山の主
モモ3世を飼うことになったので色々手続きしながら修行は順調に進んだ。
面倒だから6人を山頂に置いてきた。
一番やばいのが山頂だけど、そこを根城にしていた主をサクッと狩って安全確保。
その後私とうずめさん、そして地元の猟師さんたちにお願いして周辺の安全確保をして数日。
気が付けば私が山を歩いていると動物たちが木の実を差し入れしてくれるようになった。
そのうちエスカレートしていって焚火の中に飛び込もうとするウサギとか出てきたし、どの動物もお辞儀のようなしぐさを見せるようになってきた。
「せっちんすっかり山の主だね」
「正直、困ります……」
「この山は国有地だけどせっちんが頼めば売ってもらえるんじゃないかな。ただしくはあたしと知人たちの共同資産だったんだけど国が危険だと判断して買い上げてくれたの」
「それを私個人に売ってくれますか?」
「せっちんなら平気でしょ、管理するならね」
「する気ないので買いません。あぁでも立ち入り許可は欲しいですね、地元の猟師さんたちはその辺許可貰ったうえで狩猟してるみたいなんで」
「あたしももってるよ、だからせっちん連れてこられたし修行に使えるんだ」
「それあると便利ですよねぇ、基本的にこの山でとれるものは採取し放題ですし」
「この村で持ってない人いないしねぇ」
「まさか子供が半袖半ズボンで登って虫を探しているとは思いませんでした」
あのね、子供がサソリ片手にカブトムシと虫相撲させてたのはびっくりした。
サソリの針がカブトムシの装甲を貫かんとし、鋏で捕獲するもカブトムシに両断されてたわ。
なんで日本にヘラクレスオオカブトがいるのかしら……あれの幼虫は美味しいんだけど成虫は食べたことないのよね。
あ、さなぎは中がクリーミーで美味しかった。
「そういえばあとどのくらいで上の人達の修行終わります? そろそろ食料尽きると思いますよ」
「まだ2日だよ? 一般人なら2週間分の食料置いてきてあるし大丈夫でしょ」
「え? あれで2週間?」
おかしいな……山頂に置き去りにするにあたって置いてきた食糧はざっくり2t、そんなのおやつ含めたら1日でなくなる量なのに……成人男性6人がそれで2週間も持つとは思えないわ。
「せっちん、いいこと教えてあげる。普通の人は1日3kgも食べたら多い方よ」
「そんな……たった3㎏でお腹いっぱいになれるんですか⁉ そんなの胃袋絞って胃液を最低限まで減らしても1食分です!」
「うん、普通の人は内臓を意図的に収縮できないし胃液の分泌量操作とかできないというのも付け加えるね」
「カロリーが足りなくなると人間狂暴になるのに……」
「共食いするレベルじゃないし、山頂の気候は穏やかだから平気でしょ」
そう、この山なぜか山頂だけは平和なのだ。
寄生虫をはじめとした有害な生物の棲まない澄んだ水、煮沸無しでも飲める清水があり傍らには桜の木。
年中花をつけ、そして村まで届くほどの花吹雪を散らしている異常な木だが気候は春そのもの。
温かく、夜寝るときは少し厚手の寝具でないと肌寒い程度の環境。
獰猛な獣すらもそこでは争いを避けるというが、この山では被食者にすぎない彼らがいたら花見のおやつにされてしまうだろう。
故に警戒していたのだけど、私が山の主と認められたうえで彼らに匂いがついているのか最近は妙なちょっかいもない。
ちょっと前は熊とか鹿とかライオンとかが山頂目指していたんだけどね。
「先代山の主ってどうしてるんですかね」
ふと、気になったので聞いてみた。
たしかこの山の主は虎だったはず、前回修行に来た時に聞いた。
「先代はこの前せっちんが焼き払ったよ。襲ってきた一団にいた」
「え?」
「えーと、先代は象でその前は熊、その前がライオンでさらに前……この頃がせっちんが修行してた時かな。その時が虎だったはず」
「代替わり激しすぎません?」
「そんなもんよ。この山は獣たちの戦場であると同時に楽園だからね」
「楽園……」
「弱肉強食を地で行く土地だからね、人間の管理とか無いから」
「でも猟師さんは?」
「あれも自然の摂理、人間だって所詮はちょっと賢いだけの獣だもの」
「なるほど、人間が長らく忘れていた部分ですねそれ」
「そうそう、人間だけが神を持つ、科学を武器にするのは人間だけ、そんな時代もあったけれど今じゃ獣の方が神に近しい存在になってるからね。昨今の人間は自分たちも自然の摂理の中にいるという事を忘れすぎだよ」
「まぁそれでも自然の中で生きる人って言うのは結構いますよね。この村だってそうですし」
「まぁねー。ただそうじゃない人数が圧倒的すぎてさぁ」
それはたしかによく思う。
勤めていたころは食事も漫然と食べ物を口に運ぶだけという人を見てきた。
そこに食材となった生き物への感謝はかけらもなく、ただ当たり前のようにソレを口にしている。
食事ではない、餌を貪るだけの姿に嫌悪した。
それでも仕事を続けていたのは海外のロケなどでは感謝の気持ちを込めた食事というものを実際に見て、共に体験して、そうして同じ光景を見る事が出来たから。
なんというべきか……私は身体能力とか差し置いても精神面で人と離れすぎていると感じる事は多かった。
けど自然と調和している人達と一緒にいると、なんとなくだけど同じ輪の中にいるような気になれたのよね。
そのためにマイナー言語の勉強もしたし、メジャー言語は一通り覚えた。
気が付けばジャーナリストとしてそれなりの名声を得て、独立した今でも各国から挨拶の手紙やメールが届くようになった。
うん、そう考えるとあれだね。
異常なのは私じゃなくて今の人間社会じゃないかな?
「せっちん、あたしさ表情の変化からその人がだいたい何考えているかわかるんだよね。武芸ってお客さんの顔色とかも見るから」
「はぁ」
「せっちん自分よりも人間社会の方が異常とか考えてたかもしれないけど、せっちんは単体で見ても十分異常な存在だからはき違えないようにね。あたし、少なくともせっちんの事人間として見てないから」
なんでぇー?
猪突猛進ガール、刹那さん。
ノットニンニンイエスジャキンジャキンレッツビーム。




