作戦内容
「いやー終わった終わった」
「存外大したことなかったわね」
「目立っちゃいました……恥ずかしい」
女性陣が口々に感想を言いながら観客席に戻ってきた。
うむ、3人とも無傷で疲弊した様子もない。
元気いっぱいといった様子ね。
「白状してくださいニーアさん、イシュタルさん、何やらかしたんですか?」
「白状とは酷いなぁフィリアちゃん、私はちょっと他のギルドにいい話を持ち掛けただけだよ」
ニーアさんがにやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら大仰な身振りで弁明を始める。
いい話とは決していい話ではないのだろう。
この人のことだから絶対に裏がある。
「まずうちのイシュタルとテンショーは有名人だ。有名だし実力もあるとなればみんな警戒するよね」
「そりゃまぁ……実際テンショーさんの魔法はあの威力ですしね」
モニターに映し出された爆心地を指さしながら答える。
うん、私でもあの大きさのクレーター作るのは苦労するわ。
威力を収束させると地面に大穴開けちゃうから……本気の掌底を地面に叩き込むのが早いかしら。
「そそ、だからあれをあなた方の砦に打ち込みませんよ。代わりに協力してください。私達は入賞したいだけですってチーミング持ち掛けたの」
「まぁ……そこまでは普通ですね」
「この先も普通だよ。他のギルドにどこそこのギルドと提携してるから一緒に他潰してからゆっくりやり合おうって持ち掛けたの。今回は100人超えてるギルドとかいたから話が早かったわ」
「ほうほう」
「まぁその途中でちょっと伝達ミスがあったりしたかもしれないけどね! 例えばそう、どこのギルドと提携しているかとか、どこのギルドを狙うかとか」
……なるほど、ニーアさんの手口はこうね。
Aのギルドと提携してCのギルドを潰す方針に、その際テンショーさんが抑止力として砦に魔法を打ちこまないことを引き合いに出す。
100人の敵というのは目に見える脅威だけど、一騎当千が1人というのは目に映らない脅威だ。
100人を発見するのは容易くても1人が隠密行動をとれば見つけるのは難しい。
その条件の中で、今度はBのギルドにCのギルドと提携した、Aのギルドを潰そうと持ち掛ける。
そしてCのギルドにはAのギルドと提携した、Bのギルドを潰そうと持ち掛ける。
これをもっと範囲を広げて行ったのだろう。
今回マッチングしたギルドは内を合わせて10、その全てにこのような方法で同盟を結び、そして騙した。
……いや、何が酷いってこれ、何も嘘ついていないことなのよね。
ギルドとの提携、チーミングは本当のことだし、入賞を目指しているというのは何位を目指しているとは言っていない。
テンショーさんにしても砦に魔法をぶち込んだわけではない。
一切の嘘をつかず、しかし完全に相手をだましきっていた。
けれどこのやり口、ニーアさんらしからぬというか……割と直球で酷い事なのよね。
ニーアさんならもっとドロドロした酷い事を巻き起こして、燃え盛る人々の山の上で高笑いするでしょうに。
ということは……。
「実行はニーアさん、発案はイシュタルさんですね」
「もうばれたのね、流石だわ。確かにこの作戦を考えたのは私よ」
「ですよねぇ、ニーアさんらしからぬ直球勝負だったので」
どや顔で頷くイシュタルさん。
心臓に悪いいい笑顔を向けてくるわ……。
「まぁイシュタルの案が失敗しても私の方で代案を99個ばかり考えていたけどね!」
「その案を使わずに済んだこと、心からホッとしてますよ」
「えー、面白いことになったのに」
「ニーアさんにとっては面白いかもしれませんが、私達にとっては……ねぇ、司馬さん?」
「見たくない光景であるのは間違いない」
「ということです。嫌なものを見ないで済んだので良かったという事で一つ」
「えー、じゃあお披露目は今度かな」
「見たくないつってんでしょうが」
「はっはっはっ、私が見たい、それ以上の理由が必要かい?」
「……ヘルメスさんのようになりたいらしいですね」
「ふっ、あの悪童が何をしたかは知らないけどね。私がそうやすやすと無様な姿を見せると思うかい?」
「もう他国の国家機密横流ししてあげませんよ」
「ごめんなさいなんでもするからそれだけは勘弁して!」
見事なジャンピングバク転土下座を決めたニーアさん。
ふむ……意外とこの手使えるわね。
賞味期限が切れそうな国家機密いくつか横流ししてたけど、ニーアさんはいつもそれを面白おかしく引っ掻き回して遊んでたからね。
最近だとアメリカが宇宙に大勢の人が住める人工衛星を作って、そこに人型ロボットを配置しようとする計画があったとかそういうのだけど基本とん挫したものばかりだから問題なし。
まぁ……たまにとん挫した計画が復活してて驚くことはあるけど、ニーアさんとは無関係でしょ、きっと。
私、なにも、しらない。
酷い作戦を考える奴がいたものだ




