尋問
「ハロー、Mrアンノウン」
おじさんの名前は依然として不明だからとりあえずアンノウンさんと呼称することにした。
どこまで理解できているか知らないけどね、自白剤打たれたことはあるけど気合で耐えたからどんな感覚なのかわからないのよ。
「早速だけどお話しましょ。まずあなたのお名前は?」
「ジョン・ドゥ……」
名無しの権兵衛か……米国の身元不明者の通称だけど、だからといってアメリカ人とは限らないのよね。
「Откуда вы?」
「……モスクワ」
「Qual è la struttura familiare?」
「…………父と母、それと妹」
「Cá bhfuil d'eagraíocht?」
「銀の黄昏」
……ふーん、なるほどね。
とりあえず外に出て祥子さんに報告ね。
「せっちゃん、何かわかった?」
「えぇ、たぶんアイルランドの人、あるいは母国語がアイルランド語の圏内出身です」
「なんで?」
「最初にロシア語、次にイタリア語で話しかけてみたんですが答えるまでに質問を咀嚼するような間がありました。けれどアイルランド語で尋ねたらすんなりと答えたので」
「言語認識による誘導……そんな手段があるのね」
「私もやられたことあるんで」
「……せっちゃんの経歴については考えるだけ無駄だからいいわ。こちらは引き続き同じ方法で色々質問してみる。けど……出身がわかったとして答えに繋がるかしら」
「んー、出身地から銀の黄昏か、それに類する、あるいは敵対する組織を洗っていけばいいんじゃないですかね。そしたらどこかで当たりをひくかもしれませんよ」
「地道な作業になりそうだけど……今はそれしかないか」
「まぁもっと簡単な方法はありますけどね」
「それは?」
「運営さん特製、違法薬物たっぷりの後遺症ドカ盛廃人コース自白剤」
「最終手段すぎるので却下。少なくとも今の段階で使うものじゃないわ」
「まぁそうですよね。人体改造しているくらいですし既存の薬物混ぜた物体じゃそんなに効果ないでしょうし」
クローバーが効いているように見えるのは薬物訓練でそんな雑草まで耐性つけてないからでしょうし。
あるいはこれも見せかけの可能性もあるけど、まぁその時はどうとでもなれとしか言えないわね。
DNAとかでもいろいろ探ってるけど、東西南北のあらゆる国家間で人が行き来するようになった今じゃルーツとかあまり意味ないのよね。
祖先はオランダ出身だけれど今じゃ純正日本人なんて人だって珍しくないもの。
直近を調べても移民とかそういう例もあるから難しい。
まぁ私の出る幕はもうないでしょう。
「祥子さん、とりあえず後はプロに任せましょうか」
「そうね、私達でできる事は限られているもの。今は取り急ぎ……」
「えぇ、そちらが急務です」
「縁ちゃんのご機嫌取りね」
「はい、注文の品がとどくまでひと月かかるという事でふてくされてます」
オーダーメイドはもちろん時間かかるんだけど、それ以外の商品も結構な人気故に品薄でね。
縁ちゃんが欲しかったものは特に肌触りやクッション性を重視しているからもちにゃんファン以外も買い求めてたのよ。
あと、これが決定打だったんだけど……縁ちゃんが通販サイト調べまくった結果結構な量が転売の被害にあっていた。
これを知った時の縁ちゃんの激昂ときたら……まさしく怒髪天。
公安の権力で転売屋の居場所を突き止めて襲撃しようとしていたわ。
もちろん私と祥子さんで必死になだめて、そしてどうにか止めることはできたのだけど地下シェルターに籠って膝を抱えて隅っこで丸まってる。
縁ちゃんふてくされモードになると3日はその場から動かないし、お仕事もボイコットするから……。
今回に至っては多分もちにゃんグッズで部屋が埋め尽くされるまで動かないでしょうね。
「なにか考えとかある?」
「縁ちゃんを元気づける方法ですか? んー、とりあえず転売屋の住所を教えて襲撃させれば少しはすっきりするかなと」
「……彼らのやり口は褒められたものじゃないというか、法的にかなりのグレーゾーンにいるんだけど極刑はさすがに」
第三次世界大戦前、転売が横行した結果法改正によりその辺りを厳しく取り締まることができるようになった。
とはいえ、それでも抜け道はあるもので現在も稀少な品などの高額転売は続いている。
まぁ抜け道使っているからグレーゾーンなんだけどね、ちゃんとした人は古物商許可証取得して納税したうえで個人事業主としてやってるから何の違法性もない。
というかそういう人は自分でサイト作ってやってるから通販サイトみたいな仲介料とか手数料とられる場所使わないのよね。
上乗せ価格も割と良心的だし。
例えるなら今私達が住んでいる場所から往復で5000円かかる所にお店があるとして、グッズの値段が1万円、諸々含めて1万5千円以上の値段になる。
グレー転売屋はこれを4万~5万で売りさばくけど、きちんとした人は安ければ2万円、色を付けても3万円で売る。
むろんプレミア付いたりしたらきちんとした人でも10万くらいまで値上げすることはあるけれど、これはもうそういうものと割り切るしかないのよね……。
まぁあまりに横柄な値上げしてたら税務署含めたいろんなところから注意が飛ぶけど。
一番の違いは買占めをしない事かしらね……グレーはイナゴのごとく持っていく。
「もちにゃんグッズ以外で縁ちゃんが気に入りそうなもの……ふわわんグッズですかね」
「なにそれ……」
「もちにゃんと双璧を成す人気マスコットです。もちにゃんがもちもち猫なのに対してふわわんはふわふわの犬です。結構可愛いんですよ」
あと私はもちにゃんよりもふわわんの方が美味しそうに見える。
なんと言うか……大福と綿菓子を見ている気分になるのよね。
どっちもおいしいけど。
「しょうがない、用意できるものは私が買ってあげるか」
「縁ちゃんのためなら、私が8割くらい出しますよ」
「たまにはプレゼントもいいものよ、ここはお姉さんに任せておきなさい」
……背丈の低い祥子さんがお姉さんっぽいこと言うと、なんかこうグッとくるものがあるなぁ。
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