同族嫌悪転じて仲良くなれそう
「待て、殺す? 俺をリリーが? なぜだ」
「わからないからぼんくらだって言ってるのよ。いい? リリーはね、娘のキャシーの身を案じているの。国を良くするという名目でお金使いこんで、お金が無くなったら周辺諸国つついて喧嘩売らせて、最後は古代兵器とか言うので敵味方諸共焼き払って、それでも負けるならそれの使い方を手土産に売国しようとしている間抜けは殺すべきでしょ」
「ほう……そこまで掴んでいたか。だがまず一つ誤解を解いておこう。キャシーというのかあの娘、俺は別に彼女に害を加えるつもりはないぞ。最愛のリリーの娘ならば俺の娘も同然だからな!」
「どういう理屈よ……」
「半分あの屑の血が入っているのは気に食わないが……だがそれでも良い娘だ。あの身なりだから相当な苦労はあっただろう。だがそれでも教育が行き届いている。そこら辺の貴族の令嬢と比べても遜色ない、いや一歩秀でているほどだ。そんな人材を無意味に殺すわけなかろう。というかリリーが悲しむことはしないからな」
「じゃあリリーが戦争をやめろと言ったら?」
「それは無理だ。こちらが刺激したとはいえ向こうから売られた喧嘩、ここにきて停戦だ終戦だと言い出したら吹っ掛けられるからな」
「一理あるわね。それで古代兵器を持ち出して焼き払うと」
「あぁ、というか最前線にいるのは犯罪者集めて作った懲罰部隊だからな。もともと死んでもいい奴らだ」
「前線を支えられるほどの犯罪者ねぇ……」
「うむ、貴族どもの裏帳簿を見れば簡単に関係者一同引っ張ってこれたぞ。まさかその網をかいくぐるやつがいたとは思わなかったがな」
「……無能」
「ほう? 俺を無能と呼ぶか」
「だって無能でしょ。悪徳領主を野放し、自分の最愛の人がそれで苦しんでたのに何もできなかった。他に形容するなら……ゴミ?」
「ふっ、その罵倒は甘んじて受け入れよう。俺が何もできなかったのは事実だからな。だが……」
ん?
「貴様はどうだというのだ。リリーを助け、悪徳領主を捕まえ、俺の前に引きずり出したのは功績だ。だが、それまでお前は何をしていた」
……あぁ、そうか。
こいつ私の正体知らないのか。
そっかそっか、となると想像しているところでは……ヴォイドの家で働いていたリリーの同僚とかそういうのって考えかしら。
「魔の者フィリア、この国にはなりゆきで立ち寄っただけ。偶然出会ったキャシーの頼みでリリーを助けた。それまでは地獄で悪魔と戦争続けてたわよ? あ、言い忘れたけど私悪魔の大公。喧嘩売るなら買うとさっき言ったけど、どうする? もう一つ戦場を抱えたいかしら?」
「……なんだ人間じゃねーのかよ。おもしれー女だから側仕えにしようかと思ったのに」
「くたばりあそばせ」
「まぁいい、というかお前も戦争抱えてるんじゃねえか。よくも人を愚物扱いできたな」
「そりゃまあ戦場に立つのは基本私と、私の友人くらいだからね。相手を刺激して喧嘩売らせるような姑息な真似もしないし、正々堂々宣戦布告してすべてに勝利したのよ。おかげで悪魔王の側近扱い、勘弁してほしいわ……」
「ん? ということは何か? お前も望んで大公とか言う大層な地位にいるわけじゃないのか?」
「なりゆき。色々あってこうなっただけで爵位とか領地とか本当にいらないのよ……優秀な副官がいるから全部丸投げしてる」
「なんだ、それを早く言え! いやー、お前も同じ境遇だったか!」
「は?」
「いやいや、王族というのは何かと面倒でな。世間では国の頂点に王が立っていてそれを平民や貴族が支えていると思われているが実際は逆さまだ。王が全てを支えている。面倒で重労働で……俺の父は早々に俺に王位を譲って隠居決め込んだんだよ」
「え? なに、そんなことあったの? うわぁ……今の王があんたというのに納得いかなかったけど、先代も大概だったのね」
「むしろ俺より糞だぞあのおやじ。表向きは善王としてふるまってたけどお忍びで街に下りて色町行って病気うつされてたからな? それで一時公務が止まって俺が代行してたんだよ」
「なにそれほんとうに糞じゃない」
「糞なんだよ。いつギロチンにかけてやろうか悩んでいたら国の金使いこんでよ……それを悟らせないために国を良くするためと言って色々整備してたら金が無くなってな……。そもそもさっきの誤解、わざわざ解く必要ないから黙ってたが周辺諸国にちょっかい出したの糞おやじだぞ。あの野郎、妾が欲しいからどっかの国から王位継承権低い子見繕ってとか言いだしてよ……」
まさか戦争の本当の理由がそんなくだらないものだったとは……。
リリーも驚いた様子で目を見開いているし、そのこめかみに青筋が浮かんでいる。
というかこの王、話してみれば結構わかるじゃない。
嫌いとは言ったけど、辰兄さんよりもマシな部類だわ。
「王妃様は?」
「窓の外見てみろ、あの塔に幽閉されてる」
「……先代の王、殺していい?」
というか殺すわ、どうやっても。
「むしろやってくれ、さっくりと」
「その首の塩漬けでも差し出したら戦争止まるかしら」
「止まらないだろうなぁ……双方結構な被害出てるし」
「じゃあ……その先王にはひどい目に遭ってもらいましょうか」
さっきまでの計画を全て没にしないで、なおかつ先王に痛い思いをさせて、上手くすれば遺体にできて、そんで戦争も一時的に止まるであろう方法を思いついた。
まぁうまくいけばそれでよし、うまくいかなかったら戦場に司馬さん投げ込んでおきましょうか。
「いい方法があるなら何でもやってくれ、お前の悪辣な脳みそが役に立つならな」
「あんたの小さな脳みそよりも役に立つから指くわえてみてなさい?」
「はははっ、いいなこの感じ! お前やっぱり最高に最低な女だわ!」
「光栄ね、最低の王様?」
うん、嫌いだけど仲良くはなれそう。
思ったほど腐ってなかったわね、国の頭。
……新しい顔よ状態とでもいうべきかしらね。
「ちなみに旅をしていたようだが、この国から逃げようとしてた貴族とか商人……奴ら港に向かってる途中で爆散して死んだらしいが何か知らないか?」
「………………知らないわ」
「貸し一つな」
くっ……やっぱり仲良くなれない!
先代は表向き善王でしたが、その実態は「俺が色町行って病気うつされた、困難安心して女遊びできんから改善じゃ!」という流れでした。
あと猫被るのが上手かった。




