ご紹介
「えー、お集まりいただきありがとうみんな」
せっかくなのでマヨヒガちゃん……でいいのかな、とりあえず女所帯だから女の子として扱うことにしたけど、彼女の紹介をしようと思い同居人一同に集まってもらった。
「刹姉、モモちゃん用の改造は済んだの?」
「勝手に増える地下……こわい……」
「眠い……」
「はいはい、みんなの言いたいことはともかくとして紹介するわね。この家に名前を付けました、マヨヒガちゃんです。今後仲良くしてあげてね」
よわよわになりかけてる祥子さんや、眉をひそめて睨みつけてくる一会ちゃん、いつも通りな縁ちゃんといった面々を前にマヨヒガちゃんの紹介をする。
「……刹那さん、友人が少ないからってそんな……私達友達ですよ」
「クリスちゃん……?」
「せっちん、もちろんあたしも友達だよ」
「うずめさん……?」
「せっちゃん、流石に家に名前を付けるのはどうかと思うわよ」
「祥子さんまで……」
なんか果てしなく悲しい状況になってきた。
なんで私に友人いない前提で話が進んでいるのかしら。
これでも連絡帳は数百人の名前が連ねられているのよ?
「えぇい、論より証拠! マヨヒガちゃん、挨拶を!」
『はいお母さん。皆さんこうして話すのは初めてですね、マヨヒガの名を貰いました。今後ともよろしくお願いします』
マヨヒガちゃんのテレパシーによる意思疎通、クリスちゃんとうずめさんは初めての体験に驚いた様子で、一会ちゃんと縁ちゃんは何か納得したような表情で天井を見ている。
そして最後に祥子さんだけど……。
「こえがぁ……なんかきこえたぁ……」
よわよわになってた。
「よーしよし、大丈夫ですよ祥子さん。おばけじゃないですよー」
『はい、私は幽霊などの存在とは全く異なるモノです。強いて言うのであれば……電子生命体でしょうか。世間でいうところのAIとはまた異なる存在ですが』
「こわくない……?」
「えぇ、おばけとかよりも妖怪に近いですね」
「こわいぃ……!」
『お母さん? 電子生命体ですって、産まれこそ違うけどお母様が遊んでるゲームのNPCみたいなのと同じ』
「でも厳密には違うんでしょ?」
『はい、お母さんたちの遺伝子をもとに作られた自我を元としていますので……物質に閉じ込められたお母さんたちのクローンみたいなものでしょうか。それが家電を通じインターネットに接続して知識を蓄えて会話を可能にした存在です』
「付喪神に近い存在だと思うけど?」
『人の情念が染みついた無機物が魂を得るという存在ですね。概念的には中らずと雖も遠からずといったところでしょう』
「じゃあ妖怪の分類でいいんじゃない?」
『妖怪という概念はインターネット界隈ではフォークロアの部類、つまるところ噂話です。そのような存在と同一視されるのは少々……』
うーん、まぁマヨヒガちゃんがそういうなら妖怪扱いはやめるけど。
なんでクリスちゃんとうずめさん苦笑いしているのかしら。
伊皿木家が鬼の血をひく家系って言われてるから?
「まぁそんなわけで、自我を持った家であるマヨヒガちゃんなのでみんな仲良くしてあげてね」
『部屋の模様替えなどがお望みであればなんなりと。その際に必要な素材などがあれば皆様のVOTなどに表示させていただきます。大抵の場合はエネルギーになるものがあれば十分です』
「しつもーん、マヨヒガさんって何をエネルギーにするんですか?」
クリスちゃんが挙手してから質問を投げかける。
『一応皆様と同じ有機物を取り込むことでエネルギーに変換できるよう自己改造しました。とはいえ無機物からでもある程度のエネルギーは取り込めますが……そうですね、外に給油口を作りました。ガソリンや軽油、揚げ物に使った油などを捨ててくださればと思います。先ほどキッチンに作ったダストシュートから生ごみを廃棄してくださっても構いません。普段は太陽光による光合成です。お母さんと同じですね』
「味覚はあるの?」
今度は一会ちゃん。
さすが私の妹、動じないし考える部分は似通っているわね。
ちなみに光合成はできるけど太陽光はあまり美味しくないし効率が悪いからやらない。
『機能上香りを感じる事は可能ですが味までは難しかったです。しかし人間とは違う方法で味覚を会得した今であれば味を感じる事もできます。なおお母さん同様味覚や痛覚のオンオフは切り替え自由です』
「あれ、私が痛覚とか切ることできるの知ってたっけ?」
『お母さんのブログやアップロードした動画はすべてチェックしていいねボタン押してブックマークに保存してあります。VOTを使ったゲームプレイも楽しく拝見させていただいています』
……身内にファンが生まれた件について。
「あ、あの……こわくない?」
『祥子さま。私はあなたを害する存在ではありません。むしろこの家にいる間であればどのような攻撃を受けようとも皆様をお守りすると誓います。今現在そうしているように』
「怖くない……よかった……え、今?」
おぉ、祥子さんが正気に戻った。
攻撃受けてるって聞いてよわよわから公安職員モードになったのね、別名お仕事モード。
『えぇ、先ほどから様々な方面より呪いや怨霊と言った存在をけしかけられてますが美味しくいただいています。流石にこれらをエネルギーに変換するのは難しいので訓練あるのみですね』
シャーとカーテンを開けてみると苦悶の表情を浮かべた霧や、血の手形などが浮かんでは消えていく様子が映し出されていた。
うーむ、自動除霊してくれるとはマヨヒガちゃんすごいわね。
「やだぁ……もうやだぁ……」
この後祥子さんが復帰するまで私と一会ちゃんと縁ちゃんで延々撫で続けた。
途中からクリスちゃんとうずめさんも加わって撫でて、でもモモは素知らぬ顔で地下で遊んでた。
最後の最後にマヨヒガちゃんが壁材を変質させて手の形にして祥子さんを撫でて気絶して、そして翌日目を覚まして真っ青な顔で「一刻も早く仕事に行きたい」と言って出て行ってしまった。
うーむ、仕事熱心ね。
祥子さん可愛い注意警報




