初犠牲者
触手を使い木々の間を飛び回り獲物を探す姿はハンター……だったらいいんだけど、どう見てもターザンなのよね。
まぁもとより東の森はプレイヤーにとってもモンスターにとってもリスクの高い土地。
マンドラゴラが普通に生えているから草食動物が近づかないし、それを餌にする肉食モンスターも近づかない。
だからかなりモンスターが少ないし、それを狙うプレイヤーだっていない。
そもそもマンドラゴラ引き抜かれただけで負け確定の状況だからね、本当にリスクしかない場所なのよ。
狩場としては美味しくないと断言できるわ。
だけどまったくモンスターがいないわけじゃない。
例えば外敵がいないからこそ東の森を寝床にしているモンスターだっているし、マンドラゴラを食べる事のない猿のようなモンスターもいる。
私が狙っているのはこの猿、地上を歩くのは上を取られるから避けているけどなかなか見つからないわ……ちょっと飽きてきた。
1時間ばかりターザンごっこしてるけどいまだに遭遇できないってどういうことなのかしら。
どこかに巣があるとかそういう類だとしたら痕跡を探して追いかけなきゃいけないけど……猿のマーキングって何かしら。
熊とかイノシシは何度か狩ったことあるけど猿はないのよね。
食べたことはあるけど。
それにしてもどんどん奥に向かってる形になってる、ちょっと嫌な感じがするわ。
なんというか、森の奥ってまさにボスの寝床みたいなイメージがあるから。
まぁそうなったら逃げるんだけど。
「お……?」
適当な木に飛び移ると美味しそうな果物がなっていた。
うん、これはいくつか持っていきましょう。
食材確保っと。
「あ、こっちにもある!」
あっちこっちと木々を飛び回って果物を確保していく。
なんか趣旨がずれてきたけどこれはこれでアリね。
別に経験値とか稼ごうと思ってイベントに参加してるわけじゃないし、あわよくばレアな食材がゲットできたらいいなとか、料理のレシピが気になるなという感覚だったから。
参加理由が「開催していたから」だし。
なによりこういった食べ物は記事に使える。
「うーん、美味しそう……ちょっとつまみ食いしちゃおうかな」
パクリ、ともぎたての果物をかじった瞬間だった。
「え?」
ポンッと、私は町の中に立っていた。
……システムメニューから死亡履歴を確認して、毒を食べたって書いてあるわ。
あの果物、毒だったのね。
でもみずみずしくておいしかったなぁ……これ食べ続けたら毒耐性みたいなのつくかもしれないわね。
ちょっと採取して大量にとってきて食べましょう。
もしかしたら毒に強くなって美味しく食べられるかもしれないわ。
そう思って2時間、日が暮れるまで木の実を集め続けた。
どれに毒があるのかは食べてみないとわからないけれど、デスペナを積む覚悟はできている。
「じゃあいただきまー……?」
がさり、という音を耳にして大きく口を開けたままそちらに視線を向ける。
目的が入れ替わってしまっていたけど、当初目的としていた猿が木の上に鎮座していた。
えーと、そういえば3時間たってるから今は夜なのよね。
それで昼間は出くわさなかった猿とエンカウントした、ということはこいつらは夜行性?
うーん、さっき毒で死んだペナルティは解除されてるけど相手のレベルが不明。
英雄さんから受けたペナルティが残っているから弱体化している私。
ここで挑むのは蛮勇かもしれないけれど……どうせ死んでも大したことないしやってみますか。
まず猿のいる木に接近、飛び移って爪を振り下ろす。
「ききゃ!」
こちらの攻撃に驚いたのか、身をひるがえして猿が避けるけれどそれを追尾する触手。
空中で方向転換する術を持たない猿を捕まえて引き寄せる。
筋力とかで負けてたら触手をちぎられるかな、とか思ったけど杞憂だったみたい。
そのまま心臓部に爪を突き立てて、一撃で絶命させる。
「死者呪転!」
レベル的に行けるかわからないけれど猿の蘇生を試みると成功した。
うん、まず一匹ゲット。
ステータス画面から使役中のモンスターを確認するとレベルは2、もう一体使役できるわね。
「ねぇ、あなたの仲間は近くにいる?」
「キキッ!」
一声鳴いて先導するように木に飛び移っていく猿を追いかける。
うん、本格的にターザンになってきたわね。
それはさておき、少し進んだところで二匹目の猿とエンカウント。
さっくり使役して、これで準備は整ったわ。
二匹目はね、背中から心臓を貫いたから正面からは傷が無いように見えるの。
これも仕込みの一つで、普通のプレイヤーが真下から見たら血を滴らせたモンスターに見えるようになっている。
そちらに注意を向けている相手をさっくりとやるつもりでいるのだけど……プレイヤーが来ないのでその間にマンドラゴラを採取。
近くの植物から葉っぱをもらって簡易鉢植え状態にして、1匹目に持たせる。
間近で引っこ抜けば大抵の相手は即死するのよね。
ゾンビとかスライムみたいな心臓のない種族には効かないみたいだから使いどころが難しいけれど、銀装備の相手とかならこれで勝てるわ。
よし、プランを考えましょう。
ステータス画面を見ると次のレベルまでの必要経験値はそんなに多くない。
でも猿を何匹か倒したくらいじゃ時間がかかりすぎるかなという印象もあるので、経験値効率がいいプレイヤーを狙う。
ここを根城にしようというプレイヤーはマンドラゴラが平気なタイプが多いと思うから、多分聖属性魔法を使ってくることはないし銀装備の人も多くないはず。
問題は見つけられるかという事なんだけど……。
「あなたたち他のプレイヤー見かけてないよね……」
「キ?」
「キキッ」
「キィ……キッ!」
あ、見かけてるらしい。
そっちに案内してもらいましょう。
イベント最初の敵プレイヤーは誰かしらね……。
それからしばらく進んで猿のおかげでプレイヤーを見つけることができた。
私と同じことを考えているのかマンドラゴラを鉢植えにしている……ご丁寧にちゃんとした植木鉢だ。
わざわざ用意したのかな……その場で作ればいいと思うんだけど、葉っぱの植木鉢だといざという時に困るとか?
まぁいいや、マンドラゴラ採取中の彼……でいいのかな。
鬼みたいな角をはやしている人物はせっせと地面を掘っているから不意打ちを狙える。
見たところ装備は布の服とナックルダスター、インファイトを中心としたプレイヤーみたいね。
正々堂々なんてことは言わない、今の私は化け物だもの。
だからしっかりと、不意打ちをさせてもらうわ。
まず木の上から飛び降りて背中にしがみつく。
そしてお約束。
「ドレイン!」
「ぐあっ!」
ふふふ、効いたみたいね。
どれくらいかはわからないけれどHPががっつり削られた様子で少しふらふらしている。
私は基本的に即死しかしてないからわからないけれど、HPが減ると風邪をひいたときみたいにだるくなるらしい。
「くそっ、不意打ちか!」
拳を構えて殴りかかってくるけれど、英雄さんと比べたら遅い!
「しっ!」
突き出された右手を爪で引き裂いて、そのまま掌底を腹部に打ち込むと同時にドレインを発動。
よろけたところで膝を蹴り砕いて、心臓に貫き手を決める。
「かはっ……」
すぶりと、血に染まった手を押し込んでダメ押しのドレイン。
それでHPが全損したのか、鬼のプレイヤーさんはどさりともたれかかってきて光の粒子になって消滅していった。
よし、初勝利ね!
今の状態でどこまで戦えるか試してみたけど、近接戦専門の相手でも問題なく戦えるみたいね。
でもドレイン3回使ってようやくだから、最初の不意打ちが失敗していたら負けていた可能性が高いわ。
あくまでも相手の鈍った判断力と、HPを削ったことによる鈍化が決め手になったようなものだから正面から撃ち合えば十中八九負けていたわね。
もしかしたらそこまでレベルの高いプレイヤーじゃなかったのかもしれないけれど、今後も油断は禁物……っと、レベルが2になった!
これで猿の数を増やせる。
……わざわざ猿を捕まえる必要あるかしら、不意打ちに特化しすぎているからかく乱するために狼とか捕まえたいわよね。
「ねぇ、狼の寝床とか巣はわかる?」
「キキッ!」
あ、わかるみたい。
この子達有能ね、イベント終わるまで生き残れたら……というのはおかしな言い方だけど、このまま残っていたら呪魂摘出でりりと同じように魂を抜いていずれキメラみたいなものを作る時に流用させてもらおうかしら。
そういえば呪魂摘出や死者呪転みたいなネクロマンサーの技ってプレイヤーにも効くのかな……さすがにプレイヤーはリスポンすると思うけど、死体はそのまま使える可能性がある。
次に見つけたら試してみようかしらね。




