スパイスもう買えないね
街に入って散策、いつもやってることなんだけど港町では目ぼしいイベントなかったし、道中でもそれらしいイベントは無かったからなぁ……。
もしかしたら大陸の方はイベント実装が遅れているのかもしれないわね。
運営さんは最近趣味に走りまくって妙な研究ばかりしているイメージだし。
この前もよくわからない薬作ってたわ。
一時的に体温を40度近くまで上げる事で代謝を良くし、また免疫機能を高め、ついでに会社をさぼれる薬だとか。
飲んだけど私や縁ちゃんは変化なく、首をかしげながら試しに飲んだ運営さんの一人が風邪の症状で倒れた。
3時間後には平熱に戻って笑ってたけど……正直体温だけなら私も縁ちゃんも自由に変えられるのよね。
私の場合で下は30度、上は80度まで、何度かこれで死んだふりしてやり過ごしたことあったわ。
縁ちゃんに至っては下は水が即座に凍結する温度で、上はバケツの水が一瞬で蒸発する温度。
即それを利用して実家のお風呂をサウナにしてもらってたなぁ……いい感じの熱さなのよね。
本人はだるいからいやだって言って断ってくるけど、何かしらの賄賂を渡せばしぶしぶ引き受けてくれた。
「きゃああああああ」
「へへっ、静かにしな嬢ちゃん」
「誰か、誰か助けてください!」
うーん、ほんとに何もないわね。
路地裏から聞こえた悲鳴、無視するのも気が引けるのでキメラ馬車の一部を送り込んでスルー。
路地裏から悲鳴と助けを求める声が増えたけど気にしない。
私が起こしたトラブルじゃないからノーカン。
「おうおう、そろそろこの店売ってもらおうか」
「ま、待ってください! 借金は返したじゃないですか!」
「ありゃ利息だろ? さっさと残りの50万リル払ってもらおうか」
「横暴だ!」
「へっ、うちから金を借りた昔のお前を恨むんぶべっ」
なんか恐喝してたので50万リル入った袋をぶん投げておく。
金属バットへし折った時と同じ要領で投げたから悲惨なことになってるかもしれないけど気にしない。
お金は文字通り腐るほどあるからね、攻撃手段にゲーム内通貨の金貨ぶん投げてるくらいには余ってる。
というかなんだかんだでお金に困らないゲームよね、カジノで荒稼ぎできるし。
「お、クエスト掲示板だ。懐かしいなぁ」
化けオン始めたばかりの頃は掲示板周りに聖水撒かれたりしてまともにクエスト受けられなかったのよね……。
思えばあの時マンドラゴラと出会って、いろいろ悪用して、英雄さんに会って、初めてマンドラゴラを食べて……そういえばあれ以来食べてないわ。
調理しても食べられないと聞いてたけど、案外大陸だとメジャーな食べ物かもしれないわ。
もしそうだったら是非食べてみたいわね……生と調理品ではかなり違いが出るのだから。
「あ、あの、いいですか?」
「ん?」
「クエストを張りたいんです……」
「あぁお邪魔でしたね、ごめんなさい」
後ろから声をかけてきた相手を見ようとして視線が空を切る。
きょろきょろと見渡してみるけど声の主は見つからない。
……あ、下か。
祥子さんも背が低いけど私がぎりぎり視界におさめられる身長だからこんなことは無かったけど、子供とかの体格で近くにいると胸で見えなくなっちゃうのよね。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
道を開けてようやく姿を確認できた、小さい女の子……服は汚れて顔も煤がついている。
シャツからのぞく腕は細く、あまり裕福な暮らしはできていないのだろう。
うーん、まぁもっと酷い現場とか見てきたから同情心とかはわいてこないんだけど……。
「薬の調達依頼ねぇ……この金額だと受けてくれる人いないんじゃないかしら」
ふとその女の子の張り出したクエストを見て言ってしまった。
トラブルメーカーの刹那さん、フラグを潰すのは日常茶飯事です。
ゲームだから抑えてたけどテンプレ的なのは潰すようになってきた。
 




