すげー久しぶりな気がする……
「ここでいいの?」
「あぁ、糞おやじはここに住んでる。今頃女でも連れ込んで好き放題やってるだろうさ」
外に出て、道中お城の中の人を避難させてたキャシーとお爺さんを捕まえてからキメラ馬車に乗り込んで豪華なお屋敷にたどり着いた。
先代の国王陛下はここに住んでいるようだ。
「まさかあの方が……」
「気付いてなかったのかゴロー。まぁあいつは外面だけはよかったからな、女を口説き落とすテクニックだそうだ」
あぁ、それ辰兄さんも言ってたわ。
誰に対しても優しく誠実に、裏表のない人と思わせれば勝ちだと。
いい人で止まってしまうこともあるが、そういう手合いは手を出すと後が大変だとかも言ってたわね。
辰兄さんとの違いは権力の有無かしら……元王様を殴り飛ばすことができる国民はいないけど、辰兄さんは神様に嫌われているのかってくらい浮気がすぐにばれる。
ばれて、普段は温厚な人が一番過激な方法で報復してくる。
一番浮気に寛容そうな人に限って包丁持ち出してくる。
そしていつも矛先は浮気相手ではなく辰兄さんに集中する。
本人曰く、どんなにうまく取り繕ってもそうなるらしい。
「それで、何をするつもりだ?」
「まず地面を固めるわ。流石に建物そのものを持ち上げると壊れちゃうからね。……いやその前に中の人を避難させるのが先かしら」
「それなら安心しろ、既に兵士たちに連絡して囲い込んでいた女たちも使用人も避難させている。中にいるのは糞おやじ1人だ」
「手際がいいわね、なにしたの?」
「なに、あの糞おやじに恨み持ってる奴は多いからな。外面が良くとも内弁慶で、今の騎士団長なんか嫁さん寝取られたらしいからな? 喜んで協力してくれたぞ。ちなみに糞おやじには暗殺者が狙ってるから外に護衛立たせるって言ってある」
わーお……すごいわこれ。
辰兄さんも既婚者や恋人いる女性に手を出す事はなかったのに……。
まさかここにきてそれ以上の性欲の持ち主に出くわすとは思わなかった。
正確にはエンカウントまで至っていないけどね。
そして二度と会うこともないでしょう。
「じゃあいきますか。大地硬化!」
ホルスターから魔導書を抜いて地面を硬める。
これで鋼鉄並の強度を持つ地面の完成、お次はっと。
「リリー、ここ硬いけどくりぬける?」
「お任せあれ」
キィンという硬質な音を立ててからズズンッと屋敷が傾く。
それじゃあ最後に……。
「戦場ってどっち方向? それとおおよその距離は?」
「北に馬で3日ってところか」
なるほど、ここまでキメラ馬車を飛ばしてきた感覚からすると……ざっくり換算で……うん、行けるわね。
「それじゃあ離れてちょうだい。今から凄い物見られるから」
私の言葉に一同がそそくさと離れていく。
リリーとお爺さんが引きつった表情で逃げ出したのを見て他の兵士さんとか王様も逃げ出した。
幸いというべきか、ここは貴族や隠居王族が住む専用の土地らしくてかなり広い。
だからあれを使っても問題ないでしょう。
「じゃあ……異形化!」
ズズズズと身体が変質していく。
まぁRFB使っている私は図体が大きくなるだけなんだけどね。
あとは……ん?
「あれ? 英雄さん?」
家を地面ごと持ち上げてぶん投げようとした私の前に、堕ちた英雄さんが立っていた。
その隣には私の写し身同然の穢れた英雄も引き連れて。
……久しぶりに会うけど、嫌な予感しかしないわ。




