酔っ払い×やべー人=大惨事
数時間後のこと、気が付けばみんなで用意した食材と、どさくさに紛れて買ってきたお酒を手にどんちゃん騒ぎが進んで、そしてほとんどの人が酔いつぶれて眠ってしまった。
さすがに子供はお酒を飲むようなことはしなかったけど、私の近くで団子のようになってみんなで眠っている。
うーん、国の方針とか貴族様の考えにどうこう言うつもりはないけど……見たところ浮浪者の数としては子供がダントツで多いわね。
男性は少なく、女性はそこそこ、子供が一番多くて、その次がご高齢。
この様子から推察できるのは口減らしかしら。
うん、どうにもきな臭いわね……。
「やっと見つけたぞ。そこで何をしている!」
思案中、横やりによって邪魔をされてしまった。
喉元に引っかかった小骨みたいで気持ちが悪いけど手を突っ込んで引っこ抜けるようなもんじゃないのよね、これ。
「なにを、とは? あなた方はどこのどなたかしら」
現れたのは集団、豪華な鎧に身を包んでいるけれど……あれは見た目だけね。
散りばめられた意匠、無駄に光り輝くだけのそれは飾り物でしかない。
持っている剣も使い込まれた様子はなく、むしろ剣を腰から下げて歩くことに慣れていないのか鞘にばかり傷がついてて持ち手は新品そのもの。
「この街を統括するルーク家の騎士だ! この姿を見てわからないとは、さては余所者だな?」
「そうですがなにか」
生返事を返すとじろじろと人のことを値踏みするような目でこちらを見てくる。
正直に言って気持ち悪い。
リアルの方でもじろじろ見られるのも、値踏みされるのも慣れてるけど気分がいい物ではないわ。
辰兄さんの目視で小数点第三位まで身体のサイズをはかれる特技披露されたとき以上の気持ち悪さ。
触れたら須臾の単位まで計測可能と言ってたのすら超えるわ。
「貴様は国家内乱の容疑がかかっている」
「はい?」
「そこの浮浪者共を使い街の治安を乱した、弁護があるならば我らがヴォイド様の前で語るがいい! さもなくばこの場で」
「この場で……なんですか?」
本名の通り刹那の時間で立ち上がり、目の前でニヤニヤと気分の悪い笑みを浮かべている男たちの剣を奪い取り元の場所に座る。
彼らからは私が一瞬ブレて、気が付けば腰から剣が無くなり私の前に積み上げられていたようにしか見えないだろう。
「き、きさっ、貴様!」
「やっぱり。持ち手は奇麗だけど刃の部分はボロボロ。血脂を落としていないし手入れもしていないから傷んでる。そこら辺の盗賊に劣らない……というかそれ以上に酷い武器ね。こっちの剣なんか目も当てられない、剣先がかけてるし刃こぼれだらけ、おまけに……」
ぱきんと路地裏に甲高い音が響く。
軽く指ではじいただけで剣は半ばから折れてしまった。
いやぁ、脆いわこれ。
もともといい素材使っていないし手入れもしていないから限界がきていたみたい。
「ふっ、ふふふふふ、やってくれたな? これで貴様は正式に罪人だ! 国家内乱に加え窃盗、器物破損により確保する!」
わー、おバカだ。
「できるのかしらね」
「あぁできるさ、こいつらがどうなってもいいならそこを動くな、抵抗をするな」
男たちが取り出したのは拳銃、その銃口の先は眠っている浮浪者たちに向けられている。
「……なにそれ」
「ふんっ、見たこともないか。これは国王陛下が作り上げし銃という武器だ! 貴様がどれほど強かろうと、たとえあの剣聖であろうとこいつを前にすれば!」
「前にしたら、なんですかぁ?」
ゆらりと、まるで幽霊のようにリリーさんが男性の肩に手を当てる。
その間に私はホルスターからロストガンを抜き、数人の手を撃ち抜いて銃を落とす。
「いや、私も持ってるけどね。それに剣聖様とやらに勝てるならやってみたら?」
ぽいっとリリーさんに奪ったばかりの剣を投げ渡す。
そして、蹂躙が始まった。
「ふはははは! 鉛玉を火薬の爆発で飛ばす武器! 矢より速くとも直線的な攻撃! 落とすくらい簡単ですよ!」
「ばっ化け物!」
「斬鉄!」
「ばかなっ! なんであんな剣で鉄が切れるんだ!」
「ふざけんな! 聞いてねえぞこんな化け物どもがいるなんて!」
「化け物って……見目麗しい女性が二人と浮浪者しかいないじゃない」
「くそっ、なんだよこれ! ふざけんな!」
むぅ、ふざけんなと言いたいのはこっちよ。
私もリリーさんもそれなりに奇麗だと思うんだけど……。
そりゃあニーアさんとかに比べたら平凡かもしれないけど?
あの人みたいに美貌だけで人を気絶させたり、ウィンク一つで泡吹いて白目剥いて倒すなんてことはできないけどさぁ。
……ん?
さっきまで周囲の浮浪者のせいで鼻が利かなかったけど、リリーさんの口元からお酒の香りがする……。
今はリリーさんが大立ち回りしているから空気が動いてかぎ分けられているけど……。
というかドアが開いた気配がなかった。
……あの人ちゃっかり宴会に出てたな?
まぁいいや。
「私達が化け物ならこれはどうなるのよ」
にゅるにゅると周囲の樽とかに隠していたキメラが出てくる。
「ひぃっ!」
万が一に備えてインベントリにしまわないで残しておいたけど正解だったみたいね。
なにもなければ正式に招待されるのを待つつもりだったけど、ちょっかい出してきてくれた方が楽しいもの。
そりゃリリーさん達の近くを離れられないというのも理由としてはあったけど、浮浪者を買出しに行かせる辺りではもう全面的に戦う事を決めていたし。
だってねぇ……普通あきらかにアレな人が買い物に来たら相手はいい顔しないし、じゃあキメラ引き連れてお買い物したら今度は戦車でドライブスルーに立ち寄るようなもの。
大騒ぎにはなると思っていた。
だから備えは最低限していたけど……。
「ま、あなたたちは運がなかったわね。リリーさん、証拠隠滅は任せてくださいね」
「お任せしましたぁ! ははっ!」
その後、路地裏の血の池が広がった。
掃除面倒だなぁ……でも放置したら疫病の発生源になりそうだし、ちゃんと掃除しないと。
マヨヒガちゃんなら一発で奇麗にしてくれるのに。
酔っ払いにいい思い出のない私、下戸です。




