イベント開催
やってまいりました、イベント初日。
夜間メンテナンス作業でログインできない状態だったらしいけれど、私は健康的に早寝早起きしているから問題ない。
前に出版社務めてた時からは考えられないわね……良し悪しあるけれど、私自身は独立して正解だったと思っている。
いい点は健康的な生活が送れるようになったこと、あの頃は激務に次ぐ激務で同業他社と並べてみてもド級のブラック企業だったから会社に半月泊まり込みとか、コンビニのおにぎり買い占めて賞味期限きれてぱさぱさになったのを食べるような生活だったからね。
ここまでひどい会社は少ないと思うけれど、雑誌とかで特定の作家さんを担当している人なんかは当たらずとも遠からずといった感じかもしれない。
私の場合は記事を書くのがメインだったけど、その量が膨大だっただけでね……。
悪い点で言えば収入が不安定になったことかしら。
以前はちゃんと1日5食食べられるだけの稼ぎがあったのだけれど、今はお金が無くなると1日3食しか食べられない。
ストレスで激やせしていた勤め人時代と、お金が無くてダイエット状態になる今どちらがいいかといわれたら悩むけれど、睡眠時間をしっかり確保できるという点で一歩今の方がいいわね。
話がそれたけれど、まずは軽くストレッチをする。
VOTに入る前に体を動かしておくとログアウトした後に足をつったりしなくて済むのよね……。
ちなみに初日はコーヒーを流し台にぶん投げて飛び込むように入ったから出てくるときに足つって、首寝違えて、腕がびきっと音を立ててしばらくもだえ苦しんだりしたのは余談。
よし、準備もできたしログイン!
『お待ちしておりましたフィリア様』
「あれ、ここって……」
いつもなら町中に出るはずが、キャラクリエイトの時に見た場所に出現した私。
アバターはいつも通り、初期装備の吸血姫+羽とか鱗のまま。
『今回のイベントに関する確認事項のため、ゲームエリアに移動する前にこちらにお呼びさせていただきました』
「なるほど、説明とか同意とかの話ですか?」
『その通りです。まず今回のイベントですが、イベントエリアへの移動方法が通常と異なる手段ですのでご注意いただきたく思います』
「と、いうと」
『この先の説明にはゲームのネタバレを含みます。同意していただければこのまま説明させていただきますが、同意いただけない場合はイベントそのものに不参加という事になります。よろしいですか?』
ほほう、ネタバレを含むね……。
「それってどの程度のネタバレなのかしら」
『はい、世界の秘密や各種NPC、都市などに関する情報は一切公開されません。しかしゲーム内で解放されるシステムの一部を先んじて開示することになるため、注意を促すよう制作陣から言われています』
なるほど、性格の悪いスタッフだと思っていたけれどこういうところは親切なのね。
普通システムの一部の開示云々なんてネタバレの範疇に含まないから、こんな注意と同意なんて不要とばかりにイベント始める運営も多いのに。
『なおこの場で同意いただけなくともイベント期間中であればシステム画面からイベント参加が可能です。その場合こちらの空間へお呼びして、改めて同意を頂くことになります』
「あ、途中参加もできるのね」
『はい、なお今回のイベントはプレイヤーからのドロップアイテム関連の体験という事ですのでレベルは既存のままです。現在のフィリア様はレベル1ですので、戦闘で敗北する可能性もあり得ますが、その場合通常より短いペナルティを受けることになります』
「あれ、ペナルティあるの?」
『はい、いわゆるゾンビアタックによるポイント稼ぎの防止です。1時間ステータス半減と経験値取得不可能状態、ポイント取得不能が付与されます』
「経験値取得ってことは……イベント中にレベルアップすることもあると考えていいのかしら」
『はい、現在フィリア様はペナルティを受けておりますので経験値の取得量は減少していますが他のプレイヤーや、フィールドに生息しているモンスターを討伐することでレベルが上昇します』
えーと、つまりイベント中は合法的にPKし放題で、人によってはここで経験値をガッツリ稼げるかもしれないという事よね。
私みたいなデメリットガンガン積んでいるキャラ相手なら生産系をメインにしたい人も道具をそろえれば戦えるでしょうから、素材目当てで襲ってくる人もいる。
参加者からすれば経験値にレアアイテム、うまくいけばゲーム内アイテムと交換できるポイントも手に入るという美味しい状況なのね。
「わかったわ、参加に同意します」
『同意を得られました。改めて事故防止のためこちらの画面からイベントに参加を選択してください。キャンセルを選択していただければイベント参加は見送ることができます』
親切ね、目の前に現れた半透明の画面にはさっき言われた注意事項と共に参加とキャンセルのボタンが用意されている。
うん、ここは迷わず参加を選択。
『同意を確認、ではイベントの説明に入らせていただきます。今回都市間移動方陣というものが限定的に使用できるようになります。これは今後新たな町や村を見つけた時に少額のルルを消費して瞬間的に移動できる機能です。今回はイベントのためルルの消費はありません』
なるほどね、これがネタバレという事になるのか。
システムの一部といっていたから他にもあるのかもしれないけれど、勘のいい人とかだとこれだけでもいろいろ考えそうね。
例えば、フィールドから一瞬で町に移動できるようなアイテムの実装とか……。
『イベントエリアは特殊なフィールドとなっており、システム画面から町へ帰還するコマンドを入力していただければいつでも通常のフィールドに戻ることができます。またイベントフィールドにも始まりの街と同じセーフティエリアが存在します。ここでキルされてもアイテムドロップ、ペナルティ付与は行われません。またキルした方も経験値を得ることはありません』
つまり町の中は安全という事ね。
ずっと戦闘だと確かに疲れそうだものね、料理キット持ってないと特定の種族以外は食中毒みたいなバッドステータスを受けそうだし、そういう部分の措置というところかしら。
『今回ドロップするアイテムはレアリティこそ分けられていますが品質は最低値となっています。レベル20のプレイヤーからドロップするアイテムを下級として、そのさらに下の最下級です。現状これらのアイテムで装備品などを製作してもゲームバランスが壊れるほどのことはないでしょう』
「へぇ……あれ、そういえば制作に関しては誰でもできるのよね」
『はい、オートでレシピを選択して必要素材があれば作成可能です。ただし一部の高位モンスターやプレイヤードロップアイテムを使用したレシピは基本的にシークレットとなっていますので自力でレシピを見つける必要があります』
「それは……ここで答えてもらえるのかわからないけれど入手方法はマニュアル制作のみ?」
『いいえ、簡単な物であれば図書館などで探せば見つかります。ただし難易度の高い物をご所望であればダンジョンなどで手に入れるか、クエストを達成すること、またNPCの好感度によって弟子入りを認めてもらうなどの方法があります』
あ、答えてくれるんだ。
でもレシピか……料理しかしてなかったからなぁ。
全部マニュアルだったしそういうのは何も考えてなかったわ。
あ、でも錬金術ではオートで毒抜きしたわね。
あれもレシピとかあれば聖水なんかも作れるかもしれないわね。
わかりやすく考えるなら奇麗な水と光属性の魔法を組み合わせてマニュアル制作すればそれっぽいのはできるかもしれないと思うけど……。
『ちなみに今回のイベントの景品ラインナップには一部プレイヤー素材を用いたアイテムレシピが存在します。安価で手に入るものから、一週間戦い続けてようやく手に入るかというレベルの物まで幅広く取り揃えています』
「ちなみに料理のレシピは?」
『あります。今回ご用意させていただいた料理レシピは17種類ですね。とはいえ料理に関しましては制作の中でも簡単な部類に入りますので、レシピがなくともそれなりの物を作ることは可能です。ただし特定の食材は通常の調理手段では変化すらしないこともあります』
「随分丁寧に教えてくれるけれど……いいの?」
『かまいません。イベント参加に同意いただけた方からはゲームの根幹にかかわるような秘密以外は話して構わないという事になっております』
「そう、じゃあ最後に一つ聞いていいかしら」
『なんなりと』
「デメリットレベルを消す方法ってある?」
『存在する、とだけお答えします。それ以上のことは禁則事項ですのでご容赦ください』
それを聞けて一安心、美味しい料理のためにあれこれ頑張っているけれど太陽光デメリットとか本当に厄介だったのよね。
それに今後のゲーム進行によっては砂漠みたいな、太陽光ダメージ増加エリアなんかも出てくるかもしれないからこの話は聞いておきたかった。
だって砂漠の料理が食べられないとか悲しいじゃない!
……むかし食べたサボテンのお刺身おいしかったからなぁ。
「あ、ごめん。最後とか言ったけどもう一つ、これはイベントに関することなんだけどネクロマンサーの死者呪転で蘇らせたモンスターと離れた距離にいた場合ってドロップアイテムはどうなるの? あと私が太陽光で焼かれた場合とか聖水溜まりに落ちて死んだ場合」
『ペット、あるいは使役モンスターがプレイヤーや野良モンスターを撃破した場合ドロップアイテムは自動的に主人であるプレイヤーのインベントリに収納されます。フィリア様がデメリットレベルによる死亡でセーフティエリアに戻った場合ペナルティが付与され、死亡地点にドロップアイテムが設置されることになります。これらのアイテムは誰でもインベントリに収納可能です』
「そう、ありがとう。聞きたいことはもう十分よ、さっそくゲームを始めてもいいかしら」
『はい、通常フィールドとイベントフィールド、どちらへ行きますか?』
「そうね……せっかくだからイベントフィールドに飛ばしてもらおうかしら。方陣も気になるけどそれは今後のお楽しみという事にしておこうと思うの」
『かしこまりました。ではよい化け物ライフを』
その言葉を聞き終えると同時に私は光に包まれた。
次の瞬間には、いつもと同じ町、けれどどこか暗雲立ち込める様子で紫色の霧が浮いているゴーストタウンのようになった場所に降り立っていた。




