一段落
5日目の朝、山頂までモモ3世の背中に乗っていった。
これくらいこもっていればそれなりに強くなっているだろう、というのがうずめさんのお言葉。
「総員おこーし」
山頂でラッパを吹き鳴らす、まず反応したのは自衛隊組。
さすがに慣れた曲が流れたらそうなるか。
続けて警察組がびくりと震えながら周囲を見渡し、スパイ組はこちらをちらりと見て二度寝を決め込もうとしたのでモモ3世に舐めさせた。
「全員起きたわね、それじゃあ今日は山を下りるので準備」
「「「「イエスマム!」」」」
「あいさー」
「まだ眠いっす……」
スパイ二人はなんというか、心が強いわね。
自衛隊組や警察組が弱いわけじゃなくて、スパイ二人が異常に強い。
世間でいうところの鋼鉄、あるいは想像しうる限りの硬い金属類が4人だとするならスパイ二人は化けオン運営が作る合金レベルの硬さ。
正直な話、この山で5日もサバイバルできただけで精神力おばけだと思う。
私が修行していた間のことになるけど、夜中になると声が聞こえるのよ。
「力が欲しいか」
「誰もお前を愛さない」
「黙れ小僧」
「エムチキください」
「パンツ何色?」
とまぁこんな感じの内容、つまり無意味な問いがね。
これがどういうものかというと、霊峰というだけあって幽霊が沢山いるという事。
その中でもそれなりに力を持っている霊が語り掛けてきて、あわよくばその肉体を乗っ取ろうとしている。
私みたいな霊に耐性がある人間はまだしも彼らみたいな一般人にとっては結構なストレスだったと思う。
毎日朝確認に行くたびに「夜中に幻聴が……」と誰かしら言っていたので都度お祓いしてたけどなかなかしつこかったわね。
具体的にはカレー鍋の底の焦げくらいしつこかった。
そんなことを思い返している間に全員撤収準備ができたようだ。
「……荷物が軽い?」
「おかしいな……少なくとも1人辺り100㎏はあってもいいはずなんだが」
警察官組が首をかしげながらも荷物を担ぎ、そして首をかしげている。
100㎏なんて、そんなの綿と大した差はないじゃない。
「この山には仙気って言うのが充満しててねぇ」
唐突に語りだしたうずめさん、その様子は何か面白い物を見るかのようだ。
「わかりやすく言うと仙人だよ。その気を取り込みまくった君たち6人は仙人に等しい力を得るに至った……奇しくも、せっちんのお仕事関連で人間を遺伝子操作で進化させようとした結果に自然界の力で行きついたという事さ」
「仙人……俺ら、人間辞めたんすか?」
「スパイ君! なかなかの慧眼だ! けれど残念ながらまだ人間の範疇、殺せば死ぬし寿命が延びたわけでもない、ここから厳しい修行を経て初めて仙人の境地にいたり、そして寿命から解放されるだろう。けどそれは望んでいないと思うからギリギリのラインを攻めてみたよ」
「はぁ……ちなみに力が強くなっただけなんてことはないですよね」
「んー、まだ途上段階だけど拳銃程度なら無効化できるかな。対物ライフルは無理だけど」
「それは既に人間じゃないっす」
「え? 拳銃くらいじゃ人は死なないんじゃない?」
「あ、伊皿木さんは既に人間と思ってないんで黙っててください」
……いい度胸ねスパイ1号。
「ちなみにせっちんは対物ライフルで撃たれたらどうなる?」
「昔は内臓がずたずたになって3日ご飯食べられなかったですね。今なら……3分で治るんじゃないですか?」
「貫通しないに1票」
「そもそも皮膚で弾丸が止まるに一票」
「その前に見てから回避するに一票」
「なぜか狙撃手が死んで発射されないに一票」
「受け止めたうえで狙撃手に投げ返すに一票」
「撃たれたことに気づかず歩き去るに一票」
「「「「「それだ!」」」」」
「あんたらまた源泉浴したいのね」
なぜか大喜利を始めた6人、修行も終わりという事で元気になっているみたいだけど……一度絞めなおした方がいいかもしれないわ。
「まぁどれも正解なんだけどね。たぶんせっちんなら対物ライフルくらいなら撃たれたことも気づかないで歩き去ると思う」
うずめさんまで!
私そこまで鈍くないのに……撃たれる前に気配察知くらい余裕ですよ。
「ちなみにだけどそこのスパイ二人を捕まえた女の子は狙撃ポイントに先回りしているタイプです。私の自慢の妹」
「あの子はなんか色々おかしいよね」
「正直私でも勝てない相手です。面倒だから試合すっぽかして不戦勝というオチになるか、あるいは前日に倒されて不戦敗になります」
「たぶんあたしが見てきた中で一番人間離れしているのがあの子なのよね……せっちんも大概だけど、まだ4番手くらいかな」
うずめさんの言葉と同時に6人の顔が引きつる。
なんか、表情から相手の意思を読み取るって言うの今ならできてる気がする。
その心はおそらくだけど「これよりも上が三人もいるのか……」かしらね。
源泉浴ね。
強化しすぎたんだ……。




