突然のラスボス戦
そう思っていた時期が私にもありました。
「縁ちゃんともちにゃん詰め合わせセット、それから家具と衣類を乗せた車が何者かに襲われたわ」
「大丈夫なんですか? 襲撃者」
「えぇ、縁ちゃんがぐっすり眠ってたから。だけど……命知らずなことに縁ちゃんを縛り上げてその映像をこちらに送ってきたわ。人質を無事に解放してほしければ公安が持っているすべての情報を明け渡せと」
なんてことを……縁ちゃんの幸せタイムを邪魔するなんて。
そんな自殺志願者を見捨てるわけにはいかないわ。
「場所はわかっているんですか?」
「今公安総出で探しているわ。第一級特異災害として警戒中、移動可能範囲を絞り避難警報を出しているところよ」
「そうですか……その範囲を少し広げてください。縁ちゃんが怒り狂ったら東京都内は壊滅します。その前に私と永久姉が止めに行きますが、それでも本気の縁ちゃん相手にどこまで太刀打ちできるか……」
「水臭いなぁせっちん、あたしも同行するよ!」
「私も微力ながらお手伝いさせていただきますよ刹那さん! というより、以前から一度縁さんとはやりあってみたかったんですよね!」
「うずめさん……クリスちゃん……」
あぁ、私は何ていい友を持ったのだろう。
うずめさんは抜けてるところがあるし、クリスちゃんは脳筋だけどそれでもいい人たちだわ。
「っ! まずいわせっちゃん! 縁ちゃんが目を覚ました!」
「リアルタイム映像ですか?」
「えぇ、ラグがあるとしても3秒ほど……」
「……残念ですが、誘拐犯たちを助けるのはあきらめましょう。もちにゃんに囲まれて幸せに眠っていたのに、起きたら縛られている。そんな状況で怒らないわけがありません」
「えぇ、今映像が途切れたわ。犯人たちの悲鳴と共にね」
「でもおかげで場所が特定できました。縁ちゃんの気配を追えばすぐにたどり着けます。クリスちゃん、うずめさん、ついてこられますね」
派手な爆発音が聞こえてきたから結構な近場だったのがわかるわ。
それに明鏡止水も合わせれば気配駄々洩れの縁ちゃんを見つけるのは簡単。
といっても明鏡止水になれたからであって、できるようになったばかりの頃だったら気配が強すぎてどこにいるか見つけるまで時間がかかったでしょうね。
まだ使ってないのにビリビリ気配感じるんだもの。
「誰に物言ってるんだいせっちん」
「余裕ですよ!」
「なら、祥子さんは家の中に避難を。地下5階なら安全だと思いますから」
「わかった、三人とも気を付けてね」
「はい!」
地面を強く踏みしめ、そして家々の屋根を蹴りながら気配の方向に突き進む。
トップギアで走り抜けたせいかソニックブームが発生、服が破れ足場にした家の瓦が吹き飛んで行く。
あとで補償しなければいけないけれど、今はそれどころじゃないわ。
「いた! 先制攻撃します!」
縁ちゃんに生半可な攻撃は無駄、ならば最初から全力の一撃を加えて眠らせる!
あの子は瞬間火力だけは誰にも負けないけれど継続戦闘能力に乏しい。
普段から1日1食というのも合わせて、とにかく電池切れが早い。
「カッ!」
全身の細胞からエネルギーを絞り出し、最大出力のビームを吐く。
縁ちゃんがいたのはどこかの倉庫、それだけはわかるが既に跡形もなく消し飛んだ後だ。
私の攻撃よりも先に、縁ちゃんの暴走によって。
恐らく目の前でもちにゃんグッズに何かされたのだろう。
だとすると怪しいのは配送業者、それとグッズを購入したお店か。
いや、今はそんなことどうでもいい。
問題は……。
「くそっ! 弾かれました!」
縁ちゃんが片手を突き出し、ビームをはたくことで地面に大穴をあける。
「ならあたしの本領発揮だね。クリスちゃん、合せて! 雨野式体恤五の型……」
「はい! バリツ99式……」
うずめさんの拳に炎が、クリスちゃんの左手に水が集まっていく。
「森羅炎天!」
「突撃杭!」
燃え盛る拳が縁ちゃんの脳天をとらえ、クリスちゃんの左手に集まっていた水が心臓部を貫く。
「……ぬるい」
「なっ!」
「うそ……!」
「二人とも避けて! はぁ!」
今縁ちゃんはたしかに人語を発した、ならばまだ完全に我を忘れたわけではない。
ならば言葉が通じるはず、一縷の望みをかけて全力のかかと落としを縁ちゃんに叩き込む。
「……刹姉」
「縁ちゃん落ち着いて! もちにゃんグッズなら古今東西の新品だけじゃない! 縁ちゃんの好みにカスタマイズしたオーダーメイド品も作ってもらう! それだけじゃなくて他のグッズもなんでも用意する! だから!」
今の私にできる精いっぱいの説得、これが通じなければ……その時は本気を出すしかないわ。
「え、ほんと? じゃあすぐに注文しよ」
「え、あ、はい」
……あれ? もっと大事になると思ってたんだけどなぁ。
ビームの大穴は日本の大地を貫いてそこが見えないし、うずめさんの燃えるパンチとクリスちゃんの水を使った何かは縁ちゃんの背後に多大なダメージを与えている。
かかと落としのダメージだって決して軽くなく、地面には無数の亀裂と陥没したりせり上がったりした大地が広がっている。
大災害の後みたいになっているけど……。
「あ、あの、縁ちゃん怒ってたんじゃないの?」
「え? すごく怒ってたよ」
「目の前でもちにゃんグッズに何かされた?」
「ナイフで引き裂かれた……可哀そうなもちにゃん、仇は討った」
「あ、やっちゃったのね……」
もしやと思って聞いてみたけれどやっぱり生存者はいないようね。
「でも一人、もちにゃんグッズに何もしなかった人がいた。その人は無事……だといいね」
背後を振り向きながら言う縁ちゃん。
……まぁ、この状況で生きてたらいいわね。
誘拐犯はもちにゃんグッズの中に何かしかけてないか確認するために縁ちゃんの前で一つずつナイフで引き裂いていきました。
同じ末路をたどりました。
クリスちゃんは生粋のシャーロキアンで、オリジナル戦闘術をバリツと名付けています。
裏表で108式まであって、気分で増えたり減ったり番号が変わったりします。
表はまぁ人(刹那さんレベルを指す)にぶっぱしても大丈夫なレベル、裏は刹那さんでも即死レベルの物がいっぱい揃ってます。
2人が技名を叫ぶのは理由があります。
うずめさん「これが現代の作法だとアニメで学んだ」
クリスちゃん「かっこいいは全てに勝る」
クリスちゃんについて詳しく知りたい方は「ルルイエ探偵事務所」をご覧ください(露骨な宣伝)。




