人間ってなんだっけ
やらかした……特訓二日目、私達は現地の猟師さんと一緒に比較的安全なルートで山を周ることにしていた。
うずめさん曰く、この山はある種の霊峰だからその場にいるだけでも修行としては十分な効果がみられるという話だった。
その力は山頂に近づくほど強くなるという事で、村にいても効果はあるがせっかくだから登ろうという話になったのだ。
その最中見つけた源泉地帯、そこに飛び込んで300度のちょっと熱いお風呂を着衣のまま楽しんだまでは良かった。
問題はその後、私達は相当運が悪かったのか、あるいは一般人6人もいたことで上質なエサと思われてしまったのか、猛獣たちに囲まれたのだ。
熊が10頭、推定体重500㎏。
虎が17頭にライオンが6頭、ゾウが8頭とまぁ一般人である6人にとっては絶望的な状況。
「ははっ……遺書、母さんに届くといいなぁ」
「俺、帰ったら結婚しようとか言ってきたの間違いだったのかな……」
「……………………」
「ナマケモノは死を覚悟するとせめて痛くないように力を抜くと聞くけど、納得したよ……」
「つーか生態系おかしくね?」
「なんだこの山」
スパイ二人は割と余裕ね。
「はいはい、みんな下がって。猟師さんはその6人がパニック起こして逃げ回らないように見ててもらえます?」
「おん? 嬢ちゃんが相手するのか? 俺もやれるが」
「いやぁ、これ倒す間に逃げ回られてウサギのエサになってても困るので」
「なるほどなぁ。うっし、こっちは任せろ」
「はい、お任せしますね」
さてと……ここの獣たちは強い。
それこそゲームで出会うモンスターなんかが被食者になるくらいには強い。
ある種のボスラッシュに近いし、明鏡止水でないと動きをとらえられないほどだ。
故に、両手の爪を立てて皮膚を裂く。
「くらいなさい! 拡散ビーム!」
腕から滴る血を媒介に前方扇状にビーム掃射。
虎とライオンは跳びはねる事でそれを避けたけどゾウと熊は逃げきれず傷を負う。
とはいえ、致命傷を受けた熊はいないし象も厚い皮膚によってその攻撃を受け止めた。
……一頭だけ、熊なんだけどダンスみたいな動きで全部回避したのがいたわ。
あれ気に入ったわ、うちで飼えないかしら。
「……あの人改造人間か何か?」
「化け物ってのは知ってたけどさ、話半分だったわ」
よし、スパイ二人あとで源泉掛け流し。
「空中ならば避けられまい!」
空に向かって再び拡散ビーム、しかし虎もライオンも空中を蹴って立体起動して回避……うずめさん?
この山の生態系おかしいって言いましたけど、それ以上に棲んでる動物は本当にまともな動物なんでしょうか……。
「おのれ小癪な……ならば避けられないようにするまでのこと!」
両腕を掲げた瞬間だった、一頭の虎が空中を駆け私の右腕を食いちぎった。
「伊皿木さん!」
「嬢ちゃん! 早く源泉に飛び込め!」
「いいえ、狙い通りよ」
腕を食いちぎった虎を蹴り飛ばし、猛獣たちのど真ん中に突っ込ませる。
「起爆!」
血の線で繋がった腕、そこに残っていた血液や汗など全ての体液をエネルギーに変換。
ついでにその肉や骨もエネルギーに変えてしまう。
最近ね、化けオン運営特製ダイエット薬のおかげで肉体そのものもエネルギーにできるようになったし、逆に太陽光とかからエネルギーを摂取できるようにもなった。
端的に言えば光合成もできるようになった。
そしてさらにさらに、失った右腕から滴る血をエネルギーに変換して形どる。
ビームでできた右腕の完成、とこのようにエネルギーを意のままに操れるようになった。
ゆくゆくは全身エネルギーにした状態での行動とかもできたら面白そうだけど、使い道がないからやらない。
「さぁ、絶滅タイムよ」
爆散した右腕、その爆風の中でも生き残っていた個体に向かって光の右手を伸ばしつつ、左手からはビームを掃射。
そうこうしている間に残りは熊一頭になった。
「くぅん……」
けど、その熊もお腹見せて降参のポーズ……さっきダンスでビーム避けてた子よねこれ。
頭もいいみたいだし、戦闘力も申し分ない……うん、やっぱり飼うか。
「あなた、うちの子になる?」
「がう!」
「よし、じゃああなたの名前は今後モリブデン・モーリス3世! 略してモモ3世よ!」
「……がう」
なんか元気なくなったけどいいや。
あとは右手をエネルギーから肉体に変質させて……よし、元通り。
「お待たせしました。そんじゃ肉運びます?」
「おう、なかなか珍しい戦い方だな。今度教えてくれよ!」
「いいですよ。あ、ゾウと熊はここで食べていきますか」
「そうだな、肝だけでも結構な量になるぞ」
いやぁ、波乱万丈な修行だなぁ。
「……人間の定義ってなんだっけ」
「それに言及すると方々からバッシングされるかもしれんから黙っておく」
「さよか、だが俺はあの人を人間と認めたくない」
「奇遇だな、俺もだよ」
「とりあえず人間の定義に戻るが、少なくとも人間はビーム撃てないし食いちぎられた腕をなんの治療も無しに再生させることはできない」
「それは違いない」
……スパイ二人にはちょっとお仕置きが必要かもしれないわね。
Q.爆発の範囲狭くない?
A.刹那さんが調節した、おかげで爆発の範囲内は超高温になった




