鬼に喧嘩売った悪魔の末路
「はーいいっぱい用意してあるから並んで並んで、こらそこっ! 割り込みも喧嘩も無し! 全員がおかわりしても余るくらいには用意してるから!」
錬金術と初級の鍛冶で用意した巨大な鍋、それを使って大量の豚汁を用意して貧民街で振舞う私。
うん、まるで聖女といいたいところだけどその称号は祥子さんにこそふさわしいから辞退。
そもそも思惑あってのことだしね。
「おい姉ちゃん、肉もっとくれよ!」
「じゃあそこらで鼠でも捕まえてきなさい。そしたらお肉増えるし、あなたの取り分も増えるわよ」
「お、じゃあこれ食ったら行ってくるぜ! もっと食っていいんだよな!」
「もちろん! みんなお腹いっぱいになったら幸せじゃない!」
「ちげぇねえ、あんた話わかるな!」
ぐびぐびと豚汁を流し込むように食べて、そのまま鼠取りに向かう人が何人も続出。
うん、しばらくこの国鼠による備蓄食料の被害とか疫病の心配いらないんじゃないかしら。
この調子だと街中の鼠捕まえてきそうだわ。
いやー、捌くのが大変ね。
鼠は大きさの割に可食部が少ないから。
あぁでも前に運営さんとか公安で見た実験用マウスは丸々太ってて美味しそうだったなぁ……海外で食べた鼠料理もおいしかったし。
「っと、野菜の残りが少ないか……誰かお金出すから買出し行ってきて!」
「おいおい、俺らみたいな貧民に金渡して返ってくると思ってるのかよ」
「渡すと言ってもそんな大金じゃないし、その程度のお金持ち逃げしてここにいる人全員から不興買ったら貧民街すらいられなくなるんじゃない?」
「それもそうか。とはいえなぁ……俺らスラムの屑共にまともな商品売ってくれる店があるとは思えねえな」
「じゃあこれ連れて行きなさい」
インベントリからキメラを何匹か取り出す。
いやー、ほんとに馬車キメラは合体式にしておいてよかったわ。
「うげっ、なんだよこれ……」
「これはねぇ……」
ふっふっふっ、見て驚くがいい。
キメラ集合体の本当の姿を!
インベントリから全てのキメラを取り出して指パッチン。
「合体して馬車になるのよ!」
「……いや馬車じゃなく魔界に棲むモンスターにしか見えねえが?」
「失礼な、ここに座り心地のよさそうな椅子もあるじゃない」
「いやどう見てもおぞましい何かだぞ。百歩譲って新手の拷問器具だ」
そんな……この人たちにはこの素晴らしい造形美がわからないの?
機能美も兼ね備えたこのキメラ馬車のすばらしさが……。
「ちなみにだが、これ街中連れまわしていいのか? いきなりしょっ引かれたりしねえよな」
「知らないけど、そこらの雑兵に負けるようなつくりにはなってないわよ。基本的に悪魔素材で作った物体だから結構強い。ついでに走るといい声で鳴く」
「……知りたくなかったが、とりあえず言える事はあんたの趣味はいかれてるな」
「ひどっ、そんな人には豚汁汁多め具少な目にするわよ」
「……いやー、いい趣味してんな! 最高だぜ!」
手首の潤滑油は足りているようね。
見え透いたお世辞だけど構わない、同意してくれたら後はどうでもなるのよ。
「じゃあこれ連れてお買い物行ってくれる人ー。しばらくは炊き出し続けるから今日お買い物行ってくれたら具だくさんにしてあげられるわよ。行ってくれた人はお釣りそのままあげるから」
「俺が行く!」
「私が行くのよ!」
「ざっけんな俺だ!」
「僕が行きます!」
おぉう……思わぬ形で争いが始まってしまった。
うーん、このまま殴り合いに発展して最後に残った人に任せてもいいんだけど怪我人の手当てとか面倒だしなぁ……。
「あ、じゃあここにいるみんなに行ってもらいましょうか。キメラ馬車合体解除! ついていってあげてねー」
がしゃがしゃと音を立てながら個別のキメラになったのを見届けてお金を預ける。
うーん……そんなに悪趣味かしら。
頭部車輪なんか合体解除した時は頭部タワーになったりもできるし、口から炎とか冷気を吐けるから便利なんだけどね。
「あ、おれこの椅子だった部分で」
「ふざけんな! それは俺が連れていく! お前はあの車輪にしろ!」
「いやお前がふざけんな! あんなの連れて歩けるわけねえだろ!」
……なんか新しい争いが始まったわ。
もうこうなったら気にしない。
どうせエリクサー入りの豚汁この後も食べるんだから怪我くらいすぐ治るでしょう。
好きにしなさいな。
刹那「これ、こういう機構も取り込んだら面白いわよね。クリスちゃんのゲームでそういうのあったし」




