実は一番不思議な人
それからしばらくクリスちゃんとテレビ見ながらのんびりとした時間を過ごした。
いやー、最近のテレビは便利よね。
昔は置き場所とか考えなきゃいけなかったらしいし、テレビ局ではいまだにそういうの使ってたけど昨今はポスターと同じ扱いだもの。
壁があれば張り付けて、持ち歩きもくるくると巻いて手軽。
設定もインターネット接続してれば業者が外部からやってくれるし、セキュリティもばっちりだから簡単なのよ。
なんならネット系列の動画サイトの登録まで済ませてくれて、支払いは毎月テレビ料金と一緒になんてプランもあるから。
私が子供の頃はまだ据え置きと言われるタイプしか普及してなかったものね……。
携帯端末の進化も一度は人体にチップを埋め込んでという形になりそうだったけど、それを悪用した犯罪がいくつか発生した事で体外に置いておく方が安全で楽という結論になって進化が止まってた。
テレビも軽量化とかは進んでたけど、ここまでの進化には結構な時間がかかったと考えるべきかしら。
「ただいま、刹姉。クリスさんからお話は聞いてるわね?」
「ウィンドウショッピングでしょ、いくらでも付き合うわよ」
「そう、いい子ね。ごねるようだったら首を絞めるか、食道を絞めるか、喉を絞めるか迷ってたわ」
「締めるのは変わらないのね……というかお給料最初の金額でいいんだ」
「今のお仕事に比べたら楽な部類だし、私がやりやすいようにできる、職場環境もいいとなればね。対価は過不足無くが基本よ」
「せっかくなんだから多く貰っておけばいいのに」
「多く貰ったらその分のお仕事しないといけないじゃない。あの環境でそれができそうにないからこその判断。それにこれだけ払ってるんだからなんて言われて余計な仕事まわされるのもごめんだからね。その辺りはしっかり話し合ってきたわ」
「へぇ……察するに、新しい仕事が来たら都度お金の相談するって感じで?」
「さすが、よくわかってるわね。葉山さんだっけ、あの人は話が分かるわ」
「まぁそうね、結構柔軟な考え方してると思うわよ」
実際公安の中では相当柔軟なタイプだと思う。
国益になるなら重金さんみたいな犯罪加担している人も泳がせるくらいだし、私みたいなタイプでも使いこなして見せてるように見える。
なんなら下手に拘束するよりも自由を与えて、なんてやり方考え付く辺りかなり視野を広く、考えは柔らかくというタイプね。
情報漏洩の危険とか考えたらガッチガチに固めておきたいのが基本でしょうし、そもそも部外者扱いされてもおかしくない私を使って自衛隊や警察、スパイなんかの底上げにもしてた。
……よく考えたらクリスちゃんもバイトとして迎え入れてるのも異例なんじゃないかしら。
彼女は外国人だから情報漏洩の危険があるわけで、でもそれを承知で受け入れているというのは……そのためのうずめさんかな?
まぁ考えだしたらきりがないけど。
「そういえば祥子さん達は?」
「まだお仕事が残ってるから公安にお泊りだって。縁がシェルターを散らかしちゃったからお掃除もかねて」
「あぁ……縁ちゃんお掃除苦手だものね」
「苦手というか面倒くさがりなだけでしょあれは。家の掃除なら手伝うし、あの子の部屋の手伝いもやぶさかじゃないけどお仕事なら私はノータッチという事で先に帰ってきたわ」
「帰りに変な人に襲われなかった?」
「あー、いたいた。黄色いレインコート着た集団に囲まれたけど蹴散らしてきたわ。あれって公安の試験か何か?」
「いえ、伊皿木家で公安勤務の人はだいたいそういうのに襲われるってジンクスがあるのよ。一会ちゃんなら大丈夫だと思ってたけど怪我とかしてない?」
「一般人に後れを取るような鍛え方はしてない、なんて刹姉には言うまでもないんじゃない?」
「まぁね。でも大切な妹だから心配なのよ」
「ふーん……そう、一応お礼言っておく。ありがと」
「一会ちゃん……いつもそうやって素直なら可愛いわよ?」
「うっさい」
「でも素直じゃないところがまた可愛いのよね」
「はったおすわよ?」
「ひたすら撫でまわしたくなるわ……」
「そういうのは祥子さんにやりなさいよ……あの人なんなの? 可愛いの権化? それとも擬人化? 同性なのに近くにいるだけでドキドキしてくるわ……」
「あの人は……なんなのかしらね。性欲とかそういう方面じゃないんだけど、一緒にいると恋愛感情に似た何かが湧き上がってきて、この人なら押し倒されてもいいって気分になってくるのよねぇ……」
「うん、やばいわ……この人ならキスされてもいいって思っちゃう」
「なんなのかしらね」
「なんなんでしょうね」
うん、とりあえず一番の謎は祥子さんという事でいいわ。
あの人の魅了は恐ろしい。
変人ほいほい……(小声)




