作者「胃が痛い……」
本作品は戦争を助長する意図はありません。
フィクションとしてお楽しみください。
目に映った敵は倒す、ただそれだけの作業が始まった。
NPC? プレイヤー? 関係ない。
負傷者? 介錯するだけだ。
死者? 踏みにじる。
逃げ惑うならば、殺されたことにも気づかないように殺す。
向かってくるならば、やはり気付く間もなく殺す。
あぁ、いつ以来だろう……戦争の残酷さは知っていた。
身をもって知っていたし、なんなら戦場で武器を手にし、我が身を守るために戦ったことだって珍しくない。
今時こんなことをした経験のある日本人は少ないだろう。
戦いは嫌いだ、けれど自分の命の方が大切だ。
だから戦った。
けれどこれは違う、人の命を何とも思わず経験値稼ぎの道具として、そして裏にいる人達……プレイヤーらしいけれどそれもどうでもいい。
彼らは私利私欲のためにこんな大規模な戦場を作った。
まぁ、それもどうでもいい。
けれどね、これでも結構怒っているのよ。
その私利私欲のために歪みが生まれ、その歪みの中でリリーとキャシーは苦しんだ。
友達になったのはつい最近、それでも友達が凄く傷ついた。
当然、あの糞王様にも腹が立っているし先代にもむかついている。
だけど彼らは私利私欲を裏に隠し、大義名分を掲げて国のために動いていた。
それは王のあるべき姿だと思う。
戦争なんてのは大嫌いだし、戦争を起こすような奴は無限地獄に落ちればいいとすら思う。
それでも、手の届く範囲だけでも幸せを与えて守ろうとしたのなら……それは悪と言い切れるものじゃない。
真の悪は大義名分をも私利私欲のために使うどす黒い存在だ。
正直どっちもどっちなんだけど、似て非なるもの。
片方は自分の欲望のためだけに歪みを産み、片方は自分の欲望と共に民衆の望みも叶えるために歪みを産む行為。
結局のところ人が動いている以上こういう歪みは産まれるし、過去に生じた歪みが原因で争いの火種になることもある。
そもそも歪みなんてなくても嫌悪感だけで戦争なんてできるからね。
だけどさ、その歪みを形はどうあれ正すための行いもまた戦争なのよ。
戦争が歪みなのに、戦争を終わらせるために戦わなきゃいけない何でいびつ過ぎるけどね。
それを経験値稼ぎだなんだと、遊びのために裏で糸ひいてる連中は確実にぶっ殺す。
英雄さんと戦うことになったとしても、二度とそんなことしないと泣いて命乞いするまで殺し続ける。
それでゲームを引退しようと、私がバッシングされようと、運営さんに怒られたり公安を首になったりしてもかまわない。
気に食わないから、私はこの戦場を感情のままに駆け回る。
あぁ、腹が立つ……目に映る全ての存在が人の形をしたどす黒い異形に見える。
なんて気持ち悪い姿なのだろう、そんな気持ちの悪いモノは……消さなきゃいけないわね。
今なら、全てを出し切ってもいいかもしれない。
「ねぇ、まだ私の中にいるのかしら」
ドクンと心臓が脈打つ。
「あなたの存在を受け入れるつもりはない」
ドクンドクンと心臓の鼓動が早まる。
「これまでだって私の邪魔をしてきたし、こっちの意識を乗っ取ろうとかしてたんでしょうね」
心臓の鼓動は、一時的に落ち着いたように静かな鼓動を刻む。
「目的は何だったのか知らない。暴れたかったのか、奪いたかったのか、自由が欲しかったのか」
トクントクンと小さく、それでも心臓は応えるように脈を打ち続ける。
「それを与えてあげることはできない。なぜならあなたは私の中に巣食うだけの存在、私の身体も魂も精神も、全ては私の物。だけどあなたが力を貸してくれるというなら……」
ズンッと心臓がはねた。
「その力、全て使ってあげるわ」
ズズンッと心臓の鼓動が二重に重なった気がした。
同時に全身が燃え上がるような熱を感じ、なのに体は液体になったかのように滑らかに動く。
今まで五感で感じていた世界、明鏡止水も含めて六つの感覚で捉えていた世界が急に広々とした草原の上に立ったかのような、そんな開放感と共に全てを感じ取った。
誰がどのように、どこでなにをしているか。
地面の下でのそのそと動いている虫や動物の動きすら手のひらの上にあるかのような錯覚だ。
「よこしなさい……あなたの全てを!」
自分自身に、そして自分の中にいると言われた鬼に告げる。
私は、初めて本気を出す。
全身全霊で、私のポテンシャル全てを使って、この戦場を掌握して、蹂躙するのだ。
「さぁて……エンディングまで泣くんじゃないわよ?」
誰に言うでもなく言葉を漏らすとともに、開いた手を横なぎにふるった。
鬼「あれ? こいつまともに話しかけてくるとか結構いい奴じゃね?」(DV被害者系の反応)
作者「胃が死ぬ」




