母は強し(人外基準)
「領主様をお守りしろ!」
「敵の数は何千だ!」
「2人です! たった2人で攻め込んできました!」
「馬鹿を言うな! 2人にこの惨状だというのか! えぇい、戦況の混乱がこんなところまで!」
「くそっ! 来月金で買った女17人と結婚するんだ! こんなところで死ねるか!」
「俺だってこの後おきにの嬢手作りのステーキとパインサラダ食う約束してるんだ! 絶対に生き残ってやる!」
「このお守りがあれば大丈夫だ……今までだってそうだったんだ……」
「来たぞ! 殺せ!」
いや遅いわよ。
来たぞというか最初から全部聞いてたわよ。
古今東西のフラグ網羅する気?
お望み通りフラグの結果をご覧に……あれ?
「下郎が、磨くなら手のひらではなく腕にしておけばいいものを……」
いつの間にか武装してこちらを迎撃しようとした人達の背後に回っていたリリーさん。
音もたてずに剣を鞘にしまうとこちらににっこりと笑みを向けてきた。
「行きましょう、フィリアさん。……いえ、戦友にこんな呼び方も言葉づかいもよくないわね。行こうかしらフィリア」
「え、あ、はい……じゃないか。えぇ、リリー」
戦場の絆とはなんと美しいものか……比較的裏切りの少ない絆だからこそ大切にしたいわ。
戦場で背中を預け合った間柄というのは特別なものだから。
まぁ、それでも裏切る時は裏切るんだけどね。
兵士達? リリーがトンっと足を踏み鳴らしたら粉々になったわ。
南無……。
「それで、領主はどこかしらね」
「んー、この時間だと書斎で仕事していると思うけど……これだけ騒いだからね。どこにいるやら」
「道中でうっかり殺してないわよね」
「そんなへまはしないわよ。隠れる場所としては地下牢……は今来た道の先だから無いとして、書斎から行ける場所だと隠し通路使って庭に出た可能性もあるわ。他には自分の部屋に逃げた可能性も」
「なんで自分の部屋? 普通に考えたら外に逃げて助けを求めるべきじゃない?」
「ヴォイドの性格で人心集められると思う?」
「……ごめん、ないわね」
「そういうこと。多分外に逃げて敵が襲ってきたとか言い出したら領民から袋叩きにされて差し出されるわ」
「それを理解するだけの知能はあったのか……恐怖政治の末路っていつもこうよね」
「そうそう。だから領民には甘い汁を吸わせて、外に敵を作って巻き上げて、というやり方が一番楽なのにね。中に敵を作るとこうなっちゃう典型」
「リリー話わかるわね。こういう話すると私の友達はみんな首をかしげるか、ため息をつくのだけど」
「これでもあちこちでブイブイ言わせてた腕利きの剣士よ? そりゃ政治に介入するような出来事も多々あったわ」
「それはすごい! 私はそんなこと……いや結構あったわ。あったけど基本的に歴史の闇にされてるわ」
「よくあることよ。男にせよ女にせよ、一個人が政治に介入してどうこうしたなんて話を大っぴらに残せないもの。国にとっての恥部だし、それを部外者が解決したなんてね」
「それもそうねぇ……」
まぁ、こういう話は後世で掘り起こされて面白おかしく脚色されて、男性だったら女体化してゲームのキャラになったりするのよね。
織田信長なんかもう何千種類作られたかわからないわ。
たしかこの前ギネス記録で「最も多くのエンタメに参加した偉人」として名を連ねたのよね。
「で、話戻してなんで自室に逃げるの? 何かあるのかしら」
「あそこは特別頑丈に作られているのよ。オリハルコンとアダマンタイト、ヒヒイロカネにミスリルといった稀少鉱石をふんだんに使った合金でできた箱を木の板で覆って部屋にしているの」
「シェルターみたいなものか……それにしても、ミスリルねぇ」
「柔らかい金属なのに何で使ってるかわからないのよ」
「あー、リリーは知らない? 悪魔とか吸血鬼って銀に弱いの。その上位にあたるミスリルなんかは触れるだけで死ぬわ。私もその系譜持っているから死ぬし、今のリリーは装備のせいで半分くらい悪魔に近づいているから触ると危ないわ」
まぁまだ気配とかそういうのは人間だから即死はないでしょうけど、火傷くらいはするかもしれない。
もしかしたら装備が破損するかもしれないけど、その辺の心配はいらない程度に内臓も治っているし大丈夫かもしれないわね。
「へぇ……悪魔も吸血鬼も死ぬまで刻んでたら勝てたから知らなかった」
「……逆によく勝てたわね」
「フィリアみたいなの相手だと無理だけど、そこら辺の悪魔ならなまくらでも余裕よ! 最後に苦戦した相手だと……確か伯爵級なんちゃらとか言ってたっけ」
……爵位持ち倒してたわこの人。
下から3番目だったかしら、それでも相当よね。
「でもまぁ、突破する方法はあるのよね」
「フィリアのことだから力尽く?」
「まぁ、そこら辺に倒れてる人を壁が壊れるまで投げ続けるか魔法でどかん」
「前者は時間がかかるし、後者は中にいたらヴォイドが死ぬかもしれないわね」
「そこでリリーの出番、切れるんじゃない?」
「ばれた? 余裕よ」
「やっぱりね、なまくらで拳銃ぶった切ってるの見た時に同格の武器があれば行けそうだと思ったもの。時間もかけられないしよろしくね」
「任されました」
……今更だけど明鏡止水使えば一発で場所わかったかしら。
いや無理ね、あれあくまでも気配探知の延長だからヴォイドの気配知らない私じゃきついわ。
マスターデュエル、皆さん強くて勝てないですね……。
ゴールド3から動けない。
蒼井茜という名前のヒーローデッキ当たったら私です。




