アレの妹だぞ察しろ
「……リタイアしたんですよね」
「え? パンデモニウム踏破してきたわよ。あと暴食のパンデモニウムは閉鎖するらしいわ」
「……あの、一応あんな命懸けダンジョンでも暴食領域の名物だったんですけど。よく他の系譜悪魔が遊び半分に挑んで死んでいくので」
「そうなんだ、じゃあ暴食のパンデモニウム跡地として残しましょう」
「……とりあえず詳しく説明してください」
「話せば長くなるんだけど」
ゴスロリイン・ザ・ダークに戻ってマリアンヌにいろいろ問い詰められて、こちらも隠す意味がないので洗いざらい吐き出した。
まず入口に巧妙な罠が仕掛けられてて、そこからは精神的にダメージを与えるようなエリアが続いて、最終的には殺意しかなかったこと。
そして暴食の悪魔王が相手を用意してくれたけど手ごたえなくて、なんか知らないけれど困惑してパンデモニウム封鎖を決定したとかなんとか。
うん、嘘一つない奇麗な回答よ。
「……あの、僭越ながら同じ系譜どころか同じ種族と思われるのも嫌なので悪魔ではない何かになってもらえませんか?」
「そんなことできるの?」
「いえ、領主様ならなんかできそうかなと……聞くところによれば魔の者は経験やそれまでに得た諸々で異なる種族になることもあるとお聞きしますので」
あー、種族の進化的な奴かしら。
私だと吸血鬼が吸血姫になったり、最近だと人魚が進化したりしたわね。
「そういう兆しないわね、たぶん悪魔はこのまま王になるくらいしかないんじゃない?」
「最悪の悪夢です。そんな妄言はゴミ箱に捨ててさっさと戦利品鑑定して地上に戻ってもらえませんか? 地獄にいられると寒気がするので」
「そんなに嫌い?」
小首をかしげて指をくわえて捨てられた子犬のような視線を送ってみる。
ふっ、どうよ。
この辰兄さん直伝どんな相手でもいちころのかわいい仕草は!
「反吐が出る」
「んだとこらぁ!」
「本性知ってればそんなのが演技だというのはすぐわかりますし、そもそもとりつくろったところで隠せるようなレベルじゃない。被ってる猫はしょっちゅう脱走するし、猫の口から手を伸ばして獲物をくらうミミックみたいな女に誰がなびきますか」
「本音は?」
「不覚にもちょっとキュンとした自分の心臓を握りつぶしたいです、今すぐにでも」
「わーおデンジャラス。まぁマリアンヌが自害しないうちに私はいなくなるわ。ごめんね邪魔しちゃって」
「はいはい、そうやってしんみりしてみせても私はあなたが嫌いですからさっさとどうぞ」
仕方なく領主邸のマリアンヌの仕事部屋を出ようとしてふと思い出した。
「そうそう、マリアンヌにお土産があったの」
「は?」
「みんなには内緒よ?」
そっと髪飾りを一つ差し出す。
宝物庫のアイテムはまだ鑑定が終わってないものばかりだけど、見た目だけの装備というのも結構あった。
その中で壊れても自動修復するおしゃれ装備として、一輪の透明な薔薇を模したものがあってね。
私はこういうの使わないし、そもそも似合わないからマリアンヌにあげようと思ってたのを忘れてたわ。
「……領主さまはタラシの素質がありますね。外ではやらないように」
「はいはい、と言ってもまぁこんなことするのは友達くらいだけどね」
「友達……?」
マリアンヌの表情がすごいことになってる。
なんだろ、感情を表した仮面を砕いてつぎはぎして1個のお面にしたらこんな風になるのかなって言う表情。
あれだ、ピカソの絵みたいな。
「どういう表情かわからないけど、これ以上は本当にお邪魔になりそうだから退散するわ。お仕事頑張ってね」
「……はい、糞領主様」
なんか声色がいつもと違ったけど、嫌がってる様子はないしいいわね。
さてさて、ここからが本題ね。
ようやくお目当ての代物を鑑定していく時間よ。
と言っても鑑定というスキルがあるのではなく、純粋に一個一個フレーバーテキストと性能を見ていくだけなんだけどね。
マリアンヌにあげたのは「無垢ながらに悠然と咲き誇る、決して染まることのない純潔の薔薇を模した髪飾り」というフレーバーテキストで、性能も初心者が着ているような装備と大差ないおしゃれ装備だったからすぐにお土産にしようと決めた。
見た目が奇麗だったし、マリアンヌを連想させる内容だったからね。
あの子は凛と咲く薔薇のごとき気高い女の子だもの。
祥子さんが百合の花のように愛でたくなる立ち振る舞いだとすれば、マリアンヌは跪いてそっと触れたくなるタイプかしら。
もっと言うなら祥子さんは食べちゃいたいくらい可愛くて、マリアンヌは食べさせてほしいくらい綺麗。
なお祥子さん本人に伝えると死ぬほど嫌そうな顔する。
解せぬ。




