刹那さん「実は激おこである」
喰われた触手はもういい、治ったとかそう言うのじゃなくて諦めた。
うん、回復系の魔法使うと悪魔の大公である私にはダメージになるらしいのよ。
一般的な悪魔なら平気なんだけど、どうやら爵位持ちになってくると回復魔法でもダメージ受けるとかなんとか。
英雄さんが言ってたんだけどね、今まで回復魔法受けたことないから知らなかったし、今後も受けることないでしょう。
だって即死か即殺かのどっちかだから。
そんなわけでぴょーんと館投げた方向に大ジャンプ、戦場のど真ん中に落っこちた残骸の上に着地した。
「あれ?」
近くを見ると着地の衝撃で吹っ飛ばされたらしい人物、さっき窓からこっち見てたおじさんが気絶している。
……なかなか丈夫ね、家が壊れるレベルの衝撃受けて、更に異形化で巨体になった私がそこに着地、衝撃は相当なものだと思うんだけど。
まぁいいわ、とりあえず今はやることをやるだけね。
「英雄さん」
「3時の方角、70、11時の方角、130、9時の方角、300」
ほうほう、左側が多いのね。
ざっくり換算なんでしょうけど……英雄さんを左側にぶん投げる。
あとはあの人のお仕事、私はと言えば……逆方向に異形化を解いて突撃をかます。
「はっはぁ!」
ロストガンの抜き打ちからはじまり、徒手空拳で相手をぶっとばす。
やはり魔法に頼るよりもこの方が楽しいわ。
「カモン!」
インベントリからキメラ馬車を取り出し……。
「トランスフォーム!」
王都までの道中でちょくちょく手を加えていた成果を見せる時が来た。
その名も変形、キメラ馬車転じてキメラ拷問具。
その姿は一見すると棺に車輪を付けたようにしか見えない。
よく見ると全部骨で作られたかっちょいい姿!
でもね、本領はここから。
ガシャガシャと音を立てて棺から無数の手が伸びる、関節は幾重にも繋ぎ合わされたもので自身の背丈よりも長いそれを振り回す。
そして掴んだ相手は決して逃がさず、棺の中に押し込んでしまうという仕組みだ。
内部はミキサーと洗濯機とおろし金の複合機構。
中に入ったらミンチになる運命なのだ……脱出したいならぶっ壊すしかないけど、たぶんその前に死ぬ。
対抗策はレベルを上げて物理耐性をあげるか、装備を整えるか、聖属性で自爆まがいの方法を使うか。
あとはあれね、ゲリさんみたいなでっかい種族とか異形化で捕まっても喰われないようにすること。
海向こうならできる人結構いたと思うけど、こっちは英雄の卵って種族ばっかりだから聖属性自爆とかそう言うのしかないんじゃないかしら。
「化け物だ!」
「いいえ、英雄よ? まぁ魔の者……化け物であることは否定しないけれどね」
「魔の者? プレイヤーか! なんでこんなことを!」
あら、その呼び方……。
「あなたもプレイヤー?」
1人の甲冑を身に纏った男性に声をかけてみる。
こっちで私達のことをプレイヤーと呼ぶNPCは存在しないからね。
せっかくだから親交を温めようかなと。
「そうだ! グランエスト王国から依頼を受けた!」
「そう、私は……そうね、友達のためと義理かしら。あぁ、あとなりゆきが9割」
正直に白状します。
12割成り行きです。
3割がリリーたちのため、英雄さんへの義理。
残りが成り行きです。
100%オーバーしてるけど気にしない。
「なんだそれ! そんなんで俺らのレベリングの邪魔すんのかよ!」
「レベリング?」
「モンスターちまちま狩ってるより戦争で人間相手にした方が経験値うまいって知らねえのか? どこの素人だよ」
「……へぇ」
急に心が冷めた気がする。
なるほどなるほど、たしかに化けオンはゲームなのよね。
そこに住んでいる人に実際魂があるかどうかを知っているのは、私と運営さんくらい。
あとは公安の何人かね。
私も結構な人数殺しているからどうこう言うつもりはないんだけど、リリーとキャシーのことを考えたら少し頭に来たわ。
「おい、なんとか言えよ!」
「ねぇ、いいこと教えてあげる。あなたたちが殺したNPC、人間と遜色ない存在なのよ。AIだけど自我を持っていて悲しんだり喜んだりする。戦場にいる人にも帰りを待つ人がいたの」
「はぁ?」
「あぁ別に責める気は無いのよ? 楽しかった?」
「なに言ってんだよ、レベリングなんて退屈なだけだろ」
「まぁそうよねぇ……だから私も退屈な作業を始めるわ」
ここから先は戦争じゃない、ただただ退屈な、例えるならアリの巣にビームを流し込むようなつまらない時間だ。
 




