悪魔王
聖属性エリア、これまた一本道だったけど考えてみると怖い所よね。
なにせ薄暗い無人の牢獄で光を見たと思ったら聖属性エリアが広がっている、地獄に仏を文字通りの意味で突っ走っているから悪魔が飛びついたら即死コースだもの。
なお悪魔以外なら余裕なのかと言われたらそうでもない。
さっきの牢獄エリアは全体的に闇系のエリアになっていたし、入口のモンスターラッシュを切り抜けるにはそれ相応の殲滅力が必要。
数で対応しようにも狭い通路だから各個撃破される可能性が高いというね。
はっきり言って初見殺しの罠だらけ、まともに突破できるのは司馬さんくらいかしら……。
テンショーさんならGの大群見た瞬間無言ログアウトでしょうね、本人の意思関係なくバイタルチェックで引っかかって強制ログアウトコースかもしれないけど。
あの人、人間も苦手だけど虫も苦手なのよ。
まぁまるっきりダメというわけじゃないんだけど、破天荒な弟さんが原因で人が苦手になって、その時逃げ込んだ部屋が相当アレだったのか虫がいっぱい出たらしい。
おかげで暗い所と、狭い所と、人間が苦手というリアル弱点の塊みたいな人になってしまった。
どのくらい苦手かというと虫を見かけると「殺虫剤持ってきます」と笑顔で火炎放射器持ってくるくらいには苦手。
うちの家系だとそこまで虫が苦手なのは一会ちゃんくらいかしら、ド田舎だから結構な頻度で出るんだけど、一会ちゃんの場合虫が出た時のためにパチンコ玉を持ち歩いている。
お店から盗ってきたとかじゃなくて、ちゃんと購入したものをね。
虫が出たら指弾でぱちゅんとするための武器だとか。
夏場は蚊取り線香いらずで助かってたのよね。
っと、話が脱線したけれど物理的にも精神的にも攻撃仕掛けてくるからNPCだろうとプレイヤーだろうと最初の関門で脱落しかねない。
その次の牢獄エリアの闇属性と精神ダメージでこれまたふるいにかけて、そこも切り抜けられるアイゼンクラスの悪魔はこの聖属性エリアをどうにかしないといけない。
本当にいやらしい。
「それにしても一本道だから飽きてきたわ……」
自称旧世界からタイムスリップしてきたナチスとのじゃれ合いのが面白かったわ。
流行っているのか知らないけれど、なんかそういう変な連中と顔合わせすることが多いのよね。
この前もソ連兵を名乗る人に撃たれたし、その前は仕事の時に恐竜みたいに大きいとかげに襲われたわ。
あのとかげは美味しかったけど……ゲリさんの方が美味しかったのよね。
食感は普通の爬虫類とあまり変わらないかな、ちょっと固かったのと筋っぽかったのが気になるけど。
肉食みたいだけどそこまで臭いは気にならなかったし、食べ応えもあってよかったんだけど……あれはイギリスだったかしら。
湖ダイビング企画で装備無しで潜ったら襲われた。
ビームを打てるようになって間もない頃だったから苦戦したけど、スタッフと一緒に美味しくいただきました。
「もっと敵とか出したらいいのに……いや、出せないのかしら。闇属性エリアと聖属性エリアがあるから通常のモンスターだとそこを踏破できない、だから最初に固まっていたとか?」
うん、こうも退屈だと独り言が増えてしまう。
正直、闇属性と聖属性エリアの往復なんてサウナと水風呂みたいなものなんだけどね。
とはいえ、弱点をどうにかする方法がなければ即死エリアで反復横跳び……できないわ、即死するもの、片道切符よ。
「うーむ……誰か出てこないかなー」
『敵を望むか、ならば用意してやろう。我が駒をな』
「ひょ?」
なんか声が聞こえたと思ったらどこからともなく大量の蠅が出てきた。
この匂い……人糞ね。
なるほどベルゼブブがいるんじゃないかというのは当たりか。
「ぴゅー」
面倒なので胃酸を大量に吐きかける、私の胃液はなんでも溶かすしすぐに気化して酸性の霧になるのだ。
所詮は蠅、小さき生き物がこれを突破することはできずぐずぐずに崩れた地面の底に液体になって落ちていった。
「手ごたえないわー。悪魔王の駒弱いわー」
『……魔の者怖いわー、宝物庫直通で通してあげるしなんでもあげるからさっさと帰って?』
その瞬間、光に覆われた空間が一瞬闇に覆われたかと思うと金銀財宝にいろんな武器や防具の転がっている部屋に立っていた。
ほうほう、ここが宝物庫……明鏡止水で感知しても罠はない。
ついでに悪魔王の気配もないからここにはいないみたいね。
んー、テレパシー!
「聞こえるかしら暴食の悪魔王ベルゼブブ。ここにあるの、何でも持って行っていいのよね」
『……自力でコンタクトとってくるとか魔の者ってどうなってんの? 俺、長いこと生きてるし何ならこの世界が作られたもので上位世界があることも知ってるし、魔の者が人間だってことも知ってるけど外の人間ってみんなこんななん?』
「だいたいこんなものよ」
『……暴食のパンデモニウム、本日で閉店します。好きなもの持って行ってどうぞ、というか全部あげるから出てって。あと暴食領の住民から地名について嘆願書めっちゃ届いているからまともな名前考えて』
「……テレパシー途切れた。おのれ悪魔王……逃げるとは卑怯なり。まぁいいや、ここにあるもの全部もらって帰りましょ」
なんかいっぱい手に入ったし、これで目的達成ね。
あとは私が求めるような装備があればいいんだけどなぁ……。
ん?
『称号:悪魔王の困惑を取得しました。この称号を持っている魔の者は多くの悪魔に畏怖される存在です』
なんか変な称号もらった。
……まぁ貰えるものは病気と恨み以外は貰っておけってね!
悪魔王君早々にやばい奴と感知して退散、流石の逃げ足。
なおやべー奴にやべーアイテム大量にプレゼントしていった戦犯……悪魔はレオンといい悪魔王といい戦犯しかいないな。
なおマジな話するとパンデモニウムは1度踏破すると消滅するインスタンスダンジョンです。
1人1回だけ踏破可能で、合計7つのダンジョンを1回ずつ。
その時貰える報酬の量は人数と成績で左右されます。
だから刹那さんがクリアしたとして、マジで閉店したわけじゃなくて出禁になった状態と思っていただければ。
ゲームだからね、公正にね(プレイヤーのリアルチートは加味しない)。




