BARアマノイワト
ひとまず通販サイトとか利用して買い込めるだけのふわわんグッズを買いあさり、いろんなルート経由して公安のシェルター、別名縁ちゃんの別荘に届くように手配した。
これで少しは機嫌が直ると思うけど、今度は別荘に引きこもりそうね。
そしてお待ちかね、祥子さんとご飯デートのお時間がやってきました!
うずめさんは一人でちびちび飲みたいタイプだから先に帰って晩酌中、クリスちゃんはVGOを遊びたいという理由でうずめさんと一緒に帰宅した。
今回は出禁になってもいいように手ごろなお店に突入しようと考えていたんだけど……。
「伊皿木君、三根君、これから食事に行くらしいな」
「葉山部長?」
「伊皿木君の食欲では大抵の店の食材は食べつくしてしまうだろうと思ってな。話を聞いたときに知人の店を貸し切りにしておいた。近場だから行ってくるといい」
「いいんですか?」
食べつくして。
「構わん、もとより道楽でやってるような店だ。むしろ食い尽くしてやった方が店も潤うだろう。何なら定期的に行ってやってほしいくらいだ。むろん事前予約はしておいてもらいたいがな」
「ありがとうございます」
「うむ、これ紹介状。ドレスコードはないがそれなりにいい店だ、俺も時々顔を出しているが……俺の友人だけあって耳もいい。面白い話も聞けるかもしれないな」
耳がいい……情報通ということね。
今回の一件について聞いてこいと解釈しておきましょう。
「お土産でも持って行った方がいいですか?」
「いらんよ、あいつにはだいぶ貸しがあるからな」
「そうですか、では美味しいご飯を頂いてきますね」
「よろしく言っておいてくれ」
なんかこれ、スパイ映画みたいでかっこいいわね。
久しぶりにいくつか見ようかしら……フレイヤさんから貰ったスパイ映画セット。
なんだっけなあれのタイトル、たしか……「熱血スパイvs食堂のおばちゃん」とかいう三文映画の臭いしかしないシリーズ。
あの人、面白いの基準が狂ってるのよね……。
具体的に言うと世間ではボロカスな評価受けてるものこそを好む。
100点満点中3点くらいの作品が大好きで、そこから30点くらいまでの作品は良作という扱い。
80点の作品とか見ると逆に粗が気になるとかなんとか。
珍しいタイプだと思うわ。
「せっちゃん?」
「あ、すみません。どうでもいいこと考えてました」
「そう? じゃあ行こうかしら」
「えぇ、お酒も飲むでしょうしタクシー使いますか」
酔った祥子さんは可愛いのよねぇ……なんというか、猫っぽくなる。
頬擦りしてきたり、膝の上で丸くなったり、撫でると喜んだり、だけど構いすぎると機嫌悪くする辺り本当にかわいい。
お腹とかさするとによによと笑うのよ。
くすぐったいって文句言いながらもやめると怒ったりね。
というわけでお店に直行したわけだけど、厳かな雰囲気のBARだった。
飲食系のBARなんだけど、なんていうのかしら……銀座のルパンみたいな感じで隠れ家的なお店。
ぱっと見だとどこに店舗があるのかわからないから、葉山部長の地図がなければたどり着けなかったわね。
裏路地を進んだところにあるあたり、本当に道楽でやっているとしか思えない。
多分隠れ蓑にしてて、グレーな事をするためのお店なのかもしれないけれどこれはこれでいいわね。
「君たちが伊皿木さんに三根さんだね、葉山から話は聞いているよ」
お店に入って開口一番、こちらの顔を見る前に名前を言い当てられた。
いや、貸し切りなのはわかるけどお店開いている状態で誰か入ってきて言い当てるとかすごいわね。
「なに、足音に聞き覚えがなかった。この辺りの人間や客の足音は大体記憶しているのさ」
「ナチュラルに人の心読んでません?」
「こういう店をやっていると客の考えていることはある程度分かるようになるんだよ。むろん軋轢を生みかねないから口にしないけどね」
「はぁ……まぁお察しの通り、私は伊皿木刹那です。葉山部長の紹介できました」
「うん、知っているよ。なかなか破天荒な人だと有名だからね」
「破天荒……」
「うずめに特訓してもらったんだろう? 界隈ではそれなりに有名人だよ君は」
「はぁ……」
なんだろう、色々見透かされているようでちょっと怖いわ。
「おっと、人のことばかり話してしまうのは僕の悪い癖だ。自己紹介と行こうか、天野重金。この辺りの裏事情にちょっとだけ詳しい店主だ」
「おもかねさん……? 珍しい名前ですね。それにあめのってうずめさんのご親族ですか?」
「似たようなものかな。血縁はさておき、アレとはそれなりに長い付き合いでもあるとだけ言っておこう。ただし字が違うから注意だ。アレは雨天の雨に野原の野、僕は天空の天に野原の野で天野さ」
「そうなんですね。じゃあ、マスターのお話を聞きながらご飯を頂いてもいいですか?」
「もちろん、ここじゃ僕の言葉をBGMに美味しい料理とお酒を嗜んでもらうのが流儀なんだ。だというのに……最近のお客さんと言えばぼくの話なんか興味ないみたいでね、自分たちの取引に夢中なんだよ」
「へぇ……」
うん、何となくわかってきた。
この人結構おしゃべり好きな人みたい。
まぁ変な駆け引きとかいらないなら楽でいいわ。
葉山部長の人外人脈も大概。




