インチキの塊みたいな人がなんか言ってる
領主邸とやらはずいぶんとわかりやすい所だった。
街の真ん中目指して歩いていたらたどり着いたでっかいお屋敷、近づけば近づくほどに雑魚が湧いてくる状況だった。
なんだろ、逆ヘンゼルとグレーテルみたいな?
こっちですよと道案内してくれるように敵が押し寄せてくる。
ので、キメラ馬車で押しつぶしていった。
ふっ、聖剣なんてインチキ武器出てこなければこっちのもんよ。
頑丈性には気を使っていたし、悪魔素材をつぎはぎした結果凹凸が多くなってしまったけど、怪我の功名というべきか殺傷力が跳ね上がった。
そもそも重量の時点で相当だからぶつかったら痛いじゃすまないというか遺体になる。
そんな馬車があちこちから炎や冷気のブレス吐いて突進してくるわけだからね、一般人じゃどうにもならないわ。
「すごいですねぇ、これ」
「なかなか便利ですよ。弱点も多いですけどね」
「確かに、これだけの巨体なら簡単に隙をつけますね」
「そうそう。だからその対策として変形合体するようにして一部パーツが壊れても小さくなる代りに補強ができてどんどんスピードが上がっていくようになってます」
「なるほど、攻撃力を犠牲に速度を上げて逃げやすくするんですね!」
「ただその機構使う前に聖属性ぶち込まれるとまとめて死ぬので……」
「あー、なんでこの剣があなたの所にあるのか、こんな有様なのか大体理解しました。都合がいいのでこのままでいいんですけどね」
ふむ? 不思議な事を言うけど今はいいや。
「はいじゃあ掴まってくださいね。中に入っててください」
「これ中に入れるんですね……」
「いざという時に火薬と油満載して突撃させるつもりだったんです。馬車と銘打つ以上荷運びもできたらいいなと思ってました」
何気に機能満載のキメラ馬車、外にある椅子型キメラに座ったまま内部に移動できる仕様でもあるので私もカーゴの中に入る。
リリーさんは後方からひょいっと中に入り込んで、適当な骨を掴んで衝撃に備えていた。
そして、馬車が大きく揺れた。
外からは悲鳴と金属を破壊する音と、小さな何かが当たる音がする。
経験上、これは銃撃ね。
火薬のにおいがする……耳をすませば悲鳴の中に銃声も聞こえるわ。
「リリーさん、外に出たら昨晩の銃撃にみまわれます。どうしますか?」
「正面から切り伏せましょう」
「承知! 3カウントで外に出ますよ」
その言葉にリリーさんは剣を腰に差して構えをとることで答えとした。
「3、2、1……でいきますよ」
「いや、いかないんかーい!」
「冗談です」
軽いジョークに軽い調子でずっこけてツッコミを入れてくれる。
うん、この人やっぱり愉快だわ。
「じゃあ改めて……ゴー!」
「カウントしなさい!」
ふっ、カウントはもう終えて出撃の合図を出すだけだったということに気づいていないのか。
この程度の不意打ちは日常茶飯事の伊皿木家、一瞬の判断が今後を左右するなんてこともざらにあったのだ。
例えばクリスマスケーキに乗っているサンタの砂糖菓子取り合いとかね!
でもまぁ、これでリリーさんの肩の力も抜けたでしょう。
さすがにお母さん、娘まで危険にさらされていたとなるといてもたってもいられないようだ。
剣を握る手に相当力が込められていたのだろう。
カリバーンがギシギシと悲鳴を上げていた。
まぁ折ってもいいんだけどさ、あの調子だと糞貴族がさいころステーキになっちゃうからね。
そうなったら証拠隠滅は楽だけど……うん、まぁ面倒。
というわけで私が先頭で切り込み、余計な力を抜いたリリーさんが残った雑兵を細切れにしながらの突入となった。
さーて、どんな面してるのか……最初で最後の確認ね。




