているみたい。
「くそ!」
また誰かが叫んだかと思うとシャランという金属質な音が響いた。
おそらく剣を抜いたんでしょうけど、またもや英雄さんがブレると同時に倒れる男性。
いやー、元気ねぇ。
そんなに元気なら自分で戦場に行けばいいのにと思わないでもないけど、この人たちのお仕事は適当な指示を出して椅子を尻で磨くことなんでしょうね。
まったくもって反吐が出るわ。
「おいおい敵襲かよ」
「よくもまぁこんなところまで。どこの国から来たんだろうねぇ」
「どうでもいいから早くレベル上げたいわ。そろそろ海の向こうとかも行ってみたいしあの国まだ落とせないの?」
数秒の睨み合い、その静寂を破ったのは軽薄な言葉を口にする男女3名。
見た目から察するに結構若い、というか幼い。
学生さんかしら……縁ちゃんは小柄だから指標にするのは難しいけど、あの子と同じくらいかもう少し下。
大学生か高校生くらいね。
こんなモラルの崩壊してるゲームに参加する辺り結構ぶっ飛んだ精神していると思うけど……あ、NYA48やロッキーさん、あるいはプロゲーマーのファンだったりするのかしら。
まぁ、知ったこっちゃないけどね。
「女は任せる」
「いいの? そっち2対1になるけど」
「構わぬ。むしろ汝にむやみな手出しをされる方が迷惑だ。被害は最小限に抑えたい」
「そう? じゃあ死なない程度にいたぶる感じでいいわよね。とどめは英雄さんのお仕事でしょ?」
この人に殺されるとレベルが下がるというデメリットがある。
それを考えると私が手を下すよりもよっぽどダメージが大きいはずだ。
「わきまえているならばいい。汝は汝の仕事をせよ」
「はいはい、じゃあ久しぶりに……穢れた英雄フィリア。魔の者の代表として、そしてこの地に住まう者への制裁を加える」
「堕ちた英雄、名を捨てた女。神と悪魔の意向により粛正する」
初めての共同作業が始まった。
……ケーキ入刀はよく聞くけど、人間入刀はあまり聞かないわね。
なんとも色気のない……後でちょっと血吸わせてもらいましょう。
ナマモノじゃないけど、かわいいかわいい英雄さんの首筋に噛みつくのはちょっと背徳的でたまらないのよね。
逆ハー英雄たちはこの事態を乗り切れるのか!
次回少女は地獄を見る
お楽しみに。




