師匠
本作品は戦争についての記述などが存在しますが、事前に書いたものを投稿しております。
ご了承ください。
「いやーこれ美味しいですね、なんて料理ですか?」
「名前なんてないよ、ただのごった煮、田舎料理さ。それにしても姐さんいい食いっぷりだねぇ。あたしゃこんな風に食べてくれる人が大好きなんだ! ほれ、おかわりいるだろ?」
「いただきます!」
あの後村に入ってご飯を御馳走になった。
お爺さんは訝し気にしながら私の後をついてきたけど、ひたすらご飯食べてるだけの姿を見て毒気が抜かれたような顔してた。
……毒も美味しいのになぁ。
「して、お前さんは本当にこれ目当てなのか? もっとこう……村を滅ぼそうとしたりとか考えておらなんだか?」
「滅ぼしてどうします。美味しい料理があるならたとえ火の中水の中草の中森の中あの子のスカートの中までも探索しますよ」
「ふむ、スカートの中は大賛成じゃが……そこまで食にこだわるのか?」
「魔の者は美食家が多いですからね。かくいう私も未知の味を求めて魔の者になりました」
日本人は舌が肥えてるなんて言われる昨今、化けオンの時代背景と並べてみると美食家と言われても仕方ないレベルだと思う。
実際結構な人が美味しい料理を求めて自炊してるらしいからね。
なんていうのかしら……最初の街とかの店売り品も悪くないんだけど、美味しいと手放しでほめられるような味ではないという評価がそこかしこにあるのよ。
本当に味は悪くないんだけど、あと一歩何かが足りないという評価が多い。
「魔の者とはよくわからん存在じゃな……お主以外には会ったことがないから一概には言えんが、変わり者の集団と思ってよいかの」
「大体あってます。中には最初から村を襲う事を前提に動いているのもいるので楽観視は危険ですけどね」
「ほう……一枚岩ではないのじゃな」
「そりゃそうですよ。人が3人集まれば派閥ができるといわれていますからね。その1000倍を優に超える人数がいればみんな同じ方向を向いてなんて無理です。強いて言うなら危険思想の持ち主は極少数という事でしょうか」
「ふむ……」
「ちなみに中には強い人と戦いたいだけの人もいるので、さっきみたいに強さを見せつけると逆に高揚するタイプもいます」
「なんと厄介な……」
「私は美味しいご飯が食べられるならなんでもいいタイプなので、必要とあらば戦端をひっかきまわすことだってしますけどね」
「……なんと厄介な」
なにを言うか、人はご飯のために戦争できるんだぞ。
というか過去に起こった戦争のうち結構な割合でご飯関連が多い。
胡椒の歴史を見ても貴重品だった頃はそれ目当ての戦争だってあったくらいだもの。
人はね、ご飯と欲には勝てないのよ。
まぁ……私も若気の至りでやらかしちゃったこともあるからね、戦場カメラマンとして戦地に赴いて捕虜になってしまった時ご飯が足りずに独房抜け出して我慢できず備蓄食料全部食べ尽くしたら戦況が傾いて功労者扱いされそうになって逃げかえったりとか……が、数十回。
だから今でも立ち入り禁止の国があるし、行けば英雄扱いされるけど国家情勢に関わるという事で遠回しに来ないでくれと言われる国もある。
中には国賓待遇でいつでも出迎えるし、なんなら国籍も用意するから来ないかと誘ってくる国もあるけど日本食が好きだからお断りしている。
特に今は秘密裏とはいえ公安に所属しているし、私の身体はある種の国家機密の塊みたいなものだからね。
暗殺されるんじゃないかしら、できるかどうかは別として。
とはいえ、祥子さんがいない国に行くつもりはない。
あの人は私のオアシスだし、人は水とご飯がなければ死ぬのだ。
「して、目的は本当に食事だけなのか」
お爺さんの目がギラリと光る。
あ、これ司馬さんが獲物見つけた時の目と同じだわ。
「他にもう一つ、追加があるとすればさらにもう一つだったんですけどね……増えましたよ、理由が」
「その答えによっては首が飛ぶと思うがよいぞ、若いの」
「一つは、この料理のレシピを教えてください! 可能なら材料も売ってほしい!」
「想定内の答えじゃな。増えた理由は何じゃ」
「それはですね」
煮物の入っていた器を料理を出してくれた女将さんに返して立ち上がる。
お爺さんの視線が鋭くなるけれど気にしない。
「お爺さん、私に修業をつけてくれませんか?」
「なぜじゃ?」
「お爺さんが強いからです。私のお母さんとか、司馬さんとか、強い人はたくさん知っているけれどあなたの強さは純粋な鍛錬によるもの、そのくらいは見ればわかります。お母さんや司馬さんみたいな生まれ持った才覚ではない練り上げられたものを知らない。だから知りたいんです」
ついでに剣を手に入れたからちょっと使い方覚えたいなって。
なんかすごそうな武器だけど、私装備できないから恩恵受けられないのよ。
けどゲーム的に使うことはできる、端的に言うなら手に持って振り回すことはできるからね。
ただ日本刀の使い方は知ってるけど、西洋剣の使い方は知らないのよ。
だから教われるならちょっと知っておきたい。
「……良い目をしておる。じゃが引退したおいぼれにそのような事を頼むのは酷というものじゃ。紹介状を書いてやる故弟子に話を持って行きなさい」
「ありがとうございます。といってもまたご飯食べに来るからその時ちょっと遊んでもらえますか?」
「その程度ならよかろう。ただしその遊びで八つ裂きになっても知らんぞ」
「それは私が弱かっただけのことなので」
「ふっ、やはり魔の者はどこかおかしいんじゃな」
「ちなみにですけどお弟子さんの獲物は?」
「仕込み杖と剣、他にも体術や暗器の使い方など様々じゃ」
「じゃあ剣を中心にお願いしてもいいですか?」
「よかろう。あやつはひねくれものじゃから他も仕込みそうじゃがな」
ふむ、結構面倒くさそうな人なのね。
美味しいご飯持っていくとかで取り入るのはどうだろう。
私ならご飯貰えたら打ち解けられるんだけどな。
明日から褪せ人になって走り回ってきます。




