伊皿木アンタッチャブル
「かんぱーい」
ともあれ当面の問題はおおよそ片付いたので皇国ホテルで豪華なパーティを開いている。
オーナーからは「ほどほどに」と釘を刺されてしまったけどね。
まさかオーナーが知り合いだとは思わなかった……重金さん、あなた場末のバーテンダーじゃなかったのね。
なお話し合いの結果食べ放題チケットに関しては食材100㎏あたり1枚換算ということになった。
門前払いもできるがどうするかと脅されたら……ねぇ?
くっ……これでは10tしか食べられない。
「いや待てよ……お金さえ払えばいいのか」
「刹姉、何かよからぬことを考えてるわね?」
「考えてるけどよからぬことではないわよ? お得意様になる方法」
「へぇ……まぁ私としては美味しい料理と美味しいお酒があるならいいけど」
そんなことを言いながらワインを飲み干す一会ちゃん。
我が家で一番肝臓が丈夫な彼女は並大抵の量じゃ酔わない。
いや、正確に言うなら……そうね、私はある程度の加減をすることで薬とかなら効くように代謝を抑える事ができるんだけど、一会ちゃんの場合抑えても無効化してしまうほど肝機能が強い。
兄妹みんなでピクニックに行って遭難した時、私と一会ちゃんだけがぴんぴんしてて他のみんなはお腹壊してたといえばわかりやすいかしら。
さすがによくわからないキノコを生で齧るのは良くなかったわね……。
縁ちゃんに関しては何も食べなかったから腹痛は起こさなかったけど、途中で倒れたので私が担いだ。
最終的には羽磨君が臭いをたどって道を探し出して、どうにか家に帰ることができたんだけど……あの時は大変だったわ。
「あ、これ美味しい」
「ん? ……あぁ、それは鴨肉のソテーね。かかってるソースはオレンジベースかしら」
「よくわかるわね……」
「皇国ホテルの料理は各国で食べてるからね。もちろんお国柄によるメニューの違いはあるんだけど、名物料理に関して言えばどこの国でも同じ味を出してくれるのよ」
「へぇ、伊達にジャーナリストやってないのね」
「一会ちゃんは知らないかもしれないけど、結構バラエティ番組にも出てるわよ?」
この前は東京バベルから紐なしバンジーチャレンジしたわ。
2000年代中ごろに作られた東京スカイツリーに次ぐ三つ目の電波塔、その高さはなんと成層圏に達するといわれているほどで内部には最新鋭の空調設備が用意されている。
それ以上に登る際には死んでも文句言わないという同意書にサインしなきゃいけないというとんでも建築物なんだけどね。
紐なしバンジーチャレンジはどの程度の高さから飛び降りられるかを競う番組で、1m単位で1万円のお金がもらえる。
ただし貰えるのは勝負に勝った人で、記録は私がてっぺんから飛び降りた時の数字だった。
……詳細は省くけど番組出禁になったとだけ言っておくわ。
ちょっと衝撃殺すために伊皿木流戦闘術とその他の武術を併用して地面にクレーター作っただけで物凄く怒られたし、賞金から修繕費引かれた。
こんなことなら普通に着地しておけばよかったと後悔したけど、それでも一矢報いてやったからよし。
プロデューサーがね、気に食わなかったのよ。
「フリーのジャーナリスト風情がテレビに出させてもらえるんだから命ぐらいかけて面白い画を撮らせろよ。あぁでも死んだら問題になるから重傷くらいで抑えてくれ」
なんてニヤニヤしながら言ってくるからね。
それだけならまだしもご飯の席でセクハラしてこようとしたし、お酒を言い訳に人のお尻撫でようとした。
まったく、ビール10杯飲んだくらいで記憶飛ばすほど人間やわじゃないでしょうに。
樽酒飲んでからならまだしもあの程度の飲酒量で酔ったふりなんて馬鹿じゃないのかしら。
結局企画を考えたプロデューサーは各方面からバッシングを受けて降格&僻地への異動が決まったからヨシ。
「せっちゃん? なんか険しい顔してたわよ」
「あぁごめんなさい。ちょっと嫌なこと思い出しちゃって」
「そう? 何かあるなら相談乗るわよ」
「大丈夫です。過ぎたことですし」
「過ぎたことねぇ……」
「えぇ、今はここの料理をどうやったら食べ尽くせるかが重要です。追加料金を支払おうとも……ね」
「……なるほど、お金の話か。察するにこの前の番組関連ね。あれ後始末大変だったんだからね?」
「あ、あははぁ。ごめんなさい! いや、生身で着地してもよかったんですけど服が破れると困るのでつい……」
「そういうことにしておいてあげる。けど、最近は妙な企画ばかり持ち込まれてるらしいじゃないの。来週はホラー番組のロケ、再来週はサハラ砂漠縦断、来月には突撃紛争国家企画でしょ? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ホラーロケに関しては実家の仕事の方が、サハラ砂漠はビキニでヒマラヤ山脈横断の方が、紛争国家はマフィア30組に追われてみた企画の方が大変でしたから」
「……せっちゃん、今度その企画だしたテレビ局教えてね」
「わかりました。リストアップしておきますね」
うーむ、公安の取材でもさせるのかしら。
まぁそれより今は料理の方に集中しましょう。
美味しいご飯なのにお仕事の話はポイで!
干しても使っても厄介な刹那さん、断ってほしくて無茶な仕事割り振るテレビ局とそれを余裕でこなす刹那さんという対比によりお茶の間ではそれなりに有名です。
良くも悪くも……。
重金さんに関しては「場末の店主が実はすげぇ人だった」というのをやりたかったんだ……すげえのは間違いないが人でもなかった……。
あと今更ですが伊皿木家に関しては飲酒量がおかしいので真似しないでください。
自称一家で一番弱い刹那さんも樽三つ飲み干して眠くなる程度です。




