話は聞かせてもらった、ヴォイドは死ぬ
生き残りがいないか確認しようとしたけど、私も手加減してなかったしリリーさんのやらかしを見た限りだと全員死んでるわよね……。
「リリーさん、私この街に入る時門番にお爺さんの紹介状を渡したんですけど」
「時間がかかるって言われました?」
「はい、なんか随分とお偉いさんみたいで。なのにリリーさんが正統な後継者だとすると妙な話ですよね。どういうことですか?」
「ヴォイドが弟弟子だからですね」
「は?」
「ヴォイドはね、私の弟弟子なんですよ。先代に貴族たるもの武芸にも秀でていなければならないとお父さんを呼びつけて訓練させていたんです。その時私も同行して」
「そのまま流れで使用人に?」
「もう少し段階は踏みましたよ。まずモンスター狩りで名を上げて、身近に強者を置いておきたかった先代にお父さんから紹介してもらって、とかやっていたら私がお屋敷に出向いたら先代が病床に伏せてと」
「なるほど、つまりは……むちゃ強いお爺さんを指南役に選んでリリーさんと顔合わせ、その後リリーさんが名を上げて売り込み、雇われたと思ったら雇い主が倒れて、馬鹿な弟弟子に襲われた……反撃はしなかったんですか?」
「王都直轄のスパイス産地、お父さんの住んでる村との流通はこの街を通らないといけないんですよ。その道中不幸が起こるかもしれないと脅されてはね……」
「本音は?」
「貴族殺しは後が面倒なので……さすがに3度目は無いと国王陛下に叱られてたのもあって手出しができなかったんです」
……3度目は無いって既に2回殺してるのね。
リリーさん、やんちゃで向こう見ず、しかも脳筋だわ。
「え、というか陛下?」
「えぇ、お父さんは昔王家に仕えていましてね。引退後は畑仕事とその護衛をしながらたまに貴族家の指南役をしていました。ほら、流石に適当な人材を貴族が雇い入れるわけないじゃないですか」
「あー、そりゃまあ確かに」
いうなればどこの誰ともわからない人を公安が雇い入れるようなものだものね。
密偵とか暗殺者とか、招き入れたら厄介ごとしかない相手もいる。
そういう意味では王家に仕えてた……多分この物言いだと近衛兵とかそういうタイプだと思うけど、そんな立場の人なら引退後に隠居生活をおくりたまに指南しにそこらの街に遠征とかもあるか。
「陛下にこの件を話したらどうなると思います?」
「貴族と一般市民の意見、どちらを聞くかと言われたら貴族ですけど私の言葉なら耳を傾けてくれるかもしれません。それでも軽い処分でしょう」
王様が耳を傾けてくれるって……それに貴族殺し2回免除されたというのは相当な立場なんじゃないかしら。
本人が無頓着なだけで。
こういう自分の実力や立場を正しく認識していない人は厄介なのよ。
「キャシーのことは王家には知られていない……と」
「知らないんじゃないですかね。知ってたとしても放置しているでしょうから」
「随分適当な王様ですね」
「今は戦争と国内を安定させることに尽力していてそれどころではないのでしょう。加えて言うなら、この程度は貴族と平民の間ではよくあることですから」
「貴族皆殺しにしたら早いんじゃないですかね」
「国の滅亡が?」
「いっそ滅んでしまえばいいと思います」
「んー、でもたぶんそれ頭が変わるだけじゃないですか? 今戦争している国がこの辺を支配するだけで」
「確かに……」
困った、これは本当に困った。
いつも通り暴れてどうにかなる問題じゃない。
……いや待てよ、案外この状況使えるかもしれないぞ。
「ねぇリリーさん。私さっき門番にお爺さんからの紹介状を渡したって言いましたよね」
「そうですね」
「それが受理されるのっていつ頃だと思います?」
「んー、お父さん直筆の紹介状なら遅くとも7日以内ですかね。ヴォイドとしてもお父さんを無下に扱うと本人が殴り込んできて現状を知られる可能性もありますし、王家に諸々バレる危険があり、なおかつお父さんと私が揃って事情説明したら最悪首が飛ぶくらいはあると思うので」
Oh……結構な権力者だったよあのお爺さん。
「ならそれまでにキャシーを育てられるだけ育てましょう。そしてリリーさんは回復に努めて、いざ本番という時に二人には付き人としてついてきてもらいます」
「そして内部にはいったら大暴れしてヴォイドを捕まえると」
「はい、その後は……ここから王都ってどのくらいでつきますか?」
「早馬でひと月」
「なら1日ですね。私のキメラは狂暴ですが優秀なので」
「へぇ……」
おっと、リリーさんの目が怪しく光った。
これは強敵にわくわくしている表情ね、刀君やうずめさんがたまに見せる奴だわ。
「一度お爺さんを拾ってからの旅程になるので2日くらいと思ってください。そして王城に乗り込んで諸々説明してその場で首をはねる許可を貰いましょう」
「あら素敵、その作戦乗りましょう」
「じゃあ……まずはキャシーが起きるまで待ちつつ、リリーさんも寝ててください。見張りはしておきます。必要ないでしょうけど」
辺り一面血の海だからね……ここに近づこうと思う人はいないでしょう。
たぶん憲兵とか衛兵みたいなのも来ない、ここスラム街のど真ん中で貴族が差し向けた暗殺者が蒸発して血の海ができてるとなればね。
彼らも命は惜しいでしょうし。
そうじゃない人は……丸呑みすれば証拠隠滅できるかな。




