建築
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
運営さんが公安の護衛、この前修行に連れて行った桜庭さん達に連れられてやってきたのは翌日のこと。
これでも桜庭さん達強くなったのよ、あの山で鹿を狩れるくらいには。
ようやく捕食者側になれたわけで、人間相手なら素手で無双できるんじゃないかしら。
今なら銃弾くらいなら見てから回避できるでしょうし、ナイフは刃が通らないと思う。
ちょっと手合わせした感じではグレネードくらいなら耐えられるようになってると思ったわ。
トラックと衝突レベルの打撃打ち込んだら悶えて吐いてたからちょっと厳しいかもしれないけれど。
「この家を建て直せばいいんですね」
「予算と時間はどれくらいですか?」
「そうですねぇ……これなら30分でしょうか」
……家の話よね、プラモデルの話じゃないんだけれど。
「今回わが社がご紹介するのはこちら、住宅用3Dプリンターです!」
「3Dプリンターって……また随分な骨とう品ですね」
2000年代初頭に流行った技術だったかしら。
拳銃とか作れるくらいにはなったけれど、もっと精密なものを作ろうとしたら工場で削るなり押しつぶすなりした方がコスト的に安いという事で一般流通の範囲で技術が停滞してしまったと覚えている。
「過去のものは特殊樹脂を使っていましたが、これはなんと既存の物質であれば何でも成型できるのです! 例えば建築物なら一度建材を粉々にして再構成することでロスのない仕事ができます!」
「建築以外にも使い道はありそうですね」
「えぇ、もちろん。例えば工場で廃棄される金属の欠片を集めれば部品を作れますし、生ごみからフルコースを作ることもできます。なによりまだ研究段階ですが生物の肉体を作り替える事も可能! ……とはいえ大きく作り変えるとその過程でショック死してしまうので整形手術が精いっぱいですね」
……とりあえずボッシュートね。
手術痕も履歴も残らない整形手術ができる道具が世に出回ったら大惨事だわ。
「というわけでまずは家を分解しますが、貴重品やお気に入りの家具とか持ち出しました?」
「えぇ、といっても家具はほぼ全滅なので貴重品だけ」
「そうですか。では早速……ビーム照射!」
トラックの荷台に乗せられた巨大な何かから光線が射出される。
その光線を受けた家はさらさらと砂になって山となり積もっていった。
……これどういう原理なのかしら。
「あ! 伊皿木さん触れてはだめです!」
「え? あちっ」
思わず光線に手を伸ばしたら右手が指先から崩壊し始めた。
不思議と痛みはないけれど、徐々に崩壊が右腕を上っていく。
「今切り落とします!」
「あ、いえ大丈夫です」
ちょっと力を込めて、崩壊していく肉体を押しとどめる。
原理はよくわからないけれど分解しようとするならそれ以上の速度で修復すればいいだけ。
あとは地面に落ちている私の右腕だった塵を掴んで口に運ぶ。
……味はないわね、でもこれで大体理解できた。
この光線は原子結合をほどいているのね、光は演出で実態は音波かしら……触れた瞬間にビリっとしたわ。
舌触りが嫌に細かいし、無味無臭レベルまで肉体が分解されているのならそういう事なんでしょう。
「刹姉、超回復する?」
「んー、これくらいなら大丈夫よ」
崩壊した右腕からは不思議と血が流れていないので切断面の筋肉を動かして血管を破り血を出す。
そしてエネルギーに変換した血液で腕をかたどり、そしてエネルギーから肉体へ変換する。
「ま、こんなものね」
「おー、便利」
「超回復は疲れるしお腹減るのよね。これなら最低限の消費で抑えられるから縁ちゃんも覚えたら?」
「ん」
光線に手を伸ばし分解を途中で停止させて私と同じようにエネルギーを肉体に変換する。
さすが縁ちゃん、見ただけで一発成功とはお姉ちゃんとして鼻が高いわ。
「……伊皿木さんのご家庭は、随分と人間離れしていますね」
「よく言われます」
「っと、もういい頃合いですな。分解光線を停止、図面を読み込ませて再構成ビーム照射!」
先ほどまでとは違う青いビームが塵の山に向けて照射される。
同時に塵は形を変え、ゆっくりと家をかたどっていった。
「これ耐震構造とか大丈夫なんですか?」
「問題ありません。データ的には震度8でも問題なく、台風や竜巻が直撃しようと微動だにせず、トラックが突っ込んできても傷一つつかないようこちらが用意した素材も混ぜていますから」
「へぇ……それはもしかしてあの合金とか使ってます?」
「いぐざくとりー。うちで用意できるいろんな素材を混ぜ合わせて頑強でしなやか、更には木造建築のように冬は暖かく夏は涼しい家となるようにしましたので」
「それはありがたいですね」
祥子さんなんかは暑さに弱いから夏場はエアコンのきいた部屋で溶けてるし、縁ちゃんは寒さに弱いから冬場はこたつむりになっているもの。
「まだ実験段階ですが屋外の気温が40度を超えても室内は18度、逆に-30度の場合は室内が25度くらいになるように作られてます」
「エアコンメーカーが血涙流して恨むでしょうね」
「電力会社からも恨まれそうですが、この兵器……じゃなかった、建築機器は相当電力を喰うのでトントンですね」
「兵器って言いましたよね」
「言ってません」
「あとで報告書に書いておきますね」
「言ってません」
「というか私と縁ちゃんの腕だった塵も家に吸い込まれてるように見えるんですが」
「え? ……あ」
地面に落ちてた塵、微粒子のようなそれは当然風に舞うわけだけど家を作るにあたって微風が家に向かって吹いているのよ。
その結果私と縁ちゃんだったものが家に取り込まれていく。
「あー……ちょうど完成のタイミングで……」
「ふむ」
一発、完成した家を本気で殴ってみる。
トラックでは傷一つつかないなら、とりあえずミサイル並の威力で殴れば傷もつくでしょう。
そう考えてのことだったけれど壁に大きな亀裂が走る。
けれどその亀裂はすぐに修復されていった。
「傷が勝手に直る家……悪くないですね」
「計算外過ぎて何も言えません」
とりあえず、中に入ってみましょうか。
そして年始から何を書いてるか自分でもわからない話を投稿する。
違うんだ、SAN値が0通り越して-でカンストしてしまっただけなんだ。




