悪魔の取引
「なにからなにまで、本当にありがとうございます。うちのようなボロ屋でよければ好きなだけお過ごしください」
「いえいえ、こちらも勝手に厨房お借りしてしまいましたしお嬢さんの熱意に突き動かされてのことですから」
元気になったキャシーのお母さん、名をリリーさんというらしいけれど彼女とは食後のティータイムを過ごしている。
なかなか話の分かる人で、ご飯は人生において最も重要なファクターであるということ、それを満足に得られない環境と娘を苦労させている事への罪悪感から来る強くなってほしいという意思を聞いたときはがっつり握手したわ。
「それで、キャシーを鍛えてくれるという事ですが具体的な内容をうかがっても?」
「まずは食べる事ですね。エリクサーを隠し味に使った料理なので怪我は治っていますが、肉付きが悪いので内臓から鍛えないといけません」
「それはそうですね。毒物などの耐性もつけないといけませんし……」
「それからは基礎のトレーニングですが……そうですね、基本的な部分はできているみたいです」
「そうなんですか?」
「えぇ、この家は足場が悪いですからね。床を踏み抜かないように歩いていたためか体幹のブレが無いです。あとは身体を作り、動かし方を教えればあっという間に一流になれるでしょう」
「不幸中の幸い、というのは少し違いますが……一つでもためになることがあってよかったです」
「それで私からも質問ですが、どこまでやっていいですか?」
「どこまで、とは?」
「下から順番に10人の刺客相手に自衛できるレベル、30人の刺客相手にあなたを守りながら戦えるレベル、100人の兵士相手に戦えるレベル、国を傾かせる程度のレベル、単独で戦争を終わらせられるレベルです」
「一番上でお願いします」
「戦争を終わらせられるほどの力がどういう扱いを受けるか、理解したうえでの言葉ですか?」
「理解したうえでお答えします。それよりもさらに上を、目指せるならばどこまでも」
「ほう……」
なかなか肝が据わっているというか、わかっている人ね。
こう言ってはなんだけどリリーさん、もう先は長くないでしょう。
今でこそ元気に振舞っているし、エリクサーで症状を抑え込んでいるものの匂いからして内臓を相当痛めている。
過去のあれこれが蓄積して内臓の大半が機能を停止しているわ。
胃腸は病人食をどうにか食べられるけれどステーキみたいなものは無理、肝臓は既に限界を超えて機能していない、肺は半分ほどの動きだし、心臓に関しても不整脈がちょいちょいみられる。
こうして生きているのが不思議なくらいだわ。
キャシーは薬を求めていたけれど病気ではない、身体が限界を迎えただけで通常の薬ではこうして話すこともできなかっただろう。
だからこそ、キャシーを最強の存在にしてうかつに手出しされないようにするというのが目的なんでしょうね。
けれど、私バッドエンドって嫌いなのよ。
ついでに言えば映画とかで過程とはいえ誰かが命を落とす展開もね。
それがホラーならいいんだけど、感動系とかでそれやられると逆に萎えるというか、ご都合が見えるというか、制作側の意図が透けて見えるのが嫌い。
「ねぇ、リリーさん。あなた一つ勘違いしているから教えてあげる」
「勘違いですか?」
「あなたも鍛えるのよ。その体を治して……いえ、作り直してというべきかしら」
ついに出番が来てしまったようね、使うことないだろうなと思ってたあれが……。
「これを」
そっと差し出す暴食王の側近装備、ユニーク属性がついているからトレードや譲渡はできない。
奪われても一定距離離れると勝手に私のインベントリに戻ってくる、ある意味では呪われた装備、逆に言うなら一定距離内にいれば他者に装備させることもできるという裏技的なサムシング!
野ざらしにしてユニーク属性とその特性を消そうと思っていて忘れてた存在。
その効果が破格だからこそ、ゲリさんとかに相談した時はもったいないと言われた性能のそれ。
あらゆる状態異常耐性、秒間3%のHP回復、フレーバーテキストには装着者に悪魔の力を与えその身を生まれ変わらせる能力を持つという一文、これらから察するにこの装備を身に纏えば死を目前にしたリリーさんも元気な体に戻ることができるだろう。
ただし、下手をすれば人間をやめる事になるかもしれない。
「人間をやめて娘さんと一緒に幸せな時間を過ごすか、それともここで死ぬか、選びなさい」
まさしく、悪魔のささやきに対してリリーさんはキョトンとした様子だった。
人妻系サキュバス爆誕の予感。
エルデンリング廃人になりつつある今日この頃、ちゃんと毎日投稿続けますので今後もよろしくお願いします。




