新築
なんということでしょう、あれほど磯臭かった家はヒノキのようなかぐわしい香りを漂わせる家に変貌。
トイレもお風呂も広く、キッチンに至っては荷重センサーで床がせり上がって背の低い祥子さんや縁ちゃんでも調理しやすいように。
私やクリスちゃん、うずめさんといった台のいらないメンバーの重量では反応しないようになっている素敵仕様。
ちなみに地面が体重計の役割を持っているのでちょっと太っても大丈夫と言われたときは祥子さんが運営さんをビンタしてた、幻の左で。
その辺の数値は私の持ってる端末で確認できるらしい。
あと個々人の体重が記録されているから複数人で乗っても祥子さんがいる場合は台が用意されるし、お客さんが来たら全身スキャンして台が必要か調べてくれるそうだ。
無駄にハイテク、どうやって3Dプリンターで作ったそれ。
寝室はどれもすっきりとした空間で、私が注文した部屋は図書館のように棚がずらりと並んだ奥にソファーとテーブル完備、ベッドは窓際に置かれ朝には自動的にカーテンを開けてくれるらしい。
縁ちゃんの部屋も注文通り8割がベッドという堕落空間、こぢんまりとした部屋だけど縁ちゃんが珍しく目を輝かせて喜んでいた。
あの子は猫気質だから狭い部屋の方がいいのよね。
なお本人が一番喜んでいたのはベッドの構造、部屋の隅っこに縁ちゃんがすっぽり収まるスペースがへこんでいて、そこに丸まって入り込めるというのだ。
あの鉄面皮の縁ちゃんが感涙するほどの出来栄え、当然クッション性も縁ちゃん好みのもので適度な硬さを持つのに包み込んでくれるような柔らかさを兼ね備えている。
祥子さんの部屋はお仕事にも集中できるように防音性に優れており、中でロッキーさん達のバンドユグドラシルがコンサート開いても音漏れしないようになっているほど。
試しに手持ちの機器で最大音量、具体的にはモモが泡吹くレベルの音でデスメタル流してみたけれど外では何も聞こえなかった。
部屋に入る時は聴覚遮断してたけど、肌で音が聞こえるほどだったわ。
うずめさんの部屋は広々としてて運動がしやすい部屋、ベッドの代りに畳のスペースが設けられていて布団で寝るもよし、フローリングの上に置かれたソファーベッドで寝るもよしの環境。
クリスちゃんは本人の希望で日当たりの悪い部屋、適度な湿度を保っているから過ごしやすいと本人は絶賛していたが、壁がコンクリうちなのは女の子の部屋としてどうなんだろうと思わないでもない。
いや、悪いとは言わないけれどわざわざそれを頼み込むのはどうなんだろうというのがね……。
趣があっていいとは思うんだけど、渋い趣味してるわよね。
お風呂は地下に用意されて、大浴場そのもの。
岩風呂にジャグジーにヒノキにと豪勢な作りだわ……。
「お気に召しましたか?」
「いいですね、注文通りです」
「それがこのマシーンの売りですから。図面と個人のデータから最高の環境を用意するというのがね」
「でも公安の人間としては危険物なので封印です」
「そんなー」
人間跡形もなく塵にしてしまう装置が何で通ると思っているのか、これがわからない。
完全犯罪し放題だし、戦争とかで使われたらとんでもない兵器になるわよこれ……。
戦車だろうが戦闘機だろうがビームの範囲にはいったら分解、動力は電気という超クリーンな兵器で相手に苦痛を与えない。
条約で禁止するのも難しいんじゃないかしら……あの手の条約って大量殺戮よりも人道に基づいている場合が多いから。
それにこの建築機材は何が恐ろしいって大量殺戮に向いていないという事。
都市丸ごと潰そうとしたら相応の電力が必要になるけれど、それってどのくらいかって言われたら都市の大きさにも比例するけれど東京丸ごとと仮定したら日本の発電総量よりも多いんじゃない?
家一軒なら範囲と出力絞っているからともかく、指数関数的に電力の消費も跳ね上がっていく類の道具よ。
あとヒヤリハットが発生しなくなるわ。
ヒヤリハットした瞬間死亡だから。
あぁ、でもごみ処理にはいいかも……。
いやだめだわ、アウトな方々が死体処理に使うわ。
「というわけで祥子さん」
「はい、公安権力によって差し押さえです」
「横暴な!」
「予算追加申請しておきますね」
「どうぞ持って行ってください!」
「はい、じゃあ今度からこういうの作ったらまっさきにせっちゃんに報告、連絡、相談」
「結構な頻度で色々作ってるから面倒なんですよね……」
「予算差し押さえしてもいいんですよ」
「ホウレンソウは大切ですね!」
運営さん……手のひらよく回るわね。
マリアンヌを作った人たちだけあって手首の潤滑油は高性能みたい。
「それで、仮にこれを一般的な建築とした場合金額はおいくらくらいになります?」
「電力消費と移送と人員派遣、それと今回はそちらで用意してもらいましたが図面をおこすのに必要な金額ですから……300万くらいですかね」
やすっ!
いや……主な部分が電力消費になるでしょうからかなりの金額だけど、それでも普通に家建てるよりも安いわ……。
「材料費とかは?」
「それ含めるならプラス100万くらいじゃないですかね」
「ふーむ、これが流行ったらリフォームが主流になると……なるほど」
「割と社会の消費バランスぶっ壊してますね」
「そうね、そういう観点で物事見られる人が欲しいところだわ。せっちゃん、知り合いにそういうの得意な人いたら教えてね」
「一会ちゃんと羽磨君、妹と弟ですけど数字には強いですね。ただ縁ちゃんや私、刀君と違って定職についているので……」
「お金で解決できないかしら」
「どうでしょう、役職持ちで会社の柱になっているので……」
「ふむ……掛け持ちしてもらえるならいいけれどちょっと交渉してみましょ」
うーん、だんだんこの家が伊皿木家に乗っ取られている気がするけどいいや。
家族は仲良く、ただし辰兄さんは立ち入り禁止。
女性が多いからね!
……羽磨君は無害な男の子だから大丈夫だと思うけど。
地上3階、地下5階の建築物。
なお地下5階はシェルターであると同時にロボットの格納庫、後日運営が運び込みますが公安に没収される模様。
法律関係は公安がごり押した。




