言動が黒幕なんよ
「つまり今回の一件は銀の黄昏を騙る別組織の仕業という事ですか?」
重金さんの話を聞きながらご飯を食べてて色々知ることができた。
まずは今回の襲撃者、Mrアンノウンの名前がジョージ・クリストファーという事。
予想通りアイルランド出身のヒットマンで、組織が独自に開発した人体改造によって半ばサイボーグ化しているという事。
あとはまぁちらほらと。
「正しくは銀の黄昏から分岐した縁類組織の仕業だね。自分たちこそ本流になろうとしている連中。銀の黄昏本流は人のまま高位の存在になることが目的だけど、今回の奴らは肉体改造を施してでも人間を超えようとするのが目的」
「だから公安の持つ情報……具体的には化けオン運営の人体改造技術が欲しかったんですね」
「そういうこと。まぁ別に秘匿するまでもない情報だけどさ、改造したくらいで高位の存在になれるわけないのにね」
「そんなもんですかね」
「んー、そうだなぁ。今回の襲撃者の5倍くらい強い相手が100人いたとしてだ。君、負けると思う?」
「余裕で殲滅できます」
「だよねぇ。その程度の改造じゃ意味ないんだよ。力があっても精神が伴ってないし、何より力を持て余してまともに動けやしない。僕の友達とかうずめならともかく、その本領を発揮できるようになるまでは数世代かかるんじゃないかな」
その前に自分たちの力で自滅しそうだけどね、と物騒なことを付け加える重金さん。
いや、まぁ確かに一般人がそんな強大な力を得たら暴走して、結果自滅しそうだけどね。
だから公安としては徐々に情報開示していって、ゆっくりと人類を進化させていこうという方針みたい。
むろん強要はせずに、個々人の意思に任せるらしいけれどね。
手始めに病気に強い肉体とか老化が遅いとかそういう段階から入っていくらしい。
それと人工授精による遺伝子組み換えで外見やら才能やらを云々とか。
「でもその銀の黄昏亜流はそれを即時推進していくつもりと」
「推進どころか強制的にやるだろうねぇ。君や君の家族にとっては雑魚同然でもあの組織にいる改造人間たちは単独で中隊を相手取れるようなのばかりだから」
「あー、やろうと思えば各国の首脳陣を相手取れると」
「うん、それで一つずつ国を落としていったら……とか考えるだけで怖いよね。それをさせないための抑止力があるとしてもさ」
「抑止力?」
「こっちの話だから気にしないでいいよ。それよりほかに知りたいことはないかな? 大体のことは教えてあげるよ、明日の天気から各国の秘密情報まで」
「天気予報では晴れと言っていましたが午後1時ちょいからぱらぱらと2時間ばかり降りますね。主要各国の機密は知ってますからいらないです」
「おや残念、なら株価の値動きは? 今年の当たりくじのナンバーは? それとも君の運命の出会いがいつなのかとかそういうのはどうだい?」
「急に規模が変わりましたね……別に興味ないですね。お金に困ってないといえばウソになりますが、そこまでしてほしい物でもないですから」
最悪の場合海に飛び込めばいい。
身投げという意味じゃなくて、素潜りでご飯調達すればいいんだから。
「ふむ、面白い人だなぁ。……人でいいのかな、まぁいいや。とりあえず気になることがあれば何でも聞いてね」
「じゃあこのお店のレシピ」
「それは全世界の機密事項よりも高価だよ」
「む……」
美味しいご飯がいっぱい出てきたからレシピ聞きたかったけど……残念、教えてもらえないのか。
「じゃあ祥子さんのよわよわを直す方法は?」
「あるけど、そうだね……うちのレシピの3倍の値をつけておこうかな。それを望む人類はいる、面白い事が大好きなのでね」
……そんな人がいるのね。
いや、可愛いけど結構大変なのよ。
なだめるのに時間がかかるし、時と場合によっては祥子さん大ピンチになるから。
拘束とかしなくてもホラー映像流してるだけで無力化できるとかね、よくわからない連中が強硬手段取り始めている今は本当に危ない。
となると、これしかないかしら。
「じゃあ、強硬派の連中……銀の黄昏亜流をどうにかする方法」
「ふむ、それならドリンク一杯でいいよ。僕にとってはどうでもいい事だし、滅びるタイミングが変わるだけだ」
「いずれは滅びる、けれどその間にこちらに被害が出る可能性がある、なら手を打っておくべきじゃないですか?」
「そうだね。少なくとも君たち……そちらで早々に酔いつぶれてしまったお嬢さんの命の保証はできない。そうなれば君の安定性も失われ、ともすれば人類の危機に陥りかねない。それは望むところではないさ」
「へぇ……」
テーブルに突っ伏して眠っている祥子さんに上着をかけながら、重金さんの目を見据える。
この人は本気だ。
祥子さんがどうなろうとも構わない、けれどそれで私が投げやりになって文字通り全てを巻き込んで自爆したりしたらどうなるか。
それだけを心配している。
そこに自分の命などは勘定に乗せていない。
……なんで私の周りには感覚の狂った人が集まるのかしらね。
「なら、この店で一番高いお酒を」
「シャトー・ペトリュスのいいのがある。おまけも用意してあげようじゃないか」
「えぇ、安寧の日々のためにお願いします」
「よろこべ人間の娘、今君の願いは叶う。なぜならばこの店を出て30分、自宅までの道のりで亜流は最大戦力を送り込むだろう。それを打ち倒した暁には敵対勢力は弱体化、そして本流に押し流され、露と消えるだろう」
「……なら、祥子さんをお店でかくまってもらえますか。私の本気はあまり人に見られたくないので」
「お安い御用だ。安全も保障しよう。傷一つ負うことなく、そして何も知らずに平穏を与えられる娘というのもよい物だ」
「その言葉、信じます。もし約束を違えたならば……」
「ふむ……この首だけじゃ満足してもらえないだろうね。その時は全てを差し出そう。望むもの、望まぬもの、ありとあらゆる全て。この世の英知も含めたなにもかもを」
「あなたがそういうのであれば、信じましょう」
「光栄だレディ、なればよい夜を」
「……ちなみに、かっこつけた後でなんなんですがこのお店カード使えます? 現金の持ち合わせが……」
「キャッシュレス全対応、現金払いも受け付けてるし、なんなら情報と交換でもいいよ」
「じゃあ私のスリーサイズとかってどのくらいの値段付きますか?」
「10万円ほど払ってもらおうか、無価値通り越して有害」
「酷い人だ……あ、一括払いで」
「はい、まいどあり」
さて……ちょっと派手に暴れますか。
食後の運動にしては少し物騒になるけれどね。
なにとは言わないけど、次元の壁を越えたわけではなく公安の人たちが望んでいるのです。
祥子さんはモテる。
刹那さんはモテない。
縁ちゃんは祥子さん専属マスコット扱いでたまに餌付けされてる。




