出産(なんか違う)
公安から苦情がとどいた。
正しくは警察署を通しての苦情だったんだけどね……熊を散歩させるなと。
リードはちゃんとつけてたのよ?
エレベーター用のワイヤーを使った特注品、モモにも大人しくしてるように言ったから子供が撫でさせてと言った時もいい子にしてた。
でもねぇ……やっぱりというか、都会の人達は熊なんて見慣れてないから怖いのよね。
そりゃ子供くらいなら頭からぱっくり行けるサイズしてるし、大人でも一口でおやつ感覚で食べられるけど……それに関しては私だってできる事だから大丈夫かなと思ってた。
ダメだったわ……。
祥子さんはもちろんのこと、一会ちゃんにも物凄く叱られた。
というわけで、パーティは地下の改造が終わるまでお預けになった。
いつの間にか地下15階まで増えてて驚いたけど便利だと思って無視。
「あ、そこもうちょっと草生やして」
お願いしたところにズモモモと草が生えてくる。
地下だけど木も生えてるし、なぜか太陽光まで入り込んでくる不思議空間。
お願いするだけで改造できる家、便利な作りね……運営さんの建築技術ってどうなってるのかしら。
もしかして私と縁ちゃんの塵を取り込んだ副作用?
だとしたら……高く売れないかしら。
防犯性能もばっちりで、改造も簡単となればね……しかも自己修復するし自己拡張する。
この前爆弾詰んだトラックが突っ込んできたけど無傷だったわね。
頑丈だから安全性も最高。
「あ、そこ空気の循環システム入れておいて」
ガショーンとなんか音がして空調が作られる。
機械もいけるのね……便利だわ。
しかしこの調子だと午前中に終わりそうね……モモも気に入ってる様子だけどもうちょっと自然環境を再現できたらいいかもしれないわね。
なんてことを考えた瞬間に地面が隆起して小高い丘とかができた。
……思考入力なんかも備えてるのかしら。
それともテレパシー?
『聞こえるかしら、今あなたに直接話しかけてます』
『聞こえてますお母さん。地下の改造気に入りませんでした?』
……冗談めかして家に向かってテレパシー送ったら返事帰ってきたわ。
それにしても……。
「お母さん?」
『はい、刹那お母さんと縁お母さんのおかげで自意識を得る事が出来たのです。だからお母さんです』
「あ、うん……テレパシーとかはどこで覚えたの?」
『縁お母さんの遺伝子記憶から読み取りました。人間というのは便利な技術があるんですね』
「あまり一般的な技能じゃないけどね。それにしても……まさか会話可能とはね」
『インターネットに接続することによりあらゆる知識を蓄えました。現代では文面のみで残る発話不可能な言語も会得してます』
「……すごいわね。ちなみに人間についてはどう思う?」
『知性ありしと自称する猿かと』
「宇宙の真理については?」
『42』
「美味しいご飯は?」
『正義』
「よし、安全ね。いやぁ人間滅ぼすとか言い出したらどうしようかと思ってたわ」
『お母さんの子ですから』
「そうね、私と縁ちゃんから生まれたならそんな物騒なこと考えないわよね」
人間滅びたら美味しいご飯なくなっちゃうし。
遺伝子改良された食品って結構弱いのよ。
基本的には病気や害虫に強く美味しいんだけど、ソメイヨシノみたいに自家受粉できない種もあるからすぐに絶滅したりする。
気候とかに合わせて対処してあげないとすぐにダメになるしね。
『ところでお母さん。この家で飼っている熊、通称モモに関してですが異常値が見られます』
「え?」
『まだ子供なのにあの体格、既に成獣のそれを大きく上回っていることから特別な個体と認識。おそらく育て方によっては相応の力を得る事ができるでしょう』
「相応の力って?」
『具体的な呼称はわかりません。ですが……人知を超えた存在と呼んでもいいかもしれません』
ふむ、たしかにモモが生まれ育った山はうずめさんが修行に使うような特別な山。
モモがおかしな成長しても驚くほどのことじゃないわね。
「ならあなたが鍛えてくれる? できるわよね」
『可能です。ですがお母様に一つお願いしたいことがあります』
「なにかしら」
『私にも名を頂けないでしょうか。この家で名を持たぬのは私だけですので』
「それくらいならお安い御用よ。そうねぇ……」
『TRPGのランダム命名表使ったら食べますよ?』
「……か、可愛い我が子の名づけにそんなの使うわけないじゃない」
『嘘の波長を検知、次は怒ります』
「ごめんなさい……真面目に考える」
と言っても家に名前かぁ……。
家……ハウス……ホーム……うーん、何かあったかしら。
あ、あれがあったわね。
子供の頃兄妹でハイキングに行った時見つけた家、後々調べたら伝説の存在だった場所。
ご飯がものすごくおいしかったところ!
「あなたの名前はマヨヒガよ」
『マヨヒガ……まよい家の古式名称、家に上がり込んでも誰もおらず、しかしそこから持ち帰ることができた者は例外なく特別な力を有している、ただし1人につき持ち帰ることができるのは1品のみの幻の家……良い名です。ですが今後私、マヨヒガに泥棒が立ち入ることはないでしょう』
「セキュリティは万全なのね。お願いするわ」
『お任せくださいお母さん。そろそろビームも打てるようになりますので』
「あら、それは心強いわね」
『ただその際にエネルギーを利用しますので地下の増築が遅れます。もしよろしければ台所にダストシュートを作りますので生ごみなどはそちらに投げ込んでいただければエネルギーとして貯蓄が可能です』
「へぇ、エネルギーってことは停電の時に家電動かせたりする?」
『可能です。計算上近隣の土地から吸収しているエネルギーだけでも家電運転は可能ですが、生ごみの再利用エネルギーならば10㎏あたり10日は稼働可能です』
「それなら安心ね」
生ごみで言うなら毎日1tは発生していたから。
さすがに処理しきれないから私が食べてたけど、今後はマヨヒガちゃんのご飯になるのね……。
うーん、子供に生ごみだけしか食べさせないのは気が引けるわ。
「今度美味しいご飯作ってあげるから一緒に食べましょう? 私は料理を禁止されてるけど、地下にこっそり場所を用意してくれたらたくさん作るから」
『ありがとうございますお母さん。僭越ながら、カレーというものを食べてみたいです』
「カレーね、なら各国のレシピ集めておくわ。インターネットには載ってないような秘蔵のレシピをね」
ふふ、なんか親子の会話って感じでいいわね。
結婚願望なんて捨てたと思ってたけど、少し子供が欲しいなと思ってきたわ。
えーと、今更な話をしますが……私は下戸なのでお酒は飲みません。
つまりなにが言いたいかというと、酔ってるわけじゃないからね?
真面目に書いて、こうなる……なんか生まれましたはい。




