おでまし、ヴォイド
外に逃げられないであろうヴォイド、一応合体解除したキメラを放し飼いにして遊んでいるけど、あの子ら馬鹿なのよね……。
古いRPGで言うところのコマンドが戦うと合体と変形しかない。
既に何体か倒されているのはわかるんだけど、倒したーと勝鬨をあげたら背後から焼かれる人がいたりで結構悲惨な状況。
質でも数でも負けているという悲しみ……というか数は私達が減らしすぎちゃったのもあってねぇ……。
一応隠し通路がある部屋全て見たけど使った形跡はないという事でのんびり屋敷の中を歩き回っていた。
そんな時だった。
「あ……」
不意に声が聞こえた。
正面にぎんぎらに着飾ったデブが一人、両手に宝石やらお金やらを抱えてのっしのっしと歩くような速度で走っていた。
「リリー?」
「あの醜いのがヴォイドよ」
「うわぁ……あれとリリーの子供がキャシーか……リリーの遺伝子強くない?」
「あれに負けるような遺伝子してないけれど、そんなのに押し倒されてっていうのが人生最大の汚点というか、消し去りたい記憶で堂々の一位よ」
「ですよねー」
ケラケラと笑い話でもするかのようにリリーと歩みを進めていく。
当のヴォイドはというと、じゃらじゃらと宝石など抱えていたものをこぼしながらものっしのっしにげていく。
別に走って先回りしてもいいんだけど、キャシーにあんなことしたり、リリーに酷いことしたこいつにはしっかり恐怖を刻んでおかないと。
「ほーら、逃げないと撃っちゃうぞ」
パーンとロストガンでヴォイドの足元を撃つ。
それに驚いたのか更に宝石などを落としては道しるべを作ってくれる。
何度も何度も、ぎりぎり当たらない攻撃をしたり、わざと耳とかをかすめるように撃ってみたりと遊んでいるうちにヴォイドはある部屋に入っていった。
察するにここが奴の自室ね。
なお途中で襲い掛かってきた兵士はみんなリリーが粉微塵にした。
「ヴォーイードー君。あーそびーま、せい!」
リリーの斬撃が扉を、そしてその内側に仕掛けられていたであろう金属板を切り裂く。
厚さ10cmくらいかしら……よくこれ開けられたわねヴォイド。
「お久しぶり、そして死ね」
「いや殺しちゃだめだからねリリー、死なない程度にいたぶるのよ?」
「おっと……じゃあこのくらいにしておきましょうか」
リリーの姿がブレた。
私の動体視力でも全く見えなかったそれは、スパイスの村でお爺さんに見せてもらった居合のように、まさしく達人の域を超えたものだった。
だがしかしヴォイドの見た目に変化はない。
「くっ……くくくっ! 何もできないかリリー! そうだよなぁ、俺はあの子にとって父親だからなぁ! 親が死んだと知ったらあの子は悲しむもんなぁ! だが俺はお前を殺せるんだ!」
なんか勝ち誇ったように壁にかけてあった剣に手を伸ばしたヴォイド、こいつ自分が何されたか気付いていないのね……。
そして状況判断もできていない、なんでこんなののいるところで働こうと思ったのかしら。
「昔は細身でかっこよかったんだけどねぇ、両親殺して家督奪ってから堕落の一途で……それこそ弟弟子の頃ならそのまま旦那として認めてもよかったんだけど」
「声に出てた?」
「えぇ、ばっちりと」
おっと、阿呆を相手にしてたからポンがうつってしまったかもしれないわね。
「なにを言っている!」
「なにって、思い出話。ヴォイド、姉弟子として言っておくけど鍛錬さぼりすぎ。目も性根に合わせて腐らせたのね……残念だわ」
「なんだと!」
「じゃあ私からも、脂肪ためすぎ。だからそんなに鈍いのよ」
「なんだお前は!」
「ねぇリリー、こいついつになったら気付くの?」
「さぁ? でもそろそろ本人よりも先に身体が気付くんじゃない?」
「それもそうか」
肩をすくめて剣をしまうリリー、私もロストガンをホルスターにしまい込む。
もうこれは必要ないからね。
「くたばれ!」
剣を掴んだヴォイドがそれを振りかぶろうとして、カランという乾いた音を立てて地面に落とした。
「な、なんだ!」
「手を見なさい」
「手だと?」
はらりと、ヴォイドの着ていた服の欠片が地面に落ちる。
それを皮切りに身に纏っていた衣類は全て、まるで紙吹雪のようにはらはらと散っていった。
アニメでよくある演出をこうしてみる事になるとは思わなかった。
衣服と髪の毛がはらはらと散っていく。
それだけでは終わらない。
ヴォイドの手、皮膚が地面に舞い落ちる。
続けて白い……あれは骨ね。
ゴトゴトと音を立てて地面に落ちていくそれらをヴォイドは唖然としながら見つめていた。
ラブコメの執筆始めました。
ラブ要素が長旅に出ました。
代わりに筋肉がやってきてマッスルコメディになりました。
そのうち公開します。




