予測
公安におじさんを渡して、縁ちゃんのためにもちにゃんグッズの会社にお電話。
縁ちゃんプロデュースのもちにゃんグッズをオーダーメイドするという話だったのだけど、いつの間にか向こうの担当者がノリノリになって縁ちゃんを雇いたいと言い出したのは困ったわ。
すでに公安に就職が決まっている状態だから引き抜きは困るという事で葉山部長とか祥子さんと一緒にお話し。
縁ちゃんとしては「楽な方で」という事だったけれどそんなお仕事はない。
結果として公安地下シェルターの管理人というお仕事は確定したけれど、その傍らでもちにゃんグッズをはじめとしたぬいぐるみのアイデアを出していくという形に落ち着いた。
うん、お姉ちゃん妹に収入で抜かされそうで怖いわ。
今回出したアイデアだって20個くらい採用されて、下は6桁半ばで上は7桁半ばほどの金額でアイデア買い取りが決まったからとんでもない収入よ。
縁ちゃんは物を大切にするし、無駄遣いをしない、趣味はお昼寝だから出費が少ないのよ。
お母さんは手のかからない子と言ってたけど……まぁ喧嘩以外ではお金かからなかったでしょうね。
大体の武術は動画を一回見たら会得してたし、海外の言葉も一度聞いて翻訳すれば大体理解してた。
他人の感情を読むのが苦手というのが唯一の欠点だけど、テストでは授業もろくに聞かずに、それでも100点以外とったことない完璧超人。
学校では高嶺の花と言われていたらしいけれどそれは間違いない、崖の上に生えているから取りに行こうとしたら落ちて死ぬもの。
当然いじめられた経験もあるんだけど、都度対処するのが面倒だという理由で東京全土の学校に影響力を持つレベルまで支配して、すごいことに教育委員会まで巻き込んでいじめ対策を行った。
今でも教育委員会に各地のPTAから名誉顧問扱いされているのは伊達じゃないわ。
「刹姉……?」
「縁ちゃんはほんと凄い子ね、自慢の妹だわ」
「刹姉、本音は?」
「妹に収入抜かれそうで胃が痛い」
「お金には困ってない、刹姉養おうか?」
「妹に養われる姉……いやいいわ。私は好きで働いて、好きで貧乏しているんだもの」
「せっちゃん……あなたの環境で貧乏はないわよ。少なくとも各国の著名人や有識者に伝手があって、国のおひざ元である公安で働いて、その状態で個人業も許されて、他にも臨時収入は結構ある。食費がネックだけどその気になれば量を抑える事もできるでしょ。貯金は結構あるんじゃない?」
「貯金ですか……知ってますか祥子さん、お金って寂しがり屋なんですよ」
「は?」
「仲間が沢山いるところに行きたがるんです。仲間がいないところからはどんどんいなくなっていく……そんなものなんですよ」
つまり貯金はかなり心もとない。
いや、ないわけじゃないんだけど……1年食いつなぐことができるギリギリのラインだったりする。
「せっちゃん……いいこと教えてあげる。あなたの貯金額なら世間一般では20代でもお仕事辞めて老衰するまで遊んで暮らせる金額よ?」
「え?」
「それで貧乏とか言ってたら世間のいろんなところからぶん殴られるわ。炎上騒動どころか大爆発よ?」
「この前のトラックの時みたいに?」
「まぁ……そうね。燃え盛る炎、爆発による衝撃で近隣の家々が吹っ飛ぶレベル」
「そんな……私はお金持ちだった?」
「無いのは甲斐性と常識」
カフッ……今日の祥子さんはいつになく辛辣だ。
「ところであのおじさんは?」
「あー、うん。そうね、話しておこうかしら。と言ってもまだほとんど何もわかっていないけど」
化けオン運営特製クローバー製自白剤で色々話してもらっているけれど、特別な訓練を受けているのか情報が断片的に、しかもいろんな解釈ができる形でしか出てきていないのは知っている。
しかも面倒なことに複数の言語を混ぜて使っているからね……私と話した時は日本語だったけど。
「えーと、せっちゃんは銀の黄昏っていう宗教団体知ってる?」
「知ってますよ、アメリカを中心として活動する秘密結社。その本性は混沌の神とかいう胡散臭いのを信仰する団体で、人間はあるがままの姿で高次元に至るべきとか言う主張してる危険団体。この前もフランスでテロ起こして関係者が捕まってましたよね」
「そう、それ。どうにもその一員みたいなのよ」
「んん? でもそれっておかしいですよね。あるがままの姿で高次元に至ると言っているのに機械の身体でしたよ。義手義足の技術が進歩しているとはいえ、あれは人体改造の部類。失った肉体の補助という名目のそれとは違うんじゃないですか?」
「それが教団の本性という事かもしれないわ」
ふーむ、教団の重要な人物は既に肉体を改造しているか、あるいは鉄砲玉に人体改造を施しているか……。
どちらにせよ面倒な相手ね。
「今までの、例えばトラックでつっこんできたのも?」
「さぁ? その辺も聞いてみたけど要領を得ないのよね……知らない風に話していたかと思えば核心を突く答えを口にしたりと」
「ふむ……私も立ち会いましょうか。もしかしたら少しでも情報が得られるかもしれないですし」
「お願いできる?」
「えぇ、その代わり今度ご飯食べに行きましょう。祥子さん私が奢ると言ってもなかなか来てくれませんから」
「……美味しいお店に行けるのはいいけど、せっちゃんと行くと必ず巻き添えで出禁になるのよね。まぁいいわ、離れたところにあるお店なら行くわ」
「じゃあお店じゃなくてうちの実家で」
「……せっちゃんのじっか……やだぁ……こわいのやだぁ……」
あ、だめだ、地雷踏んじゃった。
なるほど、実家の話はNGにしておきましょう。
久しぶりのよわよわ祥子さん。
刹那さんの実家の話するとこうなります。




