力というもの
その後キャシーはお母さんにエリクサーを飲ませ、私は土間的な調理場で適当な病人食を作った。
さすがに病み上がりの人にステーキ食べさせたりしないわよ、前に一会ちゃんにそれやって死ぬほど怒られたから。
体調崩した時はお肉が一番なんだけどな……体温上げて、お肉食べて、沸騰させたお風呂に入って寝る、そうすれば大体の病気は治ったし妙な注射打たれた後の後遺症も消えた。
なんか麻薬のカクテルだったかな、いろんなの混ぜた危ない奴打たれて頭はふらふらするし食欲もあまりわかなくてホテルの料理を食べ尽くせなかったからね……。
あれは……マフィアのグループに捕まって、注射打たれて、テンションぶちあがりして大暴れして壊滅させてからルンルン気分でホテルに戻って爆睡した後だったわね。
そしたら寝起きに薬が切れて禁断症状出てやばいと思ってレストラン駆け込んでありったけのお肉を要求、ブタの丸焼きにはじまり色々なお肉を食べたけど途中から食べる事に疲れ始めてさすがにまずいと思ったからお風呂沸騰させて1時間ばかり浸かってからもう一度寝なおした。
あれは子供の頃に山に生えてるカエンタケ食べすぎた時に匹敵するやばさだったわ……。
ちなみに公安に入ってから一度そういった過去の情報全部話して、マウスに再現したレシピを少量投与したところショック死した。
マウスでは比較にならないので象に投与したけどやっぱりショック死した。
仕方ないので生体データに基づいて薬物を投与するシミュレーターを利用してみたところ、地球上でその薬物に耐えられる生物はいないという結論に至った。
なんかね、シロナガスクジラでも0.1mg投与するだけで死ぬらしい。
現状存在するどんな毒物よりも危険なものという事でそのデータは永久封印が確定した。
「あの……」
「どうしたのキャシー」
「なにをしているんですか?」
「見ての通りご飯作ってる。報酬は別途作ってもらうけれど、今はキャシーのお母さんに元気になってもらうのが先だから」
「いえ、それは見ればわかるんですが……多くないですか?」
「え? かなり少なめに作ったわよ?」
「少なめ……」
手持ちの釜いっぱいのおじやに、ドラム缶いっぱいの生姜スープ、それから付け合わせに購入した野菜全部使って作ったお漬物。
一会ちゃん納得のレパートリーなんだけど……。
「あの、普通はお茶碗いっぱいのご飯があれば贅沢ですよ」
「私ご飯の量に関してはおかしいと散々世間から言われてるけど、それはいくらなんでも少なすぎるわよ。私が知ってる限り最も質素な生活してる人はともかくとして、普通はお惣菜に汁物くらいはあってもいいはずなんだけど」
うん、知ってる限り質素な生活してる人だと霞を食べていると豪語して何も食べない人とかいるから。
「この辺りではそんな贅沢できる人いないです……」
「……この国の明暗が見えるわね。そうなると国を内側からどうにかするべきかしら……それとも戦争を終わらせる?」
だとしても国の方針によるわよね……この国が弱者と貧民は虐げられて当然と思っていたら逆効果になりかねないから。
うーん、やっぱりあのお爺さんのお弟子さんと話して決めるべきかしら。
「まぁいいわ。お母さんの容体は?」
「薬を飲ませたら咳もおさまり顔色もよくなりました。それどころかボロボロだった指先とかもすべすべになって……あれ本当にエリクサーだったんですね」
「嘘ついてどうするのよ。ちなみにこのおじや、スープ、お漬物にも使ってるわ」
アレンジで入れてみたけど、ゲーム的な効果で体力回復と一定時間継続回復効果を付与してくれているみたい。
かなり健康にいい食事ができたわね。
「……王族でもそんな高級品食べませんよ」
「知ったこっちゃないわ。いいキャシー、強さの定義について教えてあげる。人は力を求めるの」
「力ですか?」
「そう、なんでもいいから力が欲しい人が多いのよ。例えば財力、お金があればだいたいのことはどうにかできるわ」
「それは……はい、そうですね」
「じゃあ財力を手に入れるにはどうしたらいいか。答えは技術力よ」
「手に職をつけるという事ですか?」
「えぇ、例えばさっきキャシーは酒場で働いているけれど厨房には入れてもらえないと言っていた。でも美味しいご飯が作れるなら厨房のスタッフとして雇われるかもしれないし、お金を貯めて自分のお店を作ることができるかもしれない。けれどそこで止まってはいけない、次に求められるのは発展力に想像力、それから実行力よ」
「力という言葉が沢山ですね」
「それだけ力という言葉は偉大なの。私の場合魔の者になってからは暴力を使うことが多かったけれど、これを国単位で言いかえるならば軍事力かしら。軍事力を求めるには権力が必要、権力を求めるならば財力が必要、全部繋がっているのよ」
「でもそれだと暴力は単体で存在しているように見えますけど」
「そうでもないわ。例えば軍人さんや裏社会の人なら暴力は大歓迎でしょう。そしてそれらで力を持つという事は権力者とのコネクションを得るチャンスが得られるという事。なんでもいいから持っていれば上を目指せる、けれどそれは使い方を間違えなかった場合ね」
「間違えたら、どうなるんですか……?」
「そうねぇ……持ってる力を全て失う、かな。よくて日陰者、悪ければ命という最後のチップすら失うわね」
「……肝に銘じます」
「そうしなさい」
話が早くて助かるわ、それよりスープの具合がいい感じね。
「さ、料理を運ぶわよ」
「あ、そのまま置いといてください。床が抜けます」
……ままならないわね。
本作品は軍人さんと裏社会の人を混同する意思はありません。
刹那さんが言葉足らずなだけで正しく言うならば「軍人なら無秩序な暴力に秩序を与えてくれる、裏組織ならば無益な暴力に利益を与えてくれる」という意味合いの発言です。




