お爺さん「わしゴローちゃん」
「はーい、つぎ……化け物だぁ!」
「失礼な、キメラ馬車かっこいいでしょ」
「美的センスが皆無な女が乗ってるぞ! 全員警戒態勢!」
「かっこいいじゃない!」
長い順番待ちを終え門にたどり着いて、開口一番に罵られた。
どうせ国滅ぼすんだしこのまま突撃しようか悩んでいたところで、静止の声がかかった。
「やめんか、わしの連れじゃよ。まぁわしが連れられているようなものじゃがな」
お爺さんだった。
「剣聖様! なぜこのような悪趣味な物に乗っておられるのですか?」
「なんでじゃろうなぁ……」
お爺さん? なんで遠い目するの?
「まぁ悪趣味なのは事実じゃが、わしが本物という証でも立てて見せようか?」
すらりと仕込み杖から刃をのぞかせるお爺さん、その眼孔は鋭く一会ちゃんがもちにゃんグッズ購入時転売ヤーとガチバトルを繰り広げた時にも似た殺気を感じた。
「いえ、その圧は間違いなく剣聖様です。どうぞお通りください」
「うむ、それとわしは既に隠居じゃ。剣聖の名はわしの娘に譲った、今後はこやつを剣聖と呼んでやってくれ」
ひょっこりキメラ馬車から顔をのぞかせたリリーは会釈をしてみせる。
ただ頭を下げるだけでなく、目が合った瞬間にはにかんで見せる辺りこの人あざといわ……。
子持ちと知らなければ私も射抜かれそうな笑顔、子供の教育に悪いことはできないからね。
「それで、このままお城に突撃でいいの?」
「いいんじゃないかしら、お爺さんの意見は?」
「あまり時間をかけるのも意味がないじゃろう。わしが王都に入ったとわかれば今夜にでも声がかかり明日には呼び出しじゃ。今行っても変わらんが……早く戦争を終わらせられるなら死人も少なかろうて」
「じゃあそう言う事で」
という事でキメラ馬車を遠巻きに見守る人や、家の窓やドアを固く締める人、指さして怯える子供を抱きかかえる女性に、ひっくり返って倒れる八百屋さんなんかを見ながらお城の前に到着。
そこでも少しもめたけど、お爺さんの剣聖パワーでなんとかしてもらって謁見の用意がされた。
そういえばだーれもヴォイドについて触れないわね。
キメラ馬車の一部と思われているのかしら。
私だって素材は選ぶのよ?
こんなの使ったキメラなんて……あぁ、いや一発芸で使うにはいいのかしら。
「久しいな、ゴローよ」
「お久しゅうございます陛下。まだ殿下と呼んでいたころが懐かしくなりますな」
「はっはっはっ、まったくだ。して、今代の剣聖はリリーとなったか。そこに連れられている者と子供、それとその悪趣味な物体が此度訪れた理由と考えていいのか?」
「その通りでございますれば、とはいえわしもこの子も部外者。あとは重要な者同士でという事で退出してもよろしいですかの?」
「許す、好きに過ごすがよい」
「ありがとうございます」
王様からその言葉を聞いたお爺さんとリリーは「言質はとった」と言わんばかりの表情をしていた。
そしてキャシーとお爺さんが退出、残ったのは私とリリーとヴォイド、そして王様と護衛の兵士さん達。
さて……どうしたものかしらね。
「久しいなリリー、息災だったか」
「息災とは言えませんでしたね。友に助けられたとしか言えません」
「ほう、その友というのは隣のけったいな女、そして災いのもとはそこに転がっている生け作りか」
「はい」
てめぇもその原因だよ、と小声で呟くリリー。
彼女結構物騒ね……。
「話してみよ」
「吟遊詩人のようにとまではいきませんが、この身に有った事包み隠すことなく語らせていただきましょう」
こうしてリリーによるお話が始まった。




