とかげの受難は続く
いやぁ、ドラゴンは美味しかった。
でも今回はちょっとグロい映像になるから注意喚起しないといけないわね。
動画を二つ作ることにしましょう、モザイク入れたバージョンとそのままのバージョン。
字幕解説とかちょっと入れておかないと動画は見てもらえないのよね。
BGMもドラゴンの悲鳴だけだと面白くないから、ちゃんとしないといけない。
以前はフリー素材使っていたけど、取材先で教えてもらった民族楽器で自作はじめて、結果的にテレビ局から楽曲作成の依頼なんかも来るようになったからゲームばっかりやってるわけにはいかなくなっちゃったのは玉に瑕というところかしら。
それでもフリー楽曲よりも評判いいから使いまわししているけど、今回は今まで以上に力の入った戦いだったからね。
英雄さん専用曲も作る予定だし、あのドラゴンとの戦闘にぴったりな迫力ある曲も作りたいわ。
今回はケルト民謡風にしてみようかとも思ったけど、それは料理シーンで使うべきよね。
なら激しいジャズがいいかしら、アメリカの寿司バーに行ったときに教わった曲をベースにしつつ、不協和音を交えて強い感じにしたら似合うかも。
あの時は……なぜか日本人だからという理由で「寿司握ってみてくれ」といわれて大変だったわ。
まったく、私が寿司の握り方知らなかったらどうするつもりだったんでしょうね。
と、話がそれてきた。
まずさっきのドラゴンとの戦いで森からだいぶ離れてしまった。
すでに町の近くまで来ているし、せっかくだから戻って一度準備をしようと思う。
何の準備かといわれると、さっきの戦いで装備がね……いや、私の場合武器は使わないんだけれど防具の面でいろいろ気になることが出てきたのよ。
もともと初期装備のスカートとシャツだったんだけど、炎耐性とかほしくなった。
後はアクセサリーでも何でもいいから投げつけて使える物があるとうれしいなと。
それに左腕の再生には時間がかかるみたい。
千切っただけなら傷口をくっつければいいんだけど、燃え尽きて消失したとなるとね。
ステータス画面にはバッドステータス左腕消失って出ているし、回復まで1時間となっている。
調べてみた限りでは武器は装備できなくても使うことはできるらしい、という情報を得た。
どういう意味かというと、装備するというのは常に携帯して戦う時は手に持つことを指すらしいけれどどんな武器でも投げることで装備できないというのを無視して使えるらしい。
ただし、一度投げると所有権を破棄したという事になるので注意されたしとも書かれていた。
やりようによっては飛んでくるアイテムをそのままインベントリに収納することもできるということよね。
だったら普通に石とか投げたほうがいいかもしれないからパス、いざとなったらさっきみたいに腕千切って投げる。
あんな風に全身燃える相手なんて滅多にいないでしょうからね。
他にも防具に関しては狼とかの毛皮を利用したものが主流となっているらしい。
NPCのお店でそれなりの金額を払えば銀とか鉄の装備も手に入るらしいけど、それができるのはβプレイヤーくらいでしょうね。
それも正式版に持ち越したお金全部つぎ込んでどうにかなるかならないか、という範囲。
オーソドックスなのはアクセサリーや小手を銀装備にすることらしいけど、どのみち私には縁のない話だ。
だって銀はそもそも触れただけで死ぬし、小手って防具と武器両方の特性を持っているから私装備できないのよ。
ちなみに普段は防具特性として扱われるんだけれど、剣とか他の武器を装備していないと武器として装備している扱いになるらしいわ。
だから私達武器を装備できないデメリット持ちは装備できないの。
腕装備は結構その辺厳しいらしくて、私と同じようなプレイヤーは腕はそのままという人が多い。
逆に人間プレイヤーは全身しっかり装備固めているのよね。
手足がぽんぽん飛んで行くゲームだし、胴体に穴が開いたら一発死亡。
そんな状況で私達化け物に対抗するには装備でどうにかするしかないのよ。
なおそんな中好んで使われる銀装備、吸血鬼は死ぬ。
とりあえず布装備でもいいから初期防具を脱却すること、それと何かしらのアクセサリーを手に入れることを念頭に入れておきましょう。
ちょうど町にもついたし、装備を探しましょう。
時間が余ったらログアウトしてご飯を食べようかしら……そろそろ二回目の朝食の時間だからね。
「げっ! 暴食さん⁉」
誰だ! その不名誉なあだ名で呼ぶ奴は!
いつからかネットで私につけられたあだ名だけど不本意極まりない!
暴食なんかしないわよ、しっかり味わって楽しんで食べるのが私の生きざまなんだから!
「……ん?」
声のした方に視線を向けると小さなドラゴンがいた。
さっき倒したのとよく似た鱗の色だけど、こんなに小さいのは知らない。
……丸ごと食べてもおいしそうねドラゴンって。
「ひっ、なんか背筋がぞくってした……」
「気のせいよ、それよりその不名誉なあだ名やめてもらえます?」
「あ、不名誉なんだ……じゃあ何て呼べば?」
「プレイヤーネームはフィリアです。それよりあなたはどちら様?」
「さっき倒されたとかげです……掲示板ではやわらかとかげの名前で書きこんでます」
「やわらかいかしら……結構いい歯ごたえしていたんだけど」
「あ、話すと長いですが」
「ならいいです、それよりもさっきはごちそうさまでした。すっごいおいしかったですよ」
「ひえっ……」
「でもなんでそんなに小さいんですか? ドラゴンの特性?」
「えぇまぁ……レベルが15になった段階で子竜化ってスキルが生えてきて、町に入れるようになったんです。以前はずっと空の上で爆撃していたので」
子竜化ね……多分ステータスを下げる代わりに体を小さくするスキル。
確かにさっきの巨体だとダンジョンや洞窟に入れず、山越えができないようなフィールドでは詰むから救済措置スキルと考えるべきかしら。
「それで、仕返しするつもりですか? 今度は頭からバリバリいきますよ」
「食べないでください……いや、普通に見かけてつい言葉にしてしまっただけで……」
「そうですか、まぁ町中でPKするメリットがあまりないですけど……その小さな体もおいしそうなんですよね。私、ちょっとお腹すいてきました」
「脱兎!」
「阻止」
逃げようとしたドラゴンさんの尻尾を掴んで引き留める。
掲示板の名前でいうとかげみたいに尻尾を切り離せたら逃げられていたかもしれないけど、大幅にステータス下がっている相手ならどうにか対処できる。
特に最初から逃げようとして腰が引けていた相手ならこちらも反応するのはたやすい。
「やめてぇ! はなしてぇ!」
「逃げられると捕まえたくなるんですよね」
「た、食べないでください……」
「うーん、まぁドラゴンのお肉はさっきたっぷり堪能したので今はいいかなと思っているんですよ。それよりあなた町の中には詳しいですか?」
「え? そりゃまあ……子竜化を覚えてすぐに町の探索をしましたから。どこかに隠しエリアとか無いかなーとか、面白そうな場所ないかなーって感じで……」
「案内してくれたらお礼しますよ。アイテムとお金でどうでしょう」
「……そこに食べない、という項目を追加していただけないでしょうか」
「それはそれ、時の運です。美味しかったので見かけたら食べに行くかもしれませんが、死ぬほどのダメージは与えないよう考えることを約束してもいいですよ。」
考えるだけで確約するとは言っていない。
とりあえず内臓も食べてみたいからあと1回は死に戻りを経験してもらうことになると思う。
とはいえ、あまり無茶なことをしても厄介ごとを招くだけだから。
あのね、さっきから建物の影に黒いオーラを纏った女性が立っているの。
私の動向を見守るようにこっちをじっと眺めているの、英雄さんが。
目隠ししているのにどうやって視認しているのか不思議だけど、視線がビシビシ刺さっているのよ。
「……ちなみにお断りしたら?」
「ワタシ、アナタ、マルカジリ」
「喜んで案内させていただきます!」
こうしてナビゲーターを得た私は町をぶらぶらすることになった。
ちなみにとかげさんの名前はローゲリウスというらしい。
なんか長いのでゲリさんと呼ぶことにした。




