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 久しぶりの我が家、あぁ懐かしきかな……うずめさんは飲み足りないからと夜の街に消えていったので一人での帰宅。


「ただいまー!」


 元気よくドアを開けて家に入る。

 同時に、地獄に襲われた。


「ふぎゅっ!」


 得も言われぬ臭気、それが山籠もりで鋭敏化していた鼻を貫くと同時に目を穿った。

 食べ物系の匂いなら問題ない、生ごみでも大丈夫、だけどこの匂いは間違いなくそれらとは一線を画すなにかだ。

 よろよろと外に出て、モモ3世の背にもたれかかり精神を集中させる。

 肉体操作、とりあえず嗅覚を遮断して、次に痛覚を遮断する。

 よし、とりあえずこれで悪臭はどうにか対処できる。

 モモ3世がすごい表情で家を見ているけど、私がもたれかかっているから逃げるに逃げられない様子。


「クリスちゃん……なにがあったの」


 おぼつかない足取りで家の中に入るとそこには新たな地獄が待っていた。

 人魚という存在を知らない人は少ないと思う。

 アンデルセンの童話、人魚姫が有名で下半身が魚で上半身が人間のそれ。

 ゲームでは私も種族として選んでいたし、妲己の祠を目指し同伴してもらったプレイヤーの中には純正人魚なんかもいた。

 この人魚を人間と魚を足して割った存在として、その配分を5:5としよう。


 では人間6の魚4としたらどうなるか。

 答えは目の前にいた。

 目はぎょろりと大きく見開かれ、唇は厚く、顔の中央にパーツが集まりながら頭蓋骨が魚のごとく正面に突き出した形になっているそれ。

 そもそもの骨格が違うかのように立っていることもつらそうな足の曲がり方に、人間のそれと比べると巨大としか形容できない大きな手。

 いわゆる半魚人とでもいうべき存在がそこにいた。


「……その外見、アメリカのインスマスの方ですか?」


「あ、どうもおじゃましてます。クリスお嬢様の件でお話にお伺いさせていただいたのですがお留守だったようで、お嬢様が帰ってくるまでここで待ってていいと言ってくださいましたので」


「はぁ……」


 インスマス、アメリカのアーカムという街からバスで行ける港町。

 そこには彼のような半魚人としか形容できない姿の人間が何人も住んでいる。

 現地では風土病として考えられているらしく近年まで被差別対象となっていた歴史もある。

 とはいえ、様々な研究の結果遺伝的なものであり病気ではないという結論が出されて被差別対象から脱した、というのがアメリカの表向きの発表。

 実態はと言えば今も被差別対象になっている。

 一番の原因は見た目以上に体臭がきついこと、これは本当に申し訳ないのだけれど目と鼻を貫くレベルで近くにいると悶絶するレベル。


 私くらいなら開けた場所にいれば5㎞離れていても場所を特定できるレベル。

 具体的な臭いを言うなら、腐った魚の臭いを数百倍に濃縮した感じ。

 それを知っているからか、彼らはインスマスから出てくることはない。

 そんな人物が我が家に籠って何日たったのだろうか、先ほどの感覚からすれば壁も床も天井も、ありとあらゆる場所にその匂いが染みついているだろう。

 ……建て直しが必要かもしれないわね。

 この感覚が差別と言われたら否定できないけれど、問題視するならこの家買い取って住んでくれとしか言えない。


「えーと、今お茶出しますね」


「いえお構いなく。お嬢様の一件さえお話しさせていただければいいので」


「クリスちゃんの話ですか」


「はい、お嬢様の最近の状況をお聞きしつつ、必要とあればアメリカに連れ帰るように社長から言われています」


「社長……あぁ、フィリップスさん」


「はい、見たところ日夜ゲームに籠り家事は適当、掃除もまともにしない様子。奥様に一から鍛えなおしていただく必要があるかと思いまして」


 奥様……フィリップスさんの奥さんで、クリスちゃんのお母さん。

 長い耳と奇麗な金髪、そしてもうすぐ50歳というのが信じられないほどの美貌の持ち主。

 お名前はたしかマリアさんだったかしら。

 怒らせると怖い人筆頭ともいえるけれど、逆に言うなら自由奔放なクリスちゃんと、その上位互換のフィリップスさんを大人しくさせられる偉大な人物。

 前はどこかの国で巫女みたいなことをしていたらしいけれど、聞きなれない国だったわね……。


「うーん、連れ帰ってもらうのは無しじゃないんですけどね。でも勉強はちゃんとしてますし、成績は落としていないですよ。なにより本人の意思も重要だと思うんですが」


「その点に関しましてはまだ確認がとれておりません。のらりくらりと躱されて……」


「あぁ……クリスちゃんですしね」


「えぇ、お嬢様ですから」


「あ、あと一応公安のバイトしているのですぐにというのもちょっとあれですね」


「なるほど、ではそれらも踏まえて後程お嬢様のお話を聞くとしますか」


「そうですね。とりあえず……あぁ、今は勉強中みたい」


 VOTに繋がっている端末を確認すると授業中の表示、一応共有画面を開いてみれば確かにAIからあれこれと小難しい事を教えてもらっているみたい。

 えーと……数学かしら、なんかよくわからない数式がいっぱい並んでいるわ……。

 言語学は得意だけど理数系は苦手なのよ……なんちゃら賞受賞者インタビューとかのために勉強した事あるけど全部忘れたわ。


「これは何を勉強してるんでしょうね……」


「あぁ、これは非ユークリッド幾何学定理ですね。マイナーもいいところですが、お嬢様の立場であれば知っていても損はないでしょう」


「はぁ……」


「っと、もうすぐ授業が終わるようですね。台所をお借りしてもいいでしょうか」


「どうぞ」


「では、お茶をご用意させていただきます。先日お嬢様の許可を得てケーキも焼いたのでお茶菓子にどうぞ」


 ケーキかぁ……嗅覚遮断解除しないといけないわね。

 覚悟を決めて今から慣れておくとしましょう!

 えんっ!

悲報:クリスちゃん人間要素なかった。

ついでに刹那さんが身体機能の操作ができるようになった。

……ダブルブリッドみたいだな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 当たり前のように連れられてるモモさんよw
[一言]  ディープワン(推定)がお使いに来とる……(白目&痙攣)
[一言] お使いの人?がわりと常識人で草 そして「クリスちゃんだからねえ」で意見が一致するとか昔何があったんだw
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