集中
フラッグ戦まで残り3分、準備は万端。
まずはテスカトリさんが街の入り口を封鎖する。
あの人は魔法も体術もすごいが、それ以上にやり口が恐ろしい。
中国のことわざには1人を惨たらしく殺して1000の敵を畏怖させるというものがあるけれど、それを言葉通りの意味で実現できる人だ。
過去の偉人だと吸血鬼のモチーフになったヴラド・ドラクルなんかがいい例だけど、テスカトリさんなら心臓を抉り出し目の前で貪るくらいはするだろう。
初対面の時に豚の心臓を素手で引き抜いて食えと言われたときはさすがに驚いたわ。
美味しかったけど私じゃなければ取材は成功しないといわれた理由を痛感した出来事だった。
ともあれ、そんな感じでがっつり決めてもらって士気を落とす事からスタート。
次に街の悪魔達が誘惑なり暇つぶしなりで叩き潰す。
これで多少なりとも数が減ればそれでよし、減らなければ領主邸の前を固めている私が薙ぎ払う。
最後にリルフェンさんとロッキーさんがフラッグであるエリクサーを守る。
この二人、普段はライブにかまけているけれど戦闘となると強い。
特にリルフェンさんはべらぼうに強い。
それこそ対人戦ならクリスちゃんより強いんじゃないかしら……。
ロッキーさんはその辺わからないのよね、あの人は参謀みたいな人だから直接戦うところをあまり見ない。
それでも弱くはないし、最終防衛ラインに二人を置くのは間違っていないはず。
なにせ今回一番やる気あるのはあの二人だから。
というのも、ランキングにはいれたら亜空間のギルドホームが手に入るのは前述の通り。
そしてランキングが高ければ高いほど広く豪華なギルドホームが手に入るし、今回ポイントを稼げば稼ぐほど豪華な内装が用意できる。
そしてあの二人が欲しているライブハウスはそのポイント如何で格が決まるといっていい。
あのね、ロックバンドユグドラシルはそれなりに知名度はあるけどあくまでもインディーズ。
名を上げたいという欲求はあるし、なによりライバルがいる。
NYA48、彼女たちも今回のギルド対抗戦に参加しているのよ。
目的は大きなギルドホールを手に入れて大々的にライブを開くこと。
今のご時世リアルでのライブは参加者が減ってきているけれど、オンラインライブとなればかなりの人数が集まる。
まずすでに廃れた言葉だけど遠征の必要がない。
例えば北海道に住んでいる人が東京のライブを見に来るにはチケット代以上に旅費が高くつく。
けれどオンラインのライブなら話は違う。
それこそチケット代さえあれば北海道どころかブラジルから東京のライブを見に来ることだってできるし、メンバーの足代も浮くからチケットもその分安くなる。
またオンラインだからこそできる早着替えなどの演出もあるからより一層派手なものになるわけで、VR技術の発展によってリアルイベントの大半は鳴りを潜めてるのよ。
皆無ではないけれど、物珍しさに参加する人がいるかなくらいの感じ。
ゲームに限らず、ライブ専用アプリなんかもあるんだけど昨今じゃゲーム内でのライブというのも結構多い。
特に化けオンはその辺緩いからね、運営の許諾を得て、収入のいくらかを運営に流してようやくライブを開けるというのが一般的だけど化けオンは「お好きにどうぞ、こっちは何も要求しないから」というスタンス。
まぁあの人たちは化けオンをシミュレーターと言っているから、そこでお金をとるのは何か違うのかもしれないわ。
実際ゲーム配信者がゲーム内でライブ開いたことで一躍有名になってアニメやドラマの主題歌で引っ張りだこになったこともあるから、これはインディーズの2人にとってかなりのチャンスともいえる……のかな?
正直私がいた部署は海外の珍しい物とか、なんとかチャレンジ系ばかり取り扱ってたから音楽関係は詳しくないのよね。
たまにコメンテーターとして引っ張り出されてたけど、良くも悪くも視聴率が伸びるという事で最終兵器扱いされてたっけ。
放送終了後のバッシングがもう酷いったらないから……。
一度送迎の車用意してもらったけど、生卵投げつけられた。
投げつけたやつは二度とそんなことができないように「説得」して、それ以降そういったことはなくなったけど……あの時はテレビ局あげての謝罪会見だったわね。
私は出席拒否した。
他にも海外に取材に行くとき過激派団体に襲われたりもあったけど……いい思い出ね。
いやぁ、鯨踊り食いチャレンジの時に武装船に襲われたから鯨諸共相手したけどアレはなかなかスリリングだったわ。
っと、もう開始10秒前か。
頑張らないといけないわね!




