謁見
「なるほど、事情は理解した。ヴォイドだっけか? お前斬首」
淡々と刑罰を告げる王様、その表情からは何も読み取れない……ならよかったんだけどねぇ。
ひしひしと怒りが感じられるわ。
殺意とかそういうレベルを超えた何かで、表情筋がこれ見よがしに仕事している。
いやー、見事なアルカイックスマイルだわ。
「反対の者は挙手を、いなければ絨毯を汚さないように表に連れ出して斬首な」
ふむ……まぁ私としては異論はないんだけど、こうも高圧的で威圧されまくっているとつい反抗心が芽生えてしまう。
なので勢いよく挙手。
「却下、お前も斬首」
「おう、やってみなさいよ糞野郎」
喧嘩売られたので秒で買ってあげたわ。
今まではそれ相応の振る舞いをと思って傅いていたけど立ち上がってゴキゴキと骨を鳴らす。
武器は没収されるのを見越してインベントリに入れていたけど、どうにもこの空間は特別らしくて武器を出せない。
まぁ必要ないかな、右ストレートでぶっとばせばいい。
まっすぐ行ってぶっとばす。
「お前、俺が誰かわかっていないな?」
「脳みそお花畑のセクハラ国王、国のことを何も考えてなくて人の命を数字でしか見られない糞野郎、自分の判断を絶対として譲らないエゴイスト、まだ言い足りないけど聞きたい?」
「いんや、よーくわかった。その喧嘩買おうじゃないか、言い値でな」
「ほーん、じゃあその首で売ってあげるわ。安い買い物でよかったわねぼんくら」
漫画だと私達の間でバチバチと火花が散るんでしょうね。
「陛下、それにフィリアも、戯れはそのくらいに」
そこでようやく制止の声がかかった。
リリーだ。
この場でストッパーになるのが脳筋代表みたいな彼女で大丈夫なのかと言われたら……まぁ私らも似たようなものか。
「陛下、まずはフィリアの言をお聞きください。彼女は考え無しではありますが馬鹿ではありません。ヴォイドの捕獲にも協力してくれて、何より私と娘の命の恩人です」
「リリーがそう言うなら聞こうではないか、言ってみろ愚物」
「色ボケ陛下の御心のままに」
にっこり笑みを返してあげた。
うん、私こいつ嫌いだわ。
「斬首で済ませるとか生ぬるくない? 拷問したうえで火あぶりくらいでちょうどいいんじゃないの?」
「ほう、ゴミムシの割にはなかなかいい事を考える。貴様いい趣味をしているな」
「脳みそも性根も腐ってる人よりも趣味はいいわよ?」
再び睨み合い、あっはっはっこいつ殴りたいわ。
「おい、そこのゴミを地下牢に連れていけ。本人が殺してくれと嘆願して、もはや声が出なくなっても拷問を続けろ。意識が無くなったら好きに治療して改造してもう一度拷問してから燃やせ」
「あら悪趣味」
「お前の案を採用したからな糞女。リリーに感謝しろよ? 彼女が止めなければこの場で殺してた」
「あら、感謝するのはあなたじゃない? その首がまだ繋がっているんだから」
「……あーもう! 2人ともいいかげんにしなさい!」
ガンッゴンッと鈍い音が謁見の間に響き渡る。
視界がちかちかして、遅れてやってきた痛みが殴られたのだと理解させてくれた。
……リリー、こんなに強いのにお酒の失敗で人生転落したとか笑い話にもならないわね。
「リリー! 俺とお前の仲とは言えこれは不敬だろ!」
「だまらっしゃいセクハラ坊主! 偉くなったと言ってもそれは親から貰ったもの! 努力はあったかもしれないけど9割親のコネじゃない!」
……それ、剣聖の直弟子だったリリーが言っていいの?
「フィリアも! 強いからと言って誰彼構わず喧嘩売らない! 殺すのは確定してても順序があるでしょ!」
「リリー、そればらしちゃっていいの?」
「え? ……あ」
やっぱり脳筋だわ……。
王様と刹那さん、トムとジェリー、オルテガとマッシュ。




